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RPGデバッガー  作者: 白雪ひめ
東海地方編
24/65

死神

 二人は激しくぶつかり合い、ツクモとヒイラギのHPは徐々に削られていく。


 花火のような美しくも激しい攻防に、止める事は愚か、誰も口を挟むことすら出来なかった。


 一度離れ、ツクモがヒイラギに問うた。


「前回はなぜ引いた?お前と一戦交える事が出来ると思ったのに」

「京都の事か」

「そうだ。手を抜いただろう」

「先程答えた通りだ」

「運命ってやつか?馬鹿馬鹿しいな」


 ツクモはレイピアを器用に一回転させてから、言った。


「お前の話を整理するとつまり、メタバース計画が中止されたのは、脳複製のセキュリティが甘かった、という話なのか?分かりきっている事じゃないか」


 ヒイラギが唇を釣り上げて笑う。


「それだけで済めば良いがな」


 一瞬で間合いを詰めた。


clawクロウ


 黄金の孤を描く鎌が、獣の爪の様にツクモの腹を抉ろうとする。


 ツクモは鎌の進行方向をズラすように、スライドしながら弾き、身を屈めてヒイラギの懐に入り込んだ。


『sta‥‥』


 ツクモはスキルをキャンセルし、弾かれるように飛び退いた。


 ヒイラギが鎌の角度を変える。


groulグローウ


 レッドフロアの後、一気に黄色の波が広がる。

 避ける事など不可能で、全員がヒイラギのトラのアクティブスキルを受けて硬直した。


 ツクモは居ない。

 そう思ったら、急にヒイラギの背後に現れて、通常攻撃で首を貫いた。


 critical!

 

 ヒイラギのHPが削れてオレンジのゾーンへ。

 優勢かと思いきや、ツクモのHPも同じように削られていた。


 ヒイラギの鎌が伸びて巨大な三日月のように変化し、ツクモの腹部を貫いている。

 

 二人が距離を取る。


 本当に、どちらかが死ぬまで戦うつもりなのだろうか。


 どうにかして、止めなければ。


 俺は硬直が溶けてから立ち上がり、大声で言った。


「二人とも、待ってくれ!!」


 二人は耳を貸さずに闘い続け、遂にHPは赤いゲージまで減少した。

 

 本気だ。

 本気で決着を付けようとしている。

 止めなければ。


「待って、待ってくれ!」


 俺はうろうろと近づいてしまい、結果的にツクモの気を逸らすことになった。


 ヒイラギの鎌が牙を剥いて吼える。

 

 そして次の瞬間、ツクモのHPがゼロになっていた。


 何が起きたのか、全く分からない。

 ただ、俺のせいでツクモは‥‥


 ツクモは苦笑して言う。


『change』


 ツクモは猫を抱きしめ、猫の体に顔を埋めて静かに消えて死んだ。


 ツクモが死んだ。


 ヒイラギが鎌を一回転させ、薬を呷る。

 HPが全回復し、圧倒的な、ハッキリとした勝敗がついた。


 その時、世界が停止した。

 白黒の世界。


 みんな動きが止まり、時は停止したまま、動かない。

 

 俺は自身のHPバーを確認する。

 

 生きてる。

 俺は死んでない。


 死んでないのに、セーブロードの画面になっている。


 身体は動かない。

 けど、文字も目の前に出て来ない。


 ツクモが死んだ。

 ツクモが死んだ。


 ロードだ。ロードしなきゃ。


 俺は文字を待ち続けた。


 ふいに、俺の横をすれ違うように、黒いコートを纏った人物が、歩いてきた。

 深くハットを被っているので、顔は見えない。


 停止した世界の中を、動いている。


 意味が分からない。

 何故動ける?


 黒いコートを着た人物は、ヒイラギの元へ歩いてゆき、ヒイラギの前に立ち止まった。


 黒いコートの人間は、鎌をヒイラギに向かって振り下ろした。

 

 ヒイラギのHPゲージが一瞬で減り、赤になって、消えた。

 ヒイラギは停止したまま、数字になって消滅する。


 黒い死神は鎌を真っ直ぐに地面に立てると、俯くようにハットを下げて、空間に溶けるように消えていった。


 世界が色づき、動き始める。


「‥‥」


 その状況に、全員がついていけなかった。

 一人はツクモが消えた虚空を見つめ、一人は消えたヒイラギを探している。

 ただぼんやり周囲を見ているデバッガーも居た。

 

 二人の存在は、それほどまでに大きかった。


 シロが顔を覆って叫んだ。


「ロードして!やり直して!出来るんでしょ?今度はツクモを死なせない世界にして!」


「ああ」


 俺自身、混乱していた。

 だが、間違いなく、この世界はダメだ。

 だからロードしなきゃ。


 俺は、剣を逆手に持って自分の首を一気に貫いた。


 critical!

 

 一度では死なず、俺は痛みを堪えながら、もう一度首を突き刺した。


 HPが消える。

 

 世界が停止する。



 ロードしますか?


 《はい》 《いいえ》



 俺は、はいを選択する。

 ずらりとセーブデータが表示される。



 セーブデータ1 京都 竹の小道

 セーブデータ2 はじまりの街 噴水広場

 セーブデータ3 富士山 山小屋

 セーブデータ4 富士山 マグマだまり跡



 俺は右手を上げて動かす。


 セーブデータ4が、選択できなかった。

 絶望と苛立ちに俺は無音で叫んだ。


 選択できるのは、3だけだ。


 俺はセーブデータ3を選択した。


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