セーブデータ4 【マグマだまり跡地】
一人エスケープしたとはいえ、金ボスを倒した事に全員が安堵と悦びを感じていた。
余韻に浸っていた時、世界がモノクロになって停止した。
剣だったユメが勝手に人に変わり、俺の前に現れる。
両手を祈るように組み、機械的に問う。
セーブしますか?
《はい》 《いいえ》
思わず涙が出そうになった。
良かった。
これで、死んでもここに返って来られる。
俺は震える手で「はい」を選択する。
セーブデータ1 京都 竹の小道
セーブデータ2 はじまりの街 噴水広場
セーブデータ3 富士山 山小屋
新 セーブデータ4 富士山 マグマだまり跡地
モノクロだった世界が色づき、再び世界は動き始める。
すると、急にツクモが立ち上がり、言った。
「一つ、言わなくてはならない事がある」
「ヒイラギ、お前の正体は、警察庁警備業公安警察、柊正宗だな」
お喋りが止む。
全員ポカンとしている。
それは俺も同じだった。
否
少し考えれば、分かる事だった。
メタバース計画を再開させ、自分が助かる為に行動しているツクモが、メタバース計画を根絶させようとしているヒイラギを、許すはずが無い。
俺のせいだ。
ヒイラギは鎌をトラに戻して、ツクモに向き合う。
腕を組み、あっさりと言った。
「それで、どうするつもりだ?」
認めたも同然の返事に、騒然となる。
ツクモはレイピアを振って言った。
「スパイには、出て行ってもらう。俺は、俺達は、この世界を壊されたくない」
ツクモが続けて言う。
「だがその前に、幾つか聞きたい事がある」
「何だ?」
ヒイラギは余裕の表情で首を傾げた。
ツクモは問う。
「何故お前は攻略を真剣に手伝う?スパイにしては、お前の行動は目立ち過ぎる。もっと上手い立ち回りが出来るはずだ」
「他にも違和感がある。初心者である、イチへの攻撃的な態度だ。エスケープさせるには、2つ方法がある」
ツクモが二本指を立てて説明する。
「一つはHPゲージをゼロにする。もう一つは、『はじまりの街から、ゲートを使ってエスケープする』。通常、初心者には後者を使うが、お前は始めから無理やりエスケープさせようとした。警察の癖に物騒だな」
すっかり忘れていたが、二つ目の帰り方はそれだったのか。
「俺がビギナーのイチを面倒見ている間、お前は隙を見てイチを攫い、トラに乗せて京都へ向かった。そしてイチを襲った。全くもって、俺には意味が分からなかった」
ツクモはヒイラギに近付いて、問う。
「お前は何を隠している?」
「何も隠していない。ただ、運命というものは存在し、さらにAIはそれを言い当てられる」
ツクモが顔を顰めてあっさりと言う。
「は?意味が分からねぇよ。格好つけないで分かるように言え」
「脳複製という技術は非常に脆弱だ。脳は命だ。その情報がいかに重要か、お前ならば分かるだろう」
ツクモは上げた眉を顰めた。
ヒイラギが言う。
「だから、この世界は存続出来ない。‥‥存続出来ないのだ」
いつもと声音が違った。
ヒイラギの唇が微かに震えているように見える。
ツクモが言う。
「お前が答えないならば、俺はお前をエスケープさせる」
ヒイラギが応える。
「やれるものならやってみれば良い。change」
ヒイラギは一度は解いた虎のマニュアルを再び鎌にして、中段に構えた。
ツクモも片足を出して僅かに腰を落とし、腕を引いてレイピアの構えをする。
次の瞬間、空気が波打ち、光が閃いた。
遅れて激しい連撃の金属音が鳴る。
俺はその場に立ち竦んだ。
ヒイラギの素性をバラせば、それをツクモが確認する。その真実も、いくらSEOが制御しているとはいえ、かつて直接メタバース計画に携わっていたツクモとツクモの仲間の手腕なら、調査し、確認出来る可能性があった。
警察庁の公安、という条件は、限りなく情報を収束させた。
この運命に行き着いたのは、間違いなく、俺の‥‥浅はかな選択の結果だった。




