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RPGデバッガー  作者: 白雪ひめ
東海地方編
27/65

bunny

 MAPは欠けたパズルのピースの様な日本地図をしていた。


 マップの位置を目指して、俺は真っ暗な闇を夢中で走った。

 往復で計算すると、そこまで時間がある訳じゃない。

 一足に山を降り、北東へ向かう。

 途中で赤くバグのターゲットを感じたが、俺はシロから言われた通り、とにかく走って振り切った。


 田んぼの畦道を走り続け、光の中へ飛び込む。

 すると、急に目の前に湖が現れた。

 白い文字が視界に降りてくる。



 ー 天鏡湖 ー



 月光が湖面に反射して、キラキラと光っている。

 剣を通してユメが言った。


「とても綺麗です」

「あ、ユメも思った?」

「はい!」


 左手に湖が広がる、湖畔の道を走り、遂にマップのピンの場所に辿り着く。

 木々の中にひっそりと立っているそれは、見覚えがあった。


 黒いシックな木製の外壁に、赤い文字で「bunny」と看板が掛けられている。


「‥‥bunnyってチェーン店なんだ」


 ユメが答える。


「世界に3つあります。期間限定のイベントなどは特定の時期にしか売られていないので、こまめにチェックするのがポイントです」


 周囲を見ても、bunnyしか無い。


「あれ‥‥おかしいな」


 視界の左上にビックリマークがある。

 タップすると、メールの画面が開き、シロからメールが来ていた。


ーーーーーーーーーーー


省略したけど、まずbunnyで「ミントの洞窟」の情報を聞いて。レアダンジョンだから、毎回現れる場所が違う


ーーーーーーーーーーー


「なるほど」


 俺は木の扉を押し、bunnyに入ってみた。

 カランカラン、と鈴が音を立てる。

 スロージャズと少し冷えた空気が出迎えた。

 

「いらっしゃい」


 カウンターのママは、鮮やかな唐紅の中華服を着ていた。パツパツの服は身体の線をハッキリとさせて、目のやり場に困る。


 というか、細い目のクッキリしたアジアン風の顔には見覚えがある。


「あれ?同じ人?」


 俺が呟くと、NPCは臨機応変に答えた。


「あの子は妹。あたしが長女よ。3人姉妹でbunnyは3つあるわ」

「あ、そうなんですね」

「ま、本物が一人で、あとはドッペルゲンガーって都市伝説もあるみたいだけど」


 ウインクしてくる。

 俺は困って、おずおずと会釈で応えた。

 バーのママはニコリと笑い、溌剌と言う。


可爱クァ アイ!それで、ご用件は?」


 本当にちゃんと中国人設定らしい。

 っていうか、AIにしては表情も雰囲気も柔らかい気がする。

 そう、ユメみたいな。


新規ビギナーさん?それなら、難易度はeasyの方が良いわ」


 バーのママはレジの様なものをタンタン、とリズム良くタイプして何かを打ち込んで言う。


「12件の適性情報が出たわ。一覧で見てみる?」


 気のせいか。


「いえ、知りたい情報は決まっています。「ミントの洞窟」について、なんですけど」

「それなら、青キューブ7個で開示できるわ」

「‥あ、金無い‥‥すみません、その‥お金がないので、出直します」


 俺は馬鹿か。

 バーママは微笑む。カウンターに頬杖をつき、気だるげに言った。


「特別に〜後払いでも良いよ?トイチになるけどね」

「え、本当ですか?」

「うん。じゃ、ここに署名して」

 

 イチ、と署名をすると、バーのママは反対側から隣の欄に署名をした。


ーーーーーーーーーー


 《李文》


ーーーーーーーーーー


 NPCにも名前があるんだな。

 俺は興味が湧いてたずねてみた。


「あの‥なんて読むんですか?」


 バーのママは笑った。


「どうしてそんな事聞くの?関係ないでしょ」

「あ、すみません。ちょっと知りたくなって‥中国語、ぜんぜん読めないので」

「ふぅん。あたしの名前を知りたいの?それとも、中国語?」

「両方です」

「どうして気になるの?」


 問われ、俺は改めて考えてみる。


「分かりません。でも、あなた達NPCも人という感じがするんです。だから名前が知りたいと思いました。名前を知った方が、身近に感じるし、呼びやすいし、話しやすいです」


 バーのママは俺をじっと見て、ふっと笑った。中国服のくびれに手を当てて言う。


「なるほどね。面白い。あたしの名前はリーウェン。極秘だから、バラしちゃダメよ?」

「え、極秘なんですか」

「ええ。情報屋っていうのは耳が早いからね、あなたがバラせば直ぐヤバい奴らを派遣して殺しに行くから」

「い、言いません。絶対に」


 リーウェンは真っ赤な唇を片方だけ釣り上げて微笑む。

 カウンターに肘をついて指を差した。


「ここから真っ直ぐ北西に2キロ。湖に潜って、その壁側に洞窟があるわよ」

「分かりました!ありがとうございます!」


 リーウェンはひらひらと手を振って言った。


「bunnyは情報の買取りもしているから、ご贔屓に〜」


 俺たちはbunnyを出て、教えられた方向へ走った。


「ユメ、北西から2キロってこの辺?」

「はい。そこにある、木の橋の裏側から湖に潜ってみて下さい」

「了解」


 俺はブーツを脱ぎ、思い切って、そのままドボンと湖に入った。頭を浸けて、潜る。

 壁の所に、ぽっかりと穴が空いていた。

 そこへ両手を掻いてバタ足で進んでいく。


 息が苦しくてビックリした。

 HPゲージがじわじわと減っていく。


 嘘だろ。


 俺は急遽コートとズボンを脱いで仕舞い、身を軽くして、穴の中を泳いだ。

 少しずつ、遠くにある丸い光が大きくなってくる。

 光の先は、何も無かった。

 前のめりに、俺は頭から落下する。

 高さはそれほど無く、地面も土の柔らかい感触があった。

 ダメージは無い。

 身体を起こすと、そこはミントが生い茂る、小さな草原みたいな空間だった。

 ハッカの爽やかな、そよ風の様な匂いが全身を包み込む。


 装備を着用し、薬を飲んでHPを回復させてから、俺は探索するために周囲を歩き出した。


 進むと、ミントの葉の隙間から、何かが飛び出してきた。

 慌てて飛び退く。

 ミントの葉の間でキラキラ輝きを放つそれは、小さな透明のウサギだった。

 赤、青、黄色、白、カラフルなウサギ達が、ひょんひょん、と飛び跳ねている。


 【Candy bunny】と表示された。


 可愛い。

 キャンディーバニーは、俺が手で触れる場所にいても、攻撃はして来ない。

 俺から攻撃を仕掛けないと、戦闘にならないようだ。

 俺は手前にいた、黄色の【Candy bunny】に向かって、剣で切り付けた。


「スラッシュ!」


 ウサギは俺の攻撃を躱し、ジャンプして俺に突撃してくる。素早い攻撃に対応できず、まともに突進を喰らうが、ほとんどダメージは無い。

 だが、ウサギはぶつかった拍子に体が砕けて壊れてしまった。

 壊れてしまうと、経験値も手に入らないし、ドロップアイテムも得られない様だ。

 スキルも使うだけで壊れてしまう。

 おそらく、躱しながら通常攻撃で倒すしか無いのだろう。


 俺はうさぎの挙動を予測し、軽いステップを踏みながら、流れるように剣を振った。

 攻撃を与えられない場合は回避に徹し、隙を狙って背後から掬うように切る。

 割と硬くてHPは削れない。

 criticalが入ると、一度に大ダメージを与えられる。

 丁寧に、深く踏み込んで剣を突き出す。

 一回一回の動きを強く集中するとダメージが少しずつ与えられる。


 ついにCandy bunnyのHPゲージが赤になり、俺は右斜め上から素早く切り伏せてフィニッシュを決めた。

 うさぎは010101‥という数字の羅列に変わり、渦を巻いて、一個のキューブになる。

 さらに、キューブの横に、小包の典型的なキャンディーが転がっていた。

 触れて、ポーチにスライドしてキャンディーを仕舞ってから、メニューを通してアイテムを確認した。


 回復アイテム:バニードロップ(レモン)

 性能:HPを一時的に上昇させる


 なるほど。味によって効果が違うらしい。

 俺は最初は苦戦したものの、コツを掴んでうさぎを倒しまくった。


 赤が攻撃力、青が防御力、黄色がHPで、白がスピード、桃色がラック。


 一個使ってみたが、重複しては使えないらしい。

 あと、噛み砕くと効果は終わってしまう。


 シロの言っていた通り、一匹当たりの経験値が高い。

 どんどんレベルアップする。

 通常攻撃だけでも、ダメージは十分与えられる。

 頼るのはスキルではなく、自分の身体能力と観察眼だという事を、俺は改めて学んだ。


 時刻は0時2分。


 俺は鞄をバニードロップで一杯にして、ミントの洞窟を出た。

 少しシロにも分けてあげよう。

 そんな呑気なことを思っていると、ユメが武器のまま訊ねてきた。


「イチ、ヒイラギを説得する方法は、何かありますか?このままでは、難しいのではありませんか?」

「心配してくれるの?」

「はい、私はイチのマニュアルですよ」


 俺は言った。


「考えはさっき思い付いた」

 

 上手くいくかは分からないけど、試してみるしか無い。

 

「なぁ、応援してくれよ」


 腰に下げた剣が震える。

 ユメはいっぱく遅れ、声を張って言った。


「ふれー!ふれー!いちー!」


 俺は気合いを入れて、暗闇の中を走り出した。


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