真相
無機質なモノクロの世界で、俺はただロードを待った。
セーブデータ1 京都 竹の小道
セーブデータ2 はじまりの街 噴水広場
セーブデータ3 富士山八合目 山小屋
だが、いつまで経ってもロードされない。
今まではロードしますか?はい、いいえの画面が出てきたのに、出てこない。
ゾッと怖気が走る。まさか、ロード出来なくなった、とかじゃないよな。
俺は右手を上下させてセーブデータを全て連打するが、セーブデータの文字が灰色になっていて、選択出来ない。
だが、一つだけ、黒のままのものがある。
セーブデータ2だけ、選択できた。
《セーブデータ2 》
はじまりの街 噴水広場
ロードしますか?
はい いいえ
俺は即座にはいを押した。
ロード出来るなら、もう何でも良い。
灰色の世界がパズルのピースみたいにバラバラと落ちていく。赤い空と混ざり、万華鏡みたいに半時計周りにクルクルと回りだす。
俺は目を閉じて、胸に手を当てた。
時が戻る。
エレベーターのような浮遊感の後、俺は地面に立っていた。
明るい赤レンガの家が立ち並んでいる。
飛沫を上げる煌めく噴水。
赤と白の庇の張った出店。
黄金の朝陽。
余りに全てが鮮やかで、目が眩んだ。
瞼を押さえ、前を向いて、俺は息を呑んだ。
藍色のジャケット、白いズボン、腰にレイピアを下げている。
ツクモが居る。
「ツクモ」
呼びかけると、ツクモが振り返る。
「何?」
「‥‥ロード、した」
「は?お前、京都でセーブしたって言ってただろ」
「‥‥」
分かっていた事だが、俺は衝撃で固まった。
「どうした?」
ツクモも覚えていないんだ。
ここから先にあった、全ての記憶を。
ツクモが近づいてくる。
「上書きって事?」
俺はその分下がって答えた。
「違う。新しく出来た2つ目のセーブデータ。その先のセーブデータ3まである。けど、ここしか選択出来なかった」
ツクモは腕を組み、目を丸くする。
「へぇ。何があって、どうやって死んだんだ?」
俺が口を開こうとしたその時、ツクモが言葉を止め、ピアスに触れた。
ハッとした。
そうだ、セーブの後にすぐシロからの電話があるはず。
ツクモはピアスに触れた手を離して問うた。
「この電話、シロからだが、何か俺が言うべき事はあるか?」
ツクモの勘の良さに驚きつつ、俺は身を乗り出して訴えた。
「ススキ高原に行かないでくれ!シロはその場にいてくれ!俺たちがシロを迎えに行く!」
ツクモは電話に出て、すんなりと俺の要望を伝えた。
「もしもし‥‥あぁ。分かってるけど、ちょっと俺にも事情があってな。俺ともう一人連れがそっちに行くから、シロはススキ高原に行かずに、家に居てくれ。うん、そうだ。悪いな。悪魔の小瓶を分けるから、それで向かう‥‥ああ」
電話を切り、ツクモは呟くように言う。
「ログアウトの通知が来てる‥‥おかしいな。まだ朝のログアウトから2時間しか経っていないはずなのに‥‥」
そうだ、富士山で、時差の話をした。
「時差だ!ロードしたから、現実の時間とズレが生まれているんだ」
ツクモが顎に指を当てて考える仕草をする。
「俺のログアウトは、《現実の朝、昼、夜》特定の時間にしか許されていない。現実からは、その時間に通知が入るようになっている」
ツクモは俺を見て言う。
「現実で時間が経過しているのは間違いないな。それは、お前がロードをした事の証明になる、か。本当にロードしたんだな。俺は全く実感が無いけど」
「‥‥シロが‥」
「?」
俺は、シロが死んだ、という言葉を寸で飲み込んだ。
ツクモはエスケープを受け入れようとしていた。俺が正直に言って、じゃあシロを守ろう、という話にはならないだろう。
俺は‥俺は、シロをエスケープさせたくない。
俺が口を噤み、俯いていると、何も知らないツクモは、明るい調子で言った。
「面倒だけど、もう一度帰るか。メモを見る必要もあるし、しゃあないな」
「え!シロはどうするんだ」
「どうするも何も、待ってろって言ったのはお前だろ。お前は俺がログインするのを待ってても良いけど、シロの家まで遠くは無いし、先に行ってるか?」
気持ちが焦った。
「行くよ、先に行く」
「分かった。チェンジ」
レイピアがグレーの猫に変わって、俺の前に地面に歩いてくる。尻尾をピンと立てて、俺を見上げて来た。
「アモルが案内してくれる。シロの家までは、敵が出ない道を通るから、安心して良い」
「ログアウトしても、マニュアルは動くのか?」
「ああ。アモルは賢いからな。俺も事情を把握して戻ったら、シロの占いを聞く」
ツクモは俺をちらりと見て付け足した。
「俺は詳細までメモってある。お前が嘘ついているかどうか、直ぐに分かるから、浅はかな嘘はつくなよ」
「嘘なんかついてない。つく余裕も無い!」
結局ツクモだって、最後は俺に選択を任せたじゃないか。
シロの意思を尊重するとか言いながら、本音では現実に返したくないんだ。多分。
だが、今のツクモに怒りをぶつけても、話は通じない。
「何をそんなに怒ってる?」
「何でもない」
「ふぅん。じゃあ俺は行くから。一応、シロのフレンドコードを送っておくよ。着いたらシロに連絡するようにな」
ツクモは悪魔の小瓶で空に飛び立って行った。
フレンドが二人。
ツクモ
シロ
ツクモの文字が灰色になり、俺はメニューを閉じる。
空を飛んだら、現実は割と近い場所にあるのだろうか。
ツクモの猫が歩き出す。
俺は猫に付いて歩いた。
はじまりの街の隅の方へ移動していく。
街の北側には、美しい川が流れている。
その川に沿って歩いた。
俺は背中に差していた剣を引き抜いて、唱えた。
「チェンジ」
剣が光り、ユメに変わって現れる。
ユメはコクリと首を傾げる。
「どうしましたか?」
「ロードしたよ」
「はい。知っています。ツクモとの会話を聞いていました」
「そうか」
「はい」
ユメは小さく頷き、俺の隣を歩いてくる。
川に沿って歩いた先に、光があり、猫はその光の中に入る。
俺たちも入った。
視界の上に白いフォントで文字が表示される。
ー 地下水路 ー
想像していたものと全く異なった。
コンクリート、というには滑らかで美しい灰色岩で出来た大きな地下遺跡だ。
駅のようにも見える。
中心が真っ直ぐ歩けるようになっていて、左右に水路がある。勢いは強くて、足を浸けたら流されてしまいそうだ。
歩いていると、猫が急に立ち止まった。
一度、俺たちを振り返り、ゆらりと尻尾を揺らすと、急に方角を変えて歩き出す。
「どうした?」
ユメが言う。
「付いてきてって、言ってるみたいです」
猫に付いていく。
近くの大きな柱の裏側に移動した時、誰かの声が向こう側から反響して聞こえた。
しゃがんで隠れ、様子を伺っていると、少しずつ人影が近づいて来た。
六人組だ。
全身鎧のガチガチの重装備や、佇まい的に、中級者という感じがした。
410goneの攻略には居なかった。
デバッガー達の会話が耳に入った。
「『Leviathan』のドロップアイテムは限定防具とマント、装飾品なんだろ?どれくらいの値打ちが付くかな」
「いや、注目すべきはそこじゃない。超低確率でドロップする悪魔シリーズの消耗品だ」
「マジかよ!!それ、ソースは?」
「bunnyからだよ。さっき入手した。赤キューブ10個分の価値はあった」
悪魔シリーズって、もしかして「悪魔の小瓶」とかと同系列のアイテムという事だろうか。
レヴィヤタンは、確か旧約聖書に出てくる海中の悪魔だ。
あと、bunnyって何だろう。
「Leviathanが出たのは最下層らしいから、このまま地下に降りていくぞ」
「了解」
六人組は纏まって、マンホールを開き、その中へ降りて行った。
完全に気配が消えてから、猫は柱から顔を出し、再び歩き始める。
俺はユメにたずねた。
「Leviathanっていうボスが居るの?」
「最近出現するようになった、『隠れボス』だと思われます」
「そんなのがあるんだ。みんなが言ってたbunnyって?」
ダメ元で聞いたが、ユメはすんなりと答えた。
「情報屋のバーの名前です」
「よく知ってるな」
「古くからある、施設です。冒険には欠かせません」
「へぇ」
それこそマニュアルの一部って事か。
進んでいくと、通路は途切れてしまった。
傍に木の船が停まっている。
NPCの男性が船に乗っていた。水兵帽を被り、青と白の縞々のシャツを着ている。
目が合うと、ニコリと愛想よく笑って言ってきた。
「一回一キューブ!乗ってくかい?東京まで直ぐだよ」
「あー、えっと‥」
お金が無い。
だが、道は続いていないし、ここは船で渡るしか方法が無さそうだ。
ピアスに触れてアイテムを開くと、Green Mantisの青キューブが入っていた。
ツクモに限ってそんなことは無いか。
「まいどあり!」
船に乗ると、水兵服の男性が船の端に立ってオールを漕ぎ始める。
氷柱みたいになっている鍾乳洞を抜け、滝が流れる大きな地底湖を進む。
現実のテーマパークを思い出した。
滝の方ではなく、天井の低くなっている洞窟側へ進む。
激しい水の流れでどんどん進んでいく。
洞窟から出ると、新たな文字が視界に表示された。
ー 地下街 ー
両側には、赤い煉瓦の家々が立ち並んでいる。船はその間の水路をすーっと進んだ。
ふいに、黒い外壁のお店が見えた。
打ち付けられた木の看板には「bunny」と書いてある。
NPCが喋り始めた。
「ここにゃ老舗のバーがあるぜ?この世界の情報を一気に流通しているんだ。一度は寄って行った方が良い」
「え?いや、いいです」
しかし舟は失速し、俺たちは降ろされてしまった。
強制イベントなのかもしれない。
仕方なく、俺はbunnyに入ってみる事にした。
扉を開けると、オシャレなスロージャズに包まれる。
白黒のタイルに、ワインレッドの壁。
漆黒のL字型のソファー。
バーカウンターがあり、女性がいた。
黒いレザーのドレスを着ていて、豊満な胸が更に盛り上がって見えた。
赤い紅を引いた唇が、暗い照明の中で目を引いた。目鼻立ちのくっきりしたエキゾチックな美人は艶やかに微笑む。
「いらっしゃい」
バーテンのママ、というものと、俺は初めて出会った。
何も飲めないし、失礼だから帰ろうと踵を返そうとして、「待て」と誰かに呼び止められた。
カウンターの端に茶色のコートを羽織った灰色の髪の男が目に入る。
男がゆっくりと振り向いた。
俺は驚いて二度見した。
ヒイラギだ。
どうしてこんな場所に、ピンポイントに?
「‥‥どうしてここに居るんだ?」
「単刀直入に言う。捜査に協力して欲しい」
「‥は?捜査?」
ヒイラギは俺に椅子を薦めてきた。
「お前と話をしたい」
「どういう意味だ」
「そのままの意味だ。お前に聞きたい事がある」
「俺が来ると、分かっていたのか?」
「ある程度な。上空から尾行をさせていた」
「‥‥そういう事だったのか」
ツクモの猫の索敵は、パッシブスキルでは、上空を感知出来ないのかもしれない。
それならば、男たちがピンポイントでやって来た理由もつく。
「シロを襲わせたな?」
「何の事だ?」
ヒイラギは眉を顰める。
そうだった、このロード線はススキ高原に行っていない。
あれ?でも、シロとツクモが居る状態で、シロを襲うように仕向け、正当防衛にするんだったら、初めからシロを監視していたはずなのに。
もしかして、初めから、俺を尾行していたのか?
「俺の尾行はいつからしていたんだ?」
「常に。お前は新人で、奇妙な点が幾つかあった。現実で証拠がハッキリと出たから、話をしようと思ったんだ」
「証拠?」
「それを説明するには、まずこの状況を理解しなくてはならない。この世界が何なのか、教えよう」
「‥‥本当か?」
ヒイラギが無言で頷く。
俺は椅子に座った。
バーのママが、オレンジジュースを出して来た。
氷がグラスにぶつかり、カラン、と音を立てた。
ヒイラギは俺を見て静かに説明を始めた。
「この世界は「メタバース」というものだ。metaは「超えた」universeは「世界」を意味する。所謂、仮想現実というものだが、その仕組みは複雑で、幾つもの技術を複合させて作られている」
メタバースという単語は、聞いた事があった。
仮想世界に憧れ、俺はVRやARについての情報を定期的に追っていた。
次のキラーコンテンツ、インターネットが商用解禁された時は、「ウェブ」や「メール」がキラーコンテンツと呼ばれたが、それと同じような大規模なコンテンツになると唱えられ、既に各国でメタバースの開発が進められている。
だが、メガネを掛けたVRやARは開発出来ても、皮膚感覚などの没入感のある仮想空間は実現できておらず、俺も自分が生きている間は無理だろうと思っていた。
「‥‥SFみたいな、管で身体繋がれてる感じのやつ?まさか、この世界が‥‥今の俺が、仮想世界の住人だっていうのか?」
「端的に言えば、お前が想像しているものとは、全く異なる。《脳をデジタル化》する脳複製という技術を用いている」
「‥‥脳をデジタル化?」
意味が分からない。
ヒイラギは俺のポカンとした反応を見て、言う。
「ひとまず、この世界について説明しよう」
ヒイラギは言葉を区切り、言った。
「もともと、現実世界の模倣の仮想空間を作るという計画は、政府の行政の取り組みで開発が進んでいた。内閣府の大型研究プログラム《メタバース計画》聞いた事が無いか?」
「‥‥ああ、より良い未来の為っていう?」
「そうだ」
2100年までに仮想現実を作り、より良い生活を目指す‥的な感じだった気がする。
ホームページを見たが、よく分からなかった。
国民からは陰謀論と嘲笑されている。
「研究の成果は出始めていた。脳複製という技術を用い、完全に世界へ没入するという技術は、世界でも注目され多額の資金が集められた。日本はメタバースに置いて、最先端を走っていた」
「‥‥知らなかった。それが本当だとして、なんで国民には知らされていなかったんだ?」
「脳複製はは倫理的に問題があったからだ。文字通り、脳、個人の命をデータにバックアップするというのは、何かあった時取り返しがつかないし、現実とメタバース内で同一人物が生まれてしまう」
俺が身を乗りだすと、手で抑えられた。
「まず、俺の話を聞け」
「‥‥」
「しかし、三年前、とある重大な事故が発覚し、その計画は完全に中止された」
「重大な事故?」
「明かせないが、それは日本のメタバースの、致命的な欠陥だった」
話が飛躍しすぎてついて行けない。
仮想現実の研究で、国の研究が中止される程の致命的な欠陥‥‥?
ヒイラギは言う。
「だが、その世界は再び何者かによって運用され始め、バグというモンスターを追加したり、形骸化した世界を鋳型に、現実以外の要素を取り込んで新たな世界が作られている」
なんとなく、腑に落ちた。
現実と異世界が溶け込んだ、ツギハギの仮想世界は、それが理由だったのか。
ヒイラギが言った。
「俺は、潜入捜査している警察だ」
‥‥警察?
俺は唖然として、ヒイラギを凝視した。
「デバッガーとしてこの世界に溶け込み、捜査をしている。具体的に言えば、プログラマー、そのプログラマーに関与し、加担している人物を探っている」
「‥‥」
「警察庁警備協公安警察、柊正宗」
落ち着いた風格と、統率力、内から漏れるような厳格なオーラは、たしかにエリートの中のエリート、天才のソレだ。
ヒイラギは俺の沈黙を誤解したのか、付け足す。
「公安警察というのは、国家体制に影響を及ぼすような、国益侵害などに対応する部署だと捉えてもらって良い」
「‥‥そんな事は、分かってる‥‥それが、どうして俺に執着するんだ」
「先ほど言ったが、脳複製した、お前の管理されているデータから、未確認の信号が観測された。それは、この世界のシステムデータに影響を与えている事が判明した」
複雑な衝動が俺の胸を駆け巡った。
素直に言えば‥‥俺は救われるのか?
現実に‥‥帰ることが出来るのだろうか。
俺は促した。
「‥‥それで?」
「お前はツクモと行動している。ツクモはプログラマーに関わっていて、お前の「何か」を利用しようとしている。いや、既に利用されているかもしれない」
「‥‥ツクモが、プログラマーと関わっている?」
「そうだ」
「どうして断言できるんだ?」
「何か心当たりがあるんじゃないか?」
薄々感じていたものだった。
部屋で他人が入って来られないようにするメタ的なアイテムなんて、素人が作れるはずが無い。
だが‥‥ヒイラギの事は信じられない。
俺は一度違うロード線で殺されている。襲われている。
「でも‥お前は‥俺を殺そうとした」
ヒイラギは眉を上げ、言う。
「初心者はよく勘違いするが、この世界で殺しは現実に帰還する方法の一つだ。殺人では無い」
「男達をシロの所へけし掛けたのはお前なんだろう?」
「なんのことか分からない。ツクモに言われたのか?逆に問うが、それが俺のせいだという証拠はあるのか?」
無い。
たしかに、ツクモを全信頼している今の状況は、間違いなくバランスが悪い。
ヒイラギは少し身を乗り出すようにして、机の上で両手を前に組み、言った。
「ここには警察手帳は持って来られない。俺が警察だという証明をするのは難しい。だから、取引をしよう。何か要望や、質問に可能な限り答える」
帰りたい。
だがそれは、俺の秘密をバラす事でもある。
俺は帰りたい。
けど‥‥‥
帰りたく無い。
俺は、帰りたく無い。
自分でも分からない。言えなかった。
無意識に噴出した矛盾した想いは、俺の口を固く閉ざして開かない。
だから俺は、もう一つの要望を言った。
「現実で、シロの援助をして欲しい」
結局、シロが、現実で幸せに暮らせるならばそれで良いんだ。
それが、正しいはずだ。
ヒイラギは俺から視線を外し、言う。
「被害者200人の情報は確認している。シロというのは、魔法職の白髪の女児だな」
「あぁ。現実では、餓死しそうなほど貧乏なんだ。シロ一人が、家族を養っている」
ヒイラギは俺を見る。
一口グラスを煽ると、緩慢に口を開いた。
『 彼女には養う家族はいない。既に親族は死んでいる 』
「‥‥は?」
「彼女の口座に貯金も貯まっている」
「‥‥嘘だ」
「本当だ」
「そんなはず無い。だって、借金があって、キューブで送金してるって‥」
ヒイラギは目を閉じて言った。
「思い込むことで、帰らない理由を作っている。帰らない自分を正当化している。それほどまでに、あの子は帰る事が出来ないんだ」
「‥‥証拠はあるのか」
「逆に問う。小学五年生の女児の言う事が、全て正しいという証拠はあるのか?」
「そんなの‥本人が‥」
「現実で確認している。お前のことも調査済みだ」
‥‥良く分からなくなって来た。
頭が痛い。
その時、ピー、ピー、と高い音が鳴った。
ヒイラギはコートの内ポケットから、スマートフォンを取り出し、席を立った。
ヒイラギは言う。
「急用が入った。よく自分の状況を確認しておく事だ。次に会う時、決めておいてくれ」
俺はどうしたら良いのか分からず、一人グラスの氷を噛み砕いた。




