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RPGデバッガー  作者: 白雪ひめ
東海地方編
25/65

現実とゆめ

 

 ー 九重ここのえの塔 ー


 俺は九重の塔の最上階、《転生の門》の前に居た。

 現在メタバース時刻は20時。


 現実との時差はちょうど2時間位なので、夜のログインに合わせて門は開く。


 はずだったが、開かない。


「‥‥どうなってる?」


 視界の左上にもビックリマークが無い。

 被験者の時から、ログアウトの30分前にはサインが出るようになっている。

 それが無いのはおかしい。

 となると、考えられる要因は一つしかない。


「ロードしたのか」


 俺は転生の門の分厚い石壁を叩いて言った。


「おーい!向こうは今何時だ?それくらい教えてくれたって良いだろ!」


 目の前に、白いフォントで英語が表示された。



 it is an exception



 プログラマーかは分からないが、bunnyで収集できない情報などを、ログアウト時にこうして文字で教えられる。


 声は一度も聞いた事が無い。


「例外措置?」


 小さな天使みたいなバグが大量に現れて、観音開きの門をゆっくりと開いていく。


 白い光に包まれて、俺はログアウトした。





   ーーーーー





 頭の細かな振動と共に俺は目を覚ました。


 ナースウェアの看護師が、俺の頭を覆っていた、白い大きなヘルメット型の機械を外す。


 疑似睡眠導入プロテクター、略称PSIP。


 メタバースに自己が存在する時は、現実で意識を得てはいけないという決まりがある為、ログアウトのサインを受けて、取り外す事になっている。


 看護師はにこやかに言う。


「こんばんは。お疲れ様でした」

「ああ」


 俺は東北国立癌研究センターの小部屋に幽閉されている。

 パソコンの利用と、リハビリ室への移動は許されている。


 旧メタバース計画で被験者だった俺は、いつも通り研究室で横たわり、メタバース内に入って実験していた。なかなかログアウトされないな、と思いつつ、待っていたら強制的にログアウトされ、目を覚ましたら、ここに居たのだ。


 研究室にいた仲間は、謎の組織の人間によって拘束されて、今は解放されているが、監視が付いているらしい。


 今のメタバースを裏で運営しているのは、巨大な組織だ。


 そもそも、200人ものデータ脳をオンラインで接続している自体、サーバーを管理するための巨大な空間と人員が必要になる。


 それを「データセンター」と呼ぶ。


 数100億という開発費、維持費が掛かり、エンジニアや、プログラマーが住んでいて、直接管理している。

 

 外部では「データセンター」の捜索も続けられている。


 俺は起き上がり、窓の外を見て違和感に気付いた。

 

 夜じゃ無い。

 陽が差している。


 俺はパソコンを開き、自身の日記を読んで目を疑った。


 《9月4日、11時40分》


 俺の認識では、《9月2日 22時》


 のはずだった。


 アイツの言う特別措置とは、やはり現実世界の時刻とリンクしていないけれど、ログアウトを許可する、という事だろう。

 

 俺は額に手を当てて出来事を思い出そうとした。


 イチとシロが仲良くお喋りしているのを見て、大丈夫そうだと思って山小屋を出た。

 そこから九重の塔へ行き、頂上から転生の門へ向かった。

 

 《約32時間》もの時差が発生している、つまり、それだけロードしてしまったんだ。


 恐ろしい話だが、俺はこの《現実の脳に、メタバース内の脳のデータを上書き》されている。


 だから現実の記憶まで上書きされて忘れてしまう。


 日記を確認すると、あった。


ーーーーーーーーーー


 《9月3日 朝》


 昨夜、イチがセーブをしたと言った。


 セーブデータ3 富士山 山小屋

 20時00分


 らしい。

 ここへ戻って来られるなら、ボス戦で死んでも少しはマシか?


 ボス戦がんばるぞ。


ーーーーーーーーーー


 確定だ。

 つまりボスで死んだんだ。

 

 読み進めて、俺は予想外の展開に驚いた。


ーーーーーーーーーー



 《9月3日 夜》


 日記を読み返した。

 ボスで死んで、ロードしたのはセーブデータ3ではなく、セーブデータ2で、さらに俺はその間の記憶を全て失っている。


 ボス戦でシロが死んだっぽい。


 セーブデータ2からの、俺の感想になってしまうが、イチは面識が無いにも関わらず、シロのことを知っていて、さらに必死になっていた。


 ‥‥‥



 俺は脳内でイメージしつつ、日記を読んでいく。

 さらに衝撃的な事が書かれていた。


ーーーーーーーーー


 《9月4日 夜》


 自分の事を告白すると、イチはヒイラギと話した事を教えてくれた。

 それによると、ヒイラギは公安警察のスパイらしい。

 あんな凶暴な人格の奴、絶対違うと思うが、一応みんなに調査を頼んだ。

 おそらく、リーウァンからは近日中に報告があるはずだ。要確認。

 


ーーーーーーーーー



 リーウァンは、日本のメタバース研究に着目をし、同じように研究をしている中国人の女性だ。


 まだメタバース計画が中止になっていなかった頃、メタバースの学会で知り合った。個人で動いているのが特徴で、情報交換をしている。


 以前は中国のプラットフォーム企業のエンジニアとして働いており、今も伝手があるらしい。


 俺は、《自身の日記を見せる》ことを条件に、デバッガーの個人情報や、日本が揉み消している情報などを得ている。


 検索サービスを行う日本の企業は、自国の日本より、保守派大国の中国から大量の資金を得てしまっているので、中国に甘い。


 俺がゲーム内でどう行動しているのか、興味があるらしい。

 仲間と相談したが、メリットが大きいために、取引が成立している。


 暗号化を用いて通信を繋げる。

 繋がった。


「How's your health?」

(調子はどう?)


 俺は中国語が分からない為、向こうが英語を使ってくれる。


「It was ok、What happened to the example?」

(大丈夫です、例の件は?)


「I found something interesting.」

(面白いものを見つけたよ)


 俺は微かに期待して、言葉を待った。


「There are two harvests. The first one. The manual on the human form.」

(収穫は2つある。まず一つ目。人型のマニュアルのことだ)


「There is data accessing the system area. It is human data, just like ours, and not by AI.」

(システム領域にアクセスするデータがあった。だが、それは私たちと同じ人間のデータであって、AIによるものじゃなかった)


 ユメの事も調査を頼んでいたが、それは予想外だ。


「What do you mean?」

(どういう意味だ?)


「I mean it as it is.」

(そのまんまの意味よ)


「‥‥ユメはAIじゃなくて、人間だっていうのか?」


「Check your email.」


 促され、メールを確認する。


 死因別の死亡者数、そのリストがずらりと名前が並んでいる。


「My research partner and I tried hacking into the Police Department's website. Japanese security is still too weak.」

(私と私の仲間が警視庁にハッキングをした。日本のセキュリティは相変わらず弱々ね)

 

 自殺者のリストに色が付いている。

 左側にあるのは公表されているもので、右側のものが修正前か。


「Note the name column.」

(名前の欄を読んで)


 線の引かれている場所を確認して、俺は息を呑んだ。


 柊 ゆめ


 名前をクリックすると、写真と詳しい個人情報が記録されていた。


 シュッとしたボブカットに、大きな猫目が特徴的な可愛い女の子。

 紺色の襟のセーラー服を着ている証明写真だ。

 間違いない。

 紺色を赤にすれば、今のユメと全く同じだ。


 それだけでも衝撃的だが、添付された資料を読み、更にショックを受けた。


 死因は、いじめによる自殺。


 しかし遺書は見つかっていない為、変死扱いにされた。だが、後からチャットの記録が確認されている。


 内容を見て、俺は気分が悪くなった。


 学校側はいじめを認めず、加害者含め何のお咎めも無いまま事件は終わりを見せた。

 チャットだけでは証拠不十分とされ、刑事告訴もできず、民事の訴訟も出来なかった。


 その後、母親が娘の跡を追って自殺。


 翌年、《いじめの加害者の一家が全員殺されている》


 計7人の無差別大量殺人。


 面識の無い赤の他人が父母祖父母兄弟の7人を殺害している。

 だが、出頭した犯人は違い、実際は被害者であるユメの父親であった。


 なぜこんな大事件がもみ消されているのか。

 被害者の父親の顔には見覚えがあった。



 警察庁警備業公安警察、柊正宗



 国のトップである公安警察が、7人も殺害する凶悪犯罪を起こしたと知られれば、とんでも無い事になったに違いない。

 


「It was shortly after this that the Metaverse project was cancelled.」

(メタバース計画が中止されたのは、この直ぐ後よ)


「‥ Does it matter?」

(関係あるのか?)


「We still don't know, but the following month the Metaverse project was officially cancelled and Hiiragi quietly died.」

(まだわからないけど、この翌月に正式にメタバース計画は中止になり、ヒイラギもひっそりと死んだ)


「Dead?」

(死んだ?)


「He's supposed to have died of heart failure.」

(ヒイラギは心不全で死んだ事になっている)


「Would you go that far?」

(そこまでするか?)


「I don't know. But if they couldn't incarcerate him or bring the case to light, this was the only way, right?」

(さぁね。でも、彼らが、彼を収監できないし、事件を明るみにもできないとなると、これしか方法が無かったんじゃないの?)


「‥‥なるほど。たしかに7人殺していて野放しにするのは怖いな。だから、《メタバースに幽閉》しているのか」


 つまり、潜入捜査というのは嘘‥‥

 しかし幽閉されているならば、それは自らの意思ではないとも言える。

 

「‥何かに脅されているのか」


 そうだ、ユメが居る。


 死んだはずの愛娘。

 

 愛娘がいる世界を守りたいと思うはずだ。

 

「Is Yume a data brain?You say human, but when was it copied?」

(ユメは、データ脳なのか?人間っていうけど、いつコピーされたんだ)


「I will look into that now. Well, I'll have to check the servers at the data center directly to make sure it's accurate.」

(それはこれから調べる。まぁ、データセンターのサーバーを直接確認しないと、正確性は落ちるけどね)



 ヒイラギの気持ちが少しだけ分かる気がする。

 自分のために、世界を完成させるために、バグを倒し続ける。


 イチへの態度も、納得がいく。

 加害者の男子を想像し、更にはユメがマニュアルであったから。

 

 そんな事件があり、自分が復讐で事件を起こし、さらに、自分の娘がマニュアルになっているなんてどれだけ衝撃を受け、傷ついただろう。


 死者の冒涜‥‥もしもそれが本当にユメのデータ脳であったならば、到底許されるべきものじゃない。


 だが‥生きているだけで良いという気持ちもあるはずだ。

 それもわかる。生きている事の尊さは俺が良く知っている。例えそれが見た目だけだとしても、簡単には殺せない。

 

 可哀想に。

 壮絶な人生だ。

 家庭を持ったことはないけど、娘と奥さんが自殺しただけでも自分は耐えられないだろう。

 だが、7人殺して復讐する、というのも並大抵の精神で出来るものじゃない。

 一家全員を確実に殺すなんて、簡単なことではないはずだ。


 人間を捨てなければ、到達できないような闇を感じる。



 俺は一つ息をつき、顔を上げて窓の外を見た。

 秋に差し掛かった淡い水色の空に、憂鬱な気持ちを溶かそうとした。


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