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RPGデバッガー  作者: 白雪ひめ
東海地方編
13/65

殺人

 灰色だった世界が色付き、時が動き始める。

 俺は両手を挙げて言った。


「待ってくれ。俺は本当に話しかけただけなんだ。それを説明させてほしい」


 俺は剣をゆっくりと地面に置いた。

 だが、シロはロッドを俺の喉元に押し付け、微動だにせず冷たく言う。


「ツクモは装備とかを配ったりするだけで、直接指導はしない。嘘をつかないで」

「俺のマニュアルの能力が少し変わっていて、それにツクモが注目しているんだ。俺は上手くマニュアルを使えないから、指導と観察をされている」

 

 俺がさらに証拠を提示しようと、ユメを人間に変えようとした時、赤い予測線がシロの前に現れた。

 俺とシロは反応して直ぐに後ろへ飛び退いて躱す。

 ヒュン、と空気を切り裂く音と共に、矢が飛んできた。


 ススキの間から、フードを深く被ったデバッガー達が、ラプトルの如くサッサと群れを成して走ってくる。


「早く逃げて!」

「シロはどうするんだよ」

「ボクは平気だ。狙われるのは君だ!」


 あれ、ヤバい。

 同じ状況だ。

 ここで逃げたら、中途半端に追い詰められ、俺は殺される。

 俺は踏みとどまり、振り返ってシロに駆け寄った。

 シロが怒鳴った。

 

「お前まで守れない!殺すかもしれない!早く逃げろ!」

「一緒にいる!君はこのあと、彼らに暴力を受ける!それを放ってはおけない!」


 シロが俺の肩を掴み、突き飛ばそうとする。


「お前がいなきゃ、済む話だ!」


 俺は思わず言い返した。


「シロはそれで良いのか?あんなクズ達の命令を聞きたくないだろ!逃げるなよ!」


 シロがビクリと身体を震わせた。

 凄まじい眼光で俺を睨んだ後、シロは叩き付けるようにロッドを振った。


「あぁ、たしかにボクはあいつらが嫌いだ。でも、一々抵抗していたら面倒なんだ。それにクズでも自分の手で殺すのは嫌だ。殺すなら、お前が殺れ」

「分かった」


 シロが杖を振った。



『ターンアップ』



 シロの頭上にカードが表示され、それはゆっくりと裏返り、内容を見せた。

 カードの絵は、不思議な柄だった。


 ステンドグラス。


 教会のような場所の前で、怪我をしている男が松葉杖をついている。


 シロが唱える。



『小アルカナ ペンタクル5 雪』


 

 その瞬間、シロのロッドの先から、雪を伴う凝縮された吹雪がジェット噴射された。

 シロが反動で後ろへ吹き飛ぶ。

 凄まじい威力。


 鎌を振って飛び込んで来た男を、一瞬で凍らせた。

 男のHPは五分の一程しか減っていないが、ICE、という白い追加効果のマークがHPバーの上に表示されている。

 ヒイラギの時と同じような、行動を制限する状態異常だろう。


 シロは強い。

 戦おうと思えば‥‥勝てる。

 俺はシロを頼れば良かったんだ。


 俺は思いつき、駆け寄って言った。


「シロ、雪の塊を作ってくれ。身を隠しながら戦う」


 シロは俺を無視する。

 俺はシロの肩を掴んだ。


「頼む‥‥俺が、倒すから、アシストしてくれ」

「殺すの間違いでしょ」


 その時、周囲一体に赤い範囲レッドフロアが発生した。

 俺とシロは即座に反応し、走って範囲から離脱する。

 いっぱく置き、大量の矢の雨が降ってくる。その場にいたら、こっちがられていた。


 身を守るには、戦うしかない。

 この世界じゃ、多分そうなんだ。


 俺は駆け出した。

 前方で凍りついて動けなくなっている男に、全力で斬りつける。


『スラッシュ』


 両手で剣を握り、右上段から左下段へ、振り下ろす。

 ザシュッ、というアンリアルな効果音と、刃が通る感覚。

 クマとは違う、肉の薄いリアルな手応え。

 赤いコードが血液を模して散る。


 俺の単純な力にプラスして、スキルが発動し、ダメージが相乗される。

 男のHPゲージの4分の1が削られる。


 下段から、斜め右上へ振り上げ、クマの時のように、回転斬りで周囲に圧をかけながら、コンボを決める。

 デバッガーは複数いる。

 ふいにすすきから姿を現し、切り掛かったきたもう一人のデバッガーを、シロが雪の噴射で凍らせた。


 俺はICEのゲージが消えないうちに、素早く何度も斬り付けて、HPを削っていく。


 緑色のバーがゼロになる。

 男の身体が透けて、010101‥‥という数字の塊に変化すると、弾けて、あっけなく消えた。


 シロの作ってくれた複数の雪豪のうちの一つに隠れ、息を整える。

 胸が震えるくらいに、激しい動悸がした。

 長距離移動は出来るのに、どういう理屈なのか未だに分からない。

 ただ、興奮しているのは間違いなかった。


 シロが杖を掲げると、横殴りの激しい雪が吹き荒れる。

 デバッガー達は、よく見ると、同じ銀色のチェーンをズボンのベルトに装着していた。

 俺を探している大男が、金色のチェーンを付けており、リーダー格だと分かる。

 あいつを狙えば敵陣は混乱するかもしれない。

 さっきから、レベルが上がりまくっている。ピーンピーンピーンピーン、という効果音が止まると、ユメが言った。

 

『スターラッシュ』


 このロード線では得られていなかったスキルだ。

 身体に力が漲り、俺は剣を構えて地面を蹴った。

 次の瞬間、リーダー格の男の前に飛び出した。

 男が咄嗟に二本の槍を、下段中段に突き出す。自然と身体が動いていた。

 スターラッシュの勢いを僅かに相殺しつつ、突き出された槍を足場に、俺は高く跳躍して、宙で前転した。そのまま男の無防備な背後に回る。

 明らかなウィークポイントであろう、首に剣を思い切り突き刺すと、critical!の文字と、赤いコードが激しく撒き散った。

 01010101‥という赤いコードが血液に見えて、ゾッとする。

 剣を引き抜くと、男のHPがごっそりと減る。

 だが、残り三分の二。

 男のスピードは早く、男は振り向き、俺の横腹を槍先が掠めた。


 poison


 俺のHPゲージが一気に半分以上削られ、継続ダメージでじわじわと緑のバーが減っていく。


 死にたくない。

 

 心拍がヒートアップし、アドレナリンが爆発する。

 俺の知らない俺自身が、暴れ出すのを感じた。


『スターラッシュ』


 俺はわざと空中に向かってスキルを発生させ、宙へ跳び上がる。

 身体を翻し、男の脳天を狙う。


『スラッシュ!』


 男の頭上から、大上段で斬りつける。

 イメージと身体の回路がリンクし、俺は斬り付けた後、前転して華麗に着地した。

 直ぐに男の持っている槍の柄を片手でぐっと引き寄せる。前のめりに体勢を崩した所を、更に足払いで転倒させた。

 男はうつ伏せに倒れる。

 右手の剣で、首を突き刺した。

 赤いコードが噴出し、黄金色の美しいススキの生える地面に流れていく。

 男の頭上のHPバーがオレンジ色から赤に変わり、最終的にゼロになった。

 男の体が透け、コードに変わっていく。

 そして弾けるようにパッと消えた。



 俺が立ち上がって周囲を見ると、みんな命の危険を感じたのか、蜘蛛の子を散らすように逃げ帰って行った。


 倒した男たちは記憶が消えて、現実に帰るだけ、と分かっていても、手が震えた。

 ここでの時間を失わせる事は、ある意味、この世界での暮らしを奪った殺人ではあるのかもしれない。


 俺は、人を殺した。のか?

 こんな流用に、簡単に。


 シロが近づいてきて、茶色の瓶を投げてきた。


 antidote というラベルが貼ってある。


「解毒剤。あと10秒で死ぬよ」


 俺は慌てて瓶の蓋を開けて、それを飲み干す。

 抹茶と雑草を混ぜたような、苦い味。

 舌に残って、消えない。


 さっきから、ピーン、ピーン、ピーン、というレベルアップの音が絶えない。

 バグだけでなく、人間も経験値になるらしい。

 経験値。


 殺して帰還させた三人を多いと捉えるか、少ないと捉えるか、俺はまだ分からなかった。

 

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