死神
二人は激しくぶつかり合い、ツクモとヒイラギのHPは徐々に削られていく。
花火のような美しくも激しい攻防に、止める事は愚か、誰も口を挟むことすら出来なかった。
一度離れ、ツクモがヒイラギに問うた。
「前回はなぜ引いた?お前と一戦交える事が出来ると思ったのに」
「京都の事か」
「そうだ。手を抜いただろう」
「先程答えた通りだ」
「運命ってやつか?馬鹿馬鹿しいな」
ツクモはレイピアを器用に一回転させてから、言った。
「お前の話を整理するとつまり、メタバース計画が中止されたのは、脳複製のセキュリティが甘かった、という話なのか?分かりきっている事じゃないか」
ヒイラギが唇を釣り上げて笑う。
「それだけで済めば良いがな」
一瞬で間合いを詰めた。
『claw』
黄金の孤を描く鎌が、獣の爪の様にツクモの腹を抉ろうとする。
ツクモは鎌の進行方向をズラすように、スライドしながら弾き、身を屈めてヒイラギの懐に入り込んだ。
『sta‥‥』
ツクモはスキルをキャンセルし、弾かれるように飛び退いた。
ヒイラギが鎌の角度を変える。
『groul』
レッドフロアの後、一気に黄色の波が広がる。
避ける事など不可能で、全員がヒイラギのトラのアクティブスキルを受けて硬直した。
ツクモは居ない。
そう思ったら、急にヒイラギの背後に現れて、通常攻撃で首を貫いた。
critical!
ヒイラギのHPが削れてオレンジのゾーンへ。
優勢かと思いきや、ツクモのHPも同じように削られていた。
ヒイラギの鎌が伸びて巨大な三日月のように変化し、ツクモの腹部を貫いている。
二人が距離を取る。
本当に、どちらかが死ぬまで戦うつもりなのだろうか。
どうにかして、止めなければ。
俺は硬直が溶けてから立ち上がり、大声で言った。
「二人とも、待ってくれ!!」
二人は耳を貸さずに闘い続け、遂にHPは赤いゲージまで減少した。
本気だ。
本気で決着を付けようとしている。
止めなければ。
「待って、待ってくれ!」
俺はうろうろと近づいてしまい、結果的にツクモの気を逸らすことになった。
ヒイラギの鎌が牙を剥いて吼える。
そして次の瞬間、ツクモのHPがゼロになっていた。
何が起きたのか、全く分からない。
ただ、俺のせいでツクモは‥‥
ツクモは苦笑して言う。
『change』
ツクモは猫を抱きしめ、猫の体に顔を埋めて静かに消えて死んだ。
ツクモが死んだ。
ヒイラギが鎌を一回転させ、薬を呷る。
HPが全回復し、圧倒的な、ハッキリとした勝敗がついた。
その時、世界が停止した。
白黒の世界。
みんな動きが止まり、時は停止したまま、動かない。
俺は自身のHPバーを確認する。
生きてる。
俺は死んでない。
死んでないのに、セーブロードの画面になっている。
身体は動かない。
けど、文字も目の前に出て来ない。
ツクモが死んだ。
ツクモが死んだ。
ロードだ。ロードしなきゃ。
俺は文字を待ち続けた。
ふいに、俺の横をすれ違うように、黒いコートを纏った人物が、歩いてきた。
深くハットを被っているので、顔は見えない。
停止した世界の中を、動いている。
意味が分からない。
何故動ける?
黒いコートを着た人物は、ヒイラギの元へ歩いてゆき、ヒイラギの前に立ち止まった。
黒いコートの人間は、鎌をヒイラギに向かって振り下ろした。
ヒイラギのHPゲージが一瞬で減り、赤になって、消えた。
ヒイラギは停止したまま、数字になって消滅する。
黒い死神は鎌を真っ直ぐに地面に立てると、俯くようにハットを下げて、空間に溶けるように消えていった。
世界が色づき、動き始める。
「‥‥」
その状況に、全員がついていけなかった。
一人はツクモが消えた虚空を見つめ、一人は消えたヒイラギを探している。
ただぼんやり周囲を見ているデバッガーも居た。
二人の存在は、それほどまでに大きかった。
シロが顔を覆って叫んだ。
「ロードして!やり直して!出来るんでしょ?今度はツクモを死なせない世界にして!」
「ああ」
俺自身、混乱していた。
だが、間違いなく、この世界はダメだ。
だからロードしなきゃ。
俺は、剣を逆手に持って自分の首を一気に貫いた。
critical!
一度では死なず、俺は痛みを堪えながら、もう一度首を突き刺した。
HPが消える。
世界が停止する。
ロードしますか?
《はい》 《いいえ》
俺は、はいを選択する。
ずらりとセーブデータが表示される。
セーブデータ1 京都 竹の小道
セーブデータ2 はじまりの街 噴水広場
セーブデータ3 富士山 山小屋
セーブデータ4 富士山 マグマだまり跡
俺は右手を上げて動かす。
セーブデータ4が、選択できなかった。
絶望と苛立ちに俺は無音で叫んだ。
選択できるのは、3だけだ。
俺はセーブデータ3を選択した。




