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RPGデバッガー  作者: 白雪ひめ
東海地方編
11/65

悲鳴

シロ

白髪ロングヘアー→白髪ショート

変更しました

 美しいすすき野原を見ながら、独特すぎる異世界のセンスに改めて感心していると、遠くから小さな人影がやって来た。


 小さな人間は、近づくと足を止める。

 俺は警戒して片手剣を握ったが、相手からローブのフードを脱いだ。


「ボクはシロ。お前は誰だ?見かけない顔だな」


 俺はハッとした。

 そうか、この世界線の俺は、シロとは面識が無いんだ。

 俺は焦って自己紹介しようとすると、シロがローブの中から小さな手を出して俺を静止した。


「ツクモから聞いてる。君がイチね」

「あ、うん。ツクモはさっき現実に戻ったみたいだよ」


 フードを脱ぎ、シロが顔を出す。

 殺された事でイメージが最悪になっていたが、改めて見ると、西洋人形のような顔立ちで、見た目は可愛い。

 白髪のショートカットで、成長したら美人になりそうだ。

 小学生の中でも、中学年くらいだろうか。

 シロは桃色のピアスに触れ、メニューを表示する。

 小さくため息をついて、シロは片手を腰に当てた。大人ぶっているようにも見える。

 ハスキーな中性的な声で言う。


「ツクモは意外とマイペースなんだよ」

「毎回待たされてる口ぶりだな」

「その通り。本当に困る」


 こうして話をしていると、彼女が普通の人のように思える。

 でも俺は殺された。彼女コイツに。

 俺は試しに聞いてみた。


「俺の付けてる装備、欲しいと思う?」

「なに急に?要らない。ボクの装備は魔法系だから、物理は意味ない。防具でも、魔法攻撃力に繋がる【luck】のステが付いていないと、防御が上がっても、攻撃が弱体化しちゃうし」

「え、そうなんだ」

「知らないの?自分の装備よく見なよ」


 俺はメニューから装備を開いて確認する。

 でも、あの時、シロは俺の防具が欲しいと間違いなく言っていた。


「でも、売ることは出来るよな?」

「NPCの店じゃ安いし、人間間の取引も面倒。人殺してまで欲しい金じゃない。メリットよりもデメリットが大きすぎる」

「‥じゃあなんで‥」


 俺は思い切ってたずねた。


「君は、人を殺した事がある?」

「は?」

「急にごめん。でも、色々あったんだ。俺自身に。だから、参考として教えて欲しい」

「人殺しはやりたくない。でも、やらないと自分が殺されるなら、ボクはやる」


 あの時のシロには、やらなきゃいけない理由があったのだろうか。

 シロについて興味が湧いた。


「どうして君は、この世界に居たいと思うの?」

「仕事をしなきゃいけないから。現実じゃ、ボクの歳は仕事が出来ない。妹や弟たちを養わないと餓死するし、借金もある」


 餓死?今の日本でそんな事あるのだろうか。


「両親は?」

「あんた、馬鹿なの?」


 憎悪の滲んだ表情で睨みつけられた。


「ごめん」


 愚問だった。

 餓死するほどにお金が無い。つまり、働いていないか、亡くなっているのだろう。


「ボクのmanualタロットは、他人を占う事も出来る。他人にも使えるというのはつまり、需要があるという事。マニュアルを使って、上手くバランスをとって生きて来た。でも、不安だからって毎日占えって言ってくる人もいるようになって、執着されることもあるし、大変で、そんな時にツクモが助けてくれた。家に匿ってくれたり、安全なアイテムをくれたり、話を聞いてくれたり」

「そうだったんだ」

「うん。ツクモは恩人だよ」


 その時、目の前にグサっと地面に槍が突き刺さった。

 ススキが散り、土が飛ぶ。

 呆然としていると、シロに腕を引っ張られた。

 シロが素早くしゃがむ。


「伏せて!」


 辺りを注意深く見渡した。

 シロの背後に、赤く予測線が出現する。


 俺は咄嗟にシロの腕を掴んで引き寄せた。シロの背面に槍が突き刺さる。


 躱すことが出来た。

 安堵した瞬間、シロが俺を突き飛ばした。シロは杖を頭の上で掲げ、ガードの構えをする。すぐに二本目の槍が飛んできた。杖の表面に掠れる様にぶつかり、軌道修正されて遠い場所に落下する。


 更に赤い予測線が俺に向かって飛んでくる。

 俺は右手の剣を振り上げて、槍を弾いた。

 凄まじい衝撃。手から腕までがジンと痺れ、俺の視界左上にあるHPバーが五分の一減少する。

 反動だけでここまでダメージを喰らうなんて、信じられない威力だ。

 左右、前後、全ての方向からハイエナが獲物を追いつめるかのように、デバッガー達がゆっくりと歩いてくる。


「どうして急に襲ってくるんだ?」

「脅しよ。さっきも言ったでしょ、ボクは人を占える。狙われるのはアンタ!早く逃げて!」


 俺は逡巡し、走り出した。

 占いがあるなら、シロは殺されないはずだ。俺が逃げよう。

 包囲されていない方へ逃げたつもりだったが、ススキの間からデバッガーが姿を現し、行く手を塞がれた。

 人数が多い。

 どうしてこんなに狙われているんだ。

 デバッガー達は、一目見て、上級者だと分かった。

 金色の重装備で、肩や胸、足が覆われている。その上にフード付きのマントを着ていた。特定されないようにフードで顔を隠している。

 男は槍をブン、と縦に回転させながら、威圧的にがなり立てた。


「小ガッパがいるなぁぁ!そこをどけぇええ」


 男は俺に矢尻を向け、意味もなく「フゥゥウウウウ」と高い声で叫んだ。

 足が竦んだ。

 明らかに一般人の気性ではない。狂気を感じる。

 追い詰められ、気づけば俺は、シロの隣へ戻って来てしまった。


 シロは他のデバッガーたちに刃を突きつけられ、脅されていた。

 デバッガーが達がシロに問う。


「どうしてツクモにばかり占いを見せる?」

「‥‥ボス攻略を安全にする為です」

(ロッド)からカードにしろ」

「…」

「しろって言ってんだろぉおおが!」


 シロはビクリと肩を震わせて、武器をタロットカードに変える。

 男は、シロの持っていたカードをはたいた。


「どうして奴を贔屓にする?」


 タロットカードが散乱して、地面にはらはらと落ちて行く。

 シロは拳を握って言った。


「一日で占える回数は決まっているし、ボクは人前で占いが出来ない」


 他のデバッガーもシロを追い詰めて言う。


「今日一日死なないかどうか占ってくれよ」

「武器を強化しても良いか見てくれ」

「俺だけに使えって言ってんだよ」


 男はシロに向かって拳を振り上げる。

 俺は咄嗟にシロと男の間に割り込み、ちょうど男の右ストレートを顔面に受けた。

 ボガッと鼻血が弾けて、赤いコードが散らばる。

 HPゲージが半分までグンと減った。

 緑のバーがオレンジ色に変色する。

 嘘だろ。

 首根っこを持ち上げられる。

 視界の端で、落ちたカードを大事そうに拾い、両手でぎゅっと握りしめるシロの姿が見えた。

 俺は掠れる声で言った。


「シロはお前達の吉凶を占って、結果をツクモに伝える事で、死にそうな人間を助ける協力をしている。お前達が占いたいのが自分自身だとしたら、同じ事をしているのだから、問題ないだろ」

「うるせぇな、そんな事を聞いてんじゃねーんだよ」

「マニュアルはその人にとって大事なものだ」

「お前は関係ねぇだろうが」


 恐怖でブルブル身体を震わせているシロを見て、俺は心を奮い立たせて男に言い切った。


「シロは大人ばかりで恐ろしいはずだ。けれど、自分の信念を貫くために、この世界に生き残っている。こんな小さい女の子に、暴力するなよ!お前ら、恥ずかしくないのか!?」


 デバッガー達はケタケタ笑い出す。

 話にならない。

 俺は首根っこを掴まれたまま、身体を捻って男の顎を膝で蹴り上げた。男はふらつき、俺から手を離す。

 ゴリッという衝撃音が全身に響いた。

 身体が動かない。

 俺はゆっくりと仰向けに倒れた。

 シロの悲鳴が聞こえ、同時に世界が灰色に染まる。


 時が止まった。


 死んだのか?


 こんなあっさり死ぬなんて……本当なのか?

 自分がどう死んでいるのかさえ、把握できない。

 痛みも感じない。


 考える間もなく、暗い青空に被さるように、目の前に文字が表示される。


 ロードしますか?


  Yes NO


 俺は異様に軽い右手を持ち上げて、Yes を選択する。



 セーブデータ2  はじまりの街 噴水広場  にロードします


 

 世界が黒くなり、俺は死んだ。

 人は死ぬ。

 呆気なく、死ぬ。

 俺は身をもって、それを体感した。

 俺はバカだ。

 俺は自身の弱さを理解しなければならなかった。自分は弱い。弱くて短絡的で、自分一人の力じゃ何も出来ない。レベルだけでなく、経験も足りない。

 真正面から戦っても勝てるはずがなかったんだ。

 吸引され、潰されるような不快感が襲う。

 現実に帰りたい。

 だが、それ以上にロードして欲しいと願っていた。


 このままシロを放っておきたくない。



 俺は深い自省と悔恨の念に苛まれながら、次の瞬間、はじまりの街の広場に立っていた。


 朝の陽ざしが眩しい。

 NPCたちが街を歩いている。  

 赤レンガのタイル。洋風の建物、噴水広場、場所はあの時と同じ。

 だが、決定的に一つ、違うことがある。


「ツクモがいない」


 どういう事だ?

 セーブ地点で一緒にいたはずなのに。

 次に懸念されるのは、シロの事だ。


「落ち着け」


 セーブデータ2での初めてのロードに、ドクドクと心臓が鳴り始める。

 俺はセーブをした時のことを思い返した。

 セーブをしたのは確かツクモがシロと電話をする前の事だ。

 ツクモは電話をした事になるのだろうか。

 この世界線で、シロは待ち合わせ場所に向かうのだろうか。俺の事を話しておいた、とは言っていた気がするから、連絡は前日から取っているはずだが。


 俺はメニューを開いて自身のステータスを確認する。


「レベルも下がってる」


 時間を無駄にした喪失感と、データの消えた落胆は、驚く程、ゲームに似ていた。

 そして、次の思考も同じだった。


「次はもっと上手くやれる」


 俺のレベルでは、とても奴らと太刀打ち出来るとは思えない。

 だが、ツクモは言っていた。


ー この世界は、現実世界じゃないけれど、ゲームでもない。ちゃんと戦法を立てれば、低レベルでも強いバグが倒せる


 シロの悲鳴が耳に残っている。

 不思議なほど、冷静になれた。

 ある意味、昂っているのかもしれない。

 俺はやり直せる。

 俺は剣を強く握り、次の行動を考えた。

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