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RPGデバッガー  作者: 白雪ひめ
東海地方編
17/65

410gone

 俺たちは、火口の周りに沿って歩いていた。

 一歩進んで五歩下がるような、角度の急なじゃり道を歩く。

 足を踏み外せば、陥没した火口へ落ちて行ってしまうだろう。

 蟻地獄のようにも見えてくる。

 

 目の前に、赤い巨大な鳥居が現れた。

 立ち止まる。

 ツクモが先頭に立った。

 ヒュッとレイピアを薙ぐと、僅かに聞こえていたお喋りが止んだ。

 緩んだ空気が断ち切れる。

 ツクモはよく通る声でハキハキと言った。


「推奨レベル的に、赤い空間レッドフロアを避けていれば、致命傷は受けない。細心の注意を払え」


 赤い空間をよく見る事。

 俺が注意するのはそこだけだ。

 絶対に死んでたまるか。


「行くぞ」


 ツクモが踵を返す。掛け声はなく、みんなが静かに武器を構える。

 カチャ、という音が重なり、銃をリロードしたような音が生まれた。


 赤い鳥居を潜ると、視界が白く揺らぎ、火口の内側へ、転送される。


 眼裏が赤く光っている。

 熱い。

 目を開けるのも痛かった。

 熱風に、全身を舌舐めずりされているかのようだ。

 レザーの装備を貫通して、じんわりと熱さが全身を蝕んでいく。汗と熱気が蔓延して、くらくらした。

 火口中心から発生している煙と、微かな風で舞い上がる赤い粉末状の砂で視界も最悪だ。

 視界に被さるように文字が表示される。



 富士山 山頂 ー火口ー

 


 地面の赤黒い細かな土が柔すぎて、立っているだけでも崩れて足を取られそうになる。

 俺のナンバーは22。

 ツクモの隣なので、俺はとにかくツクモの後ろを走って、編成されたポジションについた。

 隣にはツクモ、後ろにはシロがいる。

 心強い。大丈夫だ。


 その時、火口の中央から、白いマグマが溢れ出てきた。よく見ると、それは細かな数字の塊でシロアリが凝縮された物体のようにも見える。

 ふいに、視界いっぱいに英語が現れた。



Gone


The requested resource

/halpas

is no longer available on this server and there is no forwarding address. Please remove all references to this resource.




 文字がパッと消える。

 微かに地面が揺れた。 


 その瞬間、地雷を踏んだかのように地面が激しく爆発した。跳んで避けたが、僅かに反応が遅れた判定をされ、弾け飛んできた岩石によって、俺のHPはグンと、4分の1も削られた。

 

 視界の左側には、22人のパーティメンバーのHPゲージが表示されている。

 みんなほぼ無傷だ。

 足を引っ張らないように、自分は避ける事に集中するしか無い。


 火口の斜面に着地する。

 砂で足が沈み、一歩踏み出す。

 足場が悪い。


 中央でグツグツ煮えていた白いマグマは、宙に浮かび上がると渦を巻き、ゆっくりと巨大な球体になった。

 球体から形を変え、立方体になる。


 あれが410goneか?


 あっという間に、溶けるように空間に消えた。

 見えない。


 その時、複数悲鳴と怒号が飛び交った。

 尋常では無い叫び声が重なる。


 俺は全く状況を理解できず、周囲を見ようとした刹那、目の前に極細の赤い糸が張った‥‥ような、気がした。


 レッドフロア。

 何度も警戒していた為、俺の身体は奇跡的に反応した。

 俺は膝を落としてしゃがんだ。

 頭上を何かが掠める。


 俺は視界の左側に透過するパーティメンバーのHPバーを見て、混乱した。

 そんなことあり得るのか?

 デバッガーのHPが灰色になって、数人消えていた。


 灰色は、3人。

 既に3人も死んだ。


 俺の斜め前にいた男が、振り返る。

 目を見開き、俺に手を伸ばす。


「イ‥‥イヤだ‥あぁぁぁぁあああ」


 男は叫びながら、数字になって消えた。

 そのあと、不可解な表示が現れる。



  《permanent extinction 》



 理解し、ゾッとした。


 permanent は、「永久」

 extinction は、「消滅」


 410goneというエラーコードは存在する。

 そのデータは、「永久消滅」を意味する。


 ツクモが大声で言った。


「即死攻撃だ!避けることに集中しろ!」


 俺は感覚を研ぎ澄ませ、とにかく周囲に目を凝らした。

 視界の端が赤く光った。

 後方、斜め右の空間から、長方形のようなレッドフロアが迫ってくる。

 さらに、前方にも、先ほどと同じ赤い線が走る。

 俺は四つん這いになって前方から迫る何かを躱した後、地面を横に転がって、後方からの攻撃を避けた。

 だが、砂地のため、横になったままだと、滑って火口の中心へ一気に引きずり込まれそうになる。両手を伸ばしてつっぱるが、摩擦が利かず、斜面の分力によってなす術なく落下する。

 

 あ、死ぬ。


 後方で凛とした声が響いた。


『 小アルカナ ソードの8 紐 』


 ヒュン、と、空気を割る音と共に何かが飛んできて、あっと言う間に俺の身体を縛る。

 芋虫のようにズルズルと引き摺られて、俺は火口の中心から遠ざかり、引き寄せられた。

 見上げると、シロが居た。

 ワンドを振ると、紐が切れる。

 俺はすぐに立ち上がった。


「助かった」

「縄跳びを想像して。同じ所に一定間隔で、攻撃が飛んできてる」 


 シロが素早く後ろへ跳んで躱す。

 俺もレッドフロアを確認して、同じように跳んで躱す。


 ヒイラギが勇ましい声で指示を出した。


「全員そのまま回避を維持」


 ツクモが前方に向かって飛び出した。

 迸る稲妻のように青い光芒を残しながら、時にピンポン玉のような不規則な動きで赤い空間を回避して進む。


 歪んだ線のような細い空間を軽く飛び越え、頭上に迫る攻撃を、更にスライディングするように身体を仰向けに伏せながら避けて地面を転がった。

 腕を伸ばし、レイピアを真っ直ぐ空に向かって構えた。


『スターラッシュ』


 スキルが発動し、強制的にツクモの身体が宙へ放り出される。

 空中でツクモは体勢を変え、頭を下に、上から突き刺すのを狙うように、両手で火口の中央に向かって剣を構えた。


『コメットライン』


 ツクモの姿が消える。

 代わりにほうき星のように短い光が、僅かな尾を引いて降り注いだ。


 鉄琴を鳴らしたような、硬い澄んだ音が響き渡った。

 

 透明な空間が、一瞬白く可視化される。


 くるくると回る、立方体。


 素早く視線を巡らせると、各地で白い四角形が、惑星のように自転しながら、中央に聳える巨大な立方体を周りを公転していた。

 俺たちが躱していたのは、この図形だったのか。


 中央の立方体の上に、410goneのHPバーが表示される。

 

 俺は目を疑った。

 ツクモの一瞬の突貫攻撃は、10分の1も削れていない。

 否、目視出来ないほどのダメージしか与えられていない。

 ゲージは二つある。

 全身が冷たくなるのを感じた。


 だが、その後、直ぐにヒイラギが飛び出し、果敢に鎌を振って410goneに切り付けた。

 すると、410goneのHPが5分の1ほどグンと減少する。


 ヒイラギが鎌を一回転させ、落ち着いて言う。


「固定ダメージだ。可視化させた後、攻撃でダメージが入る」


 なるほど。

 ただ攻撃するだけでは倒せない。連携が重要になる。


 白い立方体は、すぐに透明に戻ってしまった。

 また接触し、可視化させてからダメージを与える、という過程が必要になるのだろう。

 集中力が続くかどうか。

 長期戦になればなるほど、不利になる。


 ツクモが声を張って言う。


「集中しろ!俺は可視化を続ける!余裕があれば攻撃してくれ!」


 みんなが「おう!」と返事をする。

 ツクモが再度攻撃を仕掛け、立方体が可視化される。

 ヒイラギが鎌で斬りつける。

 絶好のチャンスだが、みんな自身の対応に追われ、連撃出来ない。

 固定ダメージなら、俺でも皆と同じダメージが与えられるはず。


 我知らず、俺は地面を蹴り、敵の陣地へ身を躍らせていた。レッドフロアが針のように上下左右、あらゆる角度から点滅し、410goneは急接近する俺を容赦なく殺そうとしてくる。

 

 俺は全ての感覚を用い、微かな空間の澱みを察知する。

 真横へ飛ぶ。

 地面を転がり頭上の攻撃を躱した後、高く跳躍した。

 空中で、俺は片手剣を持ち上げ、腕を引き、両手で上段に構えた。

 スキルを発動させる。


『スターラッシュ』


 景色が見えない。風を切り裂いて進む。

 持ち手がグッと熱くなり、腕と手首の角度が自動で固定された。

 

 ユメの声。


『図形の中心を通ると、criticalの確率が上昇します。角度をアシストします。102.8°23.8°43.5°』


 410goneとすれ違い様、俺は全力で剣を振りかぶった。


 ジャキン、という効果音と、確かな手応えが返ってくる。


 critical!


 総HPの、5分の2のダメージ。

 410goneのHPは、残り約3分の1と、1ゲージ。


 身体の奥底から、アドレナリンが噴き上がり、全身の細胞に行き渡る。

 俺は一度離れ、無意識で剣を逆手に持ち直し、クナイを握るように、片手で下段に構えていた。 

 ツクモが再度、攻撃を繰り出して、接触する。透明だった所から、白い立方体が現れ、可視化する。


 ツクモが着陸して、すれ違う。

 同時に俺は地面を蹴った。

 視線は交わしていないが、「行け」と言われたのが分かる。

 


『ペンドゥラム・ブレイク』



 ユメが機械的に、新たなスキルを口にした。

 俺は弾丸のように飛んでくる歪んだ空間を見切って躱し、白い立方体に急接近して思い切り下段から剣を振り上げた。

 ジャキン、と小気味良い音が腕を通して伝わる。震える。

 さらに剣を振り上げた重しの力で大きく後転。

 紅色と青の混ざった極彩色の空を眺めながら、身体を斜めに捻る。

 イメージの力が、俺の異次元な跳躍力と身体能力を強化した。


 そして、立方体の向き合っている辺ピッタリに剣を合わせ、右上から、左下へ一息に切り伏せた。

 高熱の刃から、火花が散る。


 410goneのHPゲージがグンと減り、遂に、一ゲージ目を削り切った。

 残る一ゲージ。

 ニゲージ目へ突入する。

 緑から、オレンジ色のHPバーに変わる。


 すると、白い立方体は、沸騰するようにグツグツと白いあぶくを発生させながら、一気に変形した。


 第二形態。


 平たい人形の、二足歩行。

 四角い正方形の顔面に、ひょろりとした巨大な体と二本の長い足を持つ。手も大きくて、白い紙に切れ込みを入れたような指がある。

 言葉で形容するのは非常に難しいフォルムをしている。

 四角形の頭には、穴を空けたような丸い空虚な目玉が二つ付いている。

 それがギョロリと俺を見下ろした。

 

「イチ!!」


 シロに呼ばれてハッとした。

 一ゲージを削り、ホッとして、退避するのを忘れていた。

 距離が近い。

 巨大な影が差し、俺の居る地点が赤く点滅する。


『 小アルカナ ワンドの4 花飾り』


 シロのワンドから一気に放出した桃色の花吹雪が、敵の身体にピッタリと貼りついた。

 一瞬、白い巨人の動きが止まる。

 俺はその隙にレッドフロアを抜け出した。


 だが、硬直もすぐに溶け、紙の巨人が手を開いて、波動を打って来た。激しい突風が吹き荒れ、俺は吹き飛ばされて、地面に激突する。

 HPが一気に半分以下まで減り、オレンジ色のゲージになった。


 嘘だろ。

 愕然とした。

 もう一度当たれば、死ぬ。


 震える手で回復薬を取り出す。

 丸底フラスコのようなそれには、緑の液体が入っていて、アルミの蓋を剥がして一気に飲み干すと、ややあってから、HPが最大まで回復し、緑色に戻った。


 ホッとする間もなく、ツクモが声を張った。


「防御は低いが攻撃力特化だ!全員気をつけろ」


 ツクモが光の矢のように、飛び出す。

 身体を捻って波動を避けるが、410goneはツクモの挙動を読んだかの様に、片腕でツクモを押し潰そうと動く。

 完全に進路が断たれる。


「ツクモ!」


 ザッという小気味良い効果音と、ツクモの身体が透過するエフェクトが入る。


【empty 】


 ツクモはそのまま強気にスキルを放つ。


『メテオ』


 あっという間にHPゲージを削り取っていく。

 俺は確信に震えた。

 ツクモが居れば絶対に勝てる。

 そう思った時、ツクモの居る中心部を除き、全ての地面がドーナツ状にオレンジ色に点滅した。


 オレンジ?

 赤じゃない。

 

 違和感を考える余裕も無い。


 安全地帯は中心部だけだ。

 今から走っても間に合わない。


 俺は咄嗟にスキルを発動させた。


『スターラッシュ』


 地面を蹴らずとも、身体がロケットのように自動で直進する。

 スキルを使って強制的にレッドフロアを離脱しようとした。


 それは一瞬だった。


 俺が逃げた先に、まるで待ち構えていたかのように、赤い床が連続で発生する。


 オレンジの床は偽物フェイクか!

 理解しながら、俺は停止できずに本物のレッドフロアに突っ込んでいく。

 

 走馬灯のように、ツクモの言葉が蘇る。


ー スターラッシュはオートで発進する長所があるが、難点は止まれない事。攻撃を見切ってから使え。


 逃げ場が無い。


 その時、予想外の方向から衝撃があり、俺の直進は軌道が変わってスキルがキャンセルされた。


 地面に転がり、俺はその正体を見極めようと顔を上げる。


 小さな白いローブの人間。


 レッドフロアが消え、超高火力の攻撃が発生する。

 大量の白い矢印のようなものが上空に現れ、シロの真上から降り注いだ。

 シロのHPが、降り注ぐ白い矢印の雨によって、急速に減っていく。

 攻撃が止む事はなく、HPゲージはみるみる減り、ゼロになった。


 シロが数字になり、弾けて死んだ。


 余りに呆気なく、余りに衝撃的で、俺はその現実を、受け止められなかった。


 全く身体が動かない。


 蒼い星が、空を切り裂いて降ってくる、紙吹雪の大群に突っ込むと、全てを粉砕した。


 すれ違う刹那、ツクモが鬼神に憑かれたような表情が見えた。

 

 彗星は光の残滓を残しながら、人型の胸を貫通した。

 プラズマのようにそれはあらゆる角度から繰り返し、丸い刺傷は膨らみ、410goneの身体を容赦なく食い破る。


 流星群のように光が飛び交い、critical!が幾重にも表示される。

 410goneの HPは0になっていた。

 410goneは動きを止め、すっと透過する。

 数字が体にビッシリと表れて、渦を巻いたあと、爆散した。

 舞い上がった白い塵が凝縮し、金色のキューブになって地面に転がった。


 終わった。



 俺はふらふらと、シロの居た場所に歩いた。

 シロの立っていた土に触れ、小刻みに嗤う膝を地面に押し付けて跪いた。


 血を絞ったような猩々緋しょうじょうひの空を仰いだ。



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