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RPGデバッガー  作者: 白雪ひめ
東海地方編
26/65

大アルカナ「力」

 ✳︎訂正 佐々木ゆめ→柊ゆめ 


 俺はベッドの上で、ハッと目を覚ました。


 否。

 ロードした。


 濃い木目の天井。少し埃くさくて、周囲には棚があり、ダンボールやアウトドアグッズが積まれている。


 物置古屋だ。


 隣には、すやすや眠っているユメがいる。


 セーブデータ3 は富士山の山小屋。


 それも、418I'm a teapotじゃなく、410goneの前夜だ。


 俺は額に拳を当て、考えた。

 今から何をすべきだ?

 どうしてロードしたんだっけ。

 そうだ、ヒイラギとツクモが争ったからだ。

 それで、黒いコートの死神が現れて、ヒイラギを一撃で殺して‥‥


 あの死神は何だったんだ?

 俺はどうしたら、あの状況を回避できる?

 少なくとも、俺がツクモにヒイラギの事をバラした選択は間違っていたんだ。


 俺は手で顔を覆った。


 最悪だ。ツクモは悪くない。俺が‥曖昧な態度をとって、ヒイラギを裏切るような行為をしてしまったからだ。

 じゃあ、どうしたら‥

  

「イチ、どうかしましたか?」


 ユメが寝返りを打って、俺を大きな猫目でじっと見ていた。

 余りに可愛くて、癒される。


「‥‥ロードしたんだ」


 ユメは丸い目を更に丸くした。


「そうなのですね。どんな事があったのですか?」


 俺は一つずつ説明し、冷静になっていった。


「一度、シロの占いを聞こう。シロの占いは正確だ」


 最後にシロに占われたのは、《逆位置の正義》


 アンバランスというのは間違いなく、ヒイラギとツクモのことだった。

 俺はツクモに寄りすぎていた。

 どっちが正しいとかの以前に、ヒイラギの事を知らなすぎた。

 だから、選択肢は3つあったのに、アンロック出来なかったんだ。

 

 簡単なパッシブスキルでも、今まで全て未来を言い当てている。

 シロの占いは強い。

 だから、利用すべきだ。


「‥俺は‥ハッピーエンドは難しいけど、せめて皆んなが納得できる形の未来を目指したい」

 

 いつしか芽生えていた感情だった。

 歪んだ正義感、使命感、だとは分かっている。でも、今は俺にしか出来ない事だ。

 だからこそ、今はそう思う事を自分に許したい。


「俺の力‥いや、ユメの力はそのためにある気がするんだ」


 俺が何とはなしに呟くと、ユメがコクリと頷いた。


 俺はメニューを開いて、視覚の左上に表示される時刻を確認する。

 

 20時03分。


 一回目は到着が早かったから、割と早く寝てしまったんだな。

 

 そして俺はハッとした。


「そうか。二回目は到着が遅くて、ヒイラギに会ってる」


 確か‥‥夜中に目が覚めて散歩をしたんだ。ちょうど1時だった。

 運命が変わってなければ、1時にあそこに行けばヒイラギに会える!

 まだ大分時間はある。

 少し作戦を練って、占いで様子を見て考えよう。


 俺は起き上がり、物置部屋から出て短い廊下を進む。

 窓から月光が差し込んで、綺麗だ。古い木の廊下はミシリと音を立てて、それが少し怖かった。


 突き当たりに階段があり、角度が急な階段を慎重に上ると、屋根裏部屋の小さな扉がある。


 俺はノックしようとして、内側から「なにー?」とシロの声が先に答えた。


「あ、少し話がしたいんだけど、今、大丈夫?」


 ガタリ、と木の扉がスライドして開く。

 シロが顔を出して言う。


「いいよ」


 屋根裏部屋に入る。

 ベッドを叩かれて、ベッドに座れ、と言われた。

 靴を脱ぎ、シロの隣に胡座を掻いて座る。


 天井の窓から月光が差し込んで、幻想的な空間になっていた。

 天窓を見上げると、星々が見える。

 シロのすっとした白髪のショートカットが月明かりで妖精のように光って見えた。


「なんで分かったの?」


 俺が問うと、シロはこちらを見た。

 真っ直ぐな切長の瞳。

 シロは片膝を立て、ピアスを弄りながら答えた。


「気配。この世界にいると、野生の勘みたいなのが鍛えられるの。階段の僅かな軋みが聞こえた。それで?」


 このロード線のシロは、ユメの能力を知らないはずだ。

 俺は考えて、一からユメの能力を説明し、事の経緯を話した。

 シロは驚いた顔をした後、俺を見て言った。


「君の事は信じてないけど、ツクモの事は信じてるし、ま、助けられた恩もあるし」

「恩?」

「だから、助けてくれたから。信じるのは無償だし、言ってることが本当だって聞いてあげるよ」


 そうか、このロード線じゃ、俺はススキノ高原でシロを助けている。

 正直、無駄な行為だと思っていた。

 でもまさか、自分の行動に助けられるとは思わなかった。


 俺は言ってみた。


「パッシブの方の占いって、もう使っちゃった?」

「いや?」


 シロがニヤリと笑う。


「占って欲しいの?」


 俺は頷く。


「頼む」


 シロが人差し指を立てた。


「一つ条件がある」

「え、今恩があるって言ったのに」

「嫌なら占わない」

「お願いします。何ですか?」


 シロはベッドに座り、足を組んで言った。


「ツクモにはさ、いい子って思われたいからさー、その、もしあんたが何度もロードしてボクの無様な所とか、性格悪い所を見ても、ツクモに何も言わないでよ?」


 予想外の条件で、俺は思わず微笑みそうになるのを堪えて頷いた。


「分かった。約束するよ」


「で、何を占いたいの?」

「俺の未来。俺は、今からヒイラギと話して、ヒイラギの事を知って、それで、ツクモに‥ヒイラギは悪い奴じゃないって‥」

「ヒイラギが悪い奴じゃないってソースは?そんなの分からないじゃん」

「それを話して聞いてみるんだ」

「だから、それを話してくれないでしょ、今のままじゃ。前と何も変わってないんだから」

「‥‥たしかに」


 小学生相手に完全に論破されて俺は肩を落とした。

 そうだよな、そんな都合よく行く訳ない。


 シロが言った。


「ボクは何百回と占いをしているから分かるけど、相手を知りたい時はその相手について占うのが定石だよ」

「そうなんだ」

「うん。で、話をするんじゃなくて、駆け引きをするんだ」

「駆け引き?」

「そう。シンプルにヒイラギを揺さぶるのがベストだよ。だから弱みを知らなきゃいけない。情報ではなく、性格でも良い。ツクモは頭が良いから、言葉で相手を揺さぶれる。ま、君にそれが出来るかは分からないけど」


 シロが意地悪く笑う。

 でも、俺にヒントをくれている。

 俺は身を乗り出して言った。


「‥やってみる。占ってくれ」


 シロはタロットカードをサッと広げて俺の前に差し出す。


「ヒイラギの事を考えながら、一枚選んで」


 俺は一枚引いた。


「裏返して見て」

 

 反対になっていて、よく見えない。

 俺は上下を戻して確認した。

 

 人間と、ライオンがいる。

 人間はライオンを撫でている。


 strength


「‥力‥?」

「大アルカナ、《力》の逆位置。へぇ、意外」

「逆位置の力?意味は?」

「勇気の無さ、恐れ、自己嫌悪、弱さ」


 俺は繰り返した。


「‥勇気の無さ、恐れ、自己嫌悪、弱さ‥どれもヒイラギの性格とは正反対みたいだけど」

「ボクの占いは百発百中。当たってないって言うのは、分からなかったから確認しようが無かった場合だ」

「うん。知ってる。シロの占いはとても正確で、頼りになる」


 シロが唇を上げて微笑んだ。

 そして言う。


「ヒイラギはさ、ちょっとチグハグなんだよ。急に哲学語り始めたり、そうかと思えば、みんなに合わせて俗っぽい話をしたり。ボクは今の占いでピンと来た。自分が曖昧なんだよ。リーダーの自分、正義マンの自分、凶暴な自分、ツクモに殺しをさせるような性格悪い自分。みんなに合わせる臆病な自分。そういう性格が、纏まってない感じ」


 俺はシロの核心を捉えた指摘に鳥肌がたった。


「その通りだ。統合性が無いから、なんか掴めない」

「で、ヒイラギもそれを分かってる。だから自分自身に恐れる‥‥っていう解釈はどう?」

「すごく良い気がする」


 そのあと少しヒイラギについてシロからエピソードを聞いた。

 帰ろうかと思い、メニューを見たが、まだ21時だった。


「1時にヒイラギが来るはずなんだ。まだ時間があるな‥‥あ、ごめん、シロの部屋からはもう帰るよ」

「レベルでも上げたら?」

「え?」

「え?じゃなくてさ、本気で攻略したいなら、戦うしか無いよ」

「‥そうだな」


 だが、少し怖い気持ちもある。

 間違って死んだりしたら‥‥

 

 俺は首を振った。


「レベル上げに良い場所とか、知ってるか?」

「うーん。ま、ちょっと遠くなるけど、ミントの洞窟が良いかもね。そこに居るバグは経験値大量に貰えるし、且つ、バフのかかるアイテムをドロップするから、ちょうど良いんじゃない?」

「バフって、あのバフ?」

「あのバフを何指してるか分からないけど、能力を一時的に上げるヤツだよ。レベルが足りない所を補完できる」


 完璧だ。俺はそういうアイテムが喉から手が出るほど欲しかった。


「敵は倒すのに時間がかかるだけで、攻撃力は凄く低いし、普通にしていれば、死ぬ事は無いと思うよ」

「そうか!シロ、本当にありがとう!」

「イチは地図読める?」

「現実のは分かるよ」

「これ、MAP。ピン刺しといたから、夜だし道中は気を付けて。ずっと走り続ければ大丈夫だから。分からなかったら道中に居るNPCに聞けば良い」


 シロがくるりと巻いた紙を差し出す。

 MAP、と巻紙の上に表示される。

 俺は受け取った。


「分かった。本当にありがとう!」


 シロは肩をすくめて、しっし、と俺を手で追い払った。


 俺はシロの部屋を出た。

 武器化中で、腰の鞘に収めたままの片手剣のユメに話しかけた。


「聞いたか?」

「はい」

「今から行く。ユメの力を貸してくれ」

「任せて下さい!」


 俺は山小屋を出て、夜の道を走り出した。


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