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ここで私は生きて行く  作者: 白野
第三章
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第39話 後遺症と断った理由

 屋敷を出て借家へついたのは陽が沈んでからだった。今回はディネロに送られることもなく、2人で人気のない道を帰り着く。

 着いてすぐに交互にシャワーを浴び、そのままベッドに倒れ込んで泥のように眠った。それほどナハトもヴァロも疲れ切っていた。ドラコもマントの下にいたとはいえ気を張り続けていたのだろう。2人と1匹は体が睡眠を必要としなくなるまで、ひたすらに睡眠を貪った。



 目を覚ましたのはドラコが一番、次にヴァロだった。寝すぎで硬くなった体は、伸びをするだけであちこちぱきぱきと高い音を立てて気持ちがいい。時計を見ると、丸一日近く寝ていたようだ。外は暗く、夜に差し掛かろうと言う時間である。


「おはよう…は違うかな?…まっ、いっか。おはようドラコ」

「ギュー」

「ナハトも起きるかな…?」


 起きるならナハトの分の夕食も買ってこようと、ベッドを降りてこちらへ歩いてきていたドラコを抱きかかえて近づいた。そっとベッドを覗き込んでみるが、ナハトはよく眠っていてまだ起きそうにない。帰ってきた時は熱があったため一応額に手を当ててみるが―――。


「熱は大丈夫そうかな…」


 ヴァロが触れてもナハトは起きない。この様子では、まだ起きるまで時間がかかるだろう。ならば今の内に食事を買ってこようと、ヴァロは簡単に身支度を整えて、足元にナハトの髪紐が落ちている事に気が付いた。上着を着た際にひっかけてしまったらしい。それをキャビネットの上へ置こうとしてまた落ちてしまうといけないと思い、そのままポケットに入れてドラコを連れて外へ出た。


「なんか、こうやって歩くのが久しぶりに感じるなぁ」

「ギュー」


 人が行きかう大通りを歩きながらそう呟けば、同意するようにドラコが鳴く。振り返ると、薄く降る雪の向こうに僅かにノジェス公爵の城が見えた。貴族に囲まれたあの場所での出来事があまりにここと違いすぎて、ほんの一日あちら側へ行っただけだというのに随分と長く離れていたかのような感覚だ。

 そうこうしている内に屋台の立ち並ぶエリアへ出た。店で食べる食事も好きだが、屋台はいくつも種類の違う美味しいものを買うことが出来るのでヴァロは屋台の方が好きだ。ドラコ用の生肉と自分用の串焼きと焼き飯、それと肉と野菜、魚と野菜を挟んだパンを幾つかと、後で温められる器に入ったスープを買った。


「足りるかな…?」

「グー…」


 ナハトは小食なのでどちらかといえばヴァロ自身の腹の具合によるのだが―――買い込みすぎてもうそろそろ持てない。袋か何かに入れてもらえばよかったと今さらながら後悔した。今持っている分だけでも腹7番目くらいにはなるだろうが、丁度見かけてしまったソースのいい匂いをさせるボール状の総菜がなんとも美味しそうである。だがこれを持とうとすれば、それこそ大道芸張りのバランス感覚が必要になるだろう。何よりナハトに見られたら”みっともない”と笑われかねない。

 しかしいい匂いにはあらがえそうもなく店の前で悩んでいると、右手側から聞き覚えのある声が聞こえた。


「あっ、ヴァロさん」

「え…あっ、クルムさん。こんばんは」


 声をかけて来たのはフェルグスのパーティメンバーであるクルムだった。今日は武器も持たず服も随分ラフなものだ。珍しいと思ってよく見ると、彼の背中側からこちらを覗き込む2つの小さな人影が見える。あまり大きくないクルムの背中にぎゅうぎゅうにくっついて隠れているのは彼の子供たちだろうか。クルムによく似た男の子と女の子が、かなり高い位置にあるヴァロの顔を恐々見上げてくる。


「ほら、挨拶しなさい」

「…こんばんは…」

「こ、こんばんは…」

「こんばんは」


 クルムと同じ横に伸びた細長い耳にクルムより明るい色の髪の男の子と、同じ耳に黄色に近い髪色の女の子だ。


(「そう言えば、前に11歳の娘と9歳の息子がいって言っていたな」)


 確かに年のころはそのぐらいで、女の子はボリュームのある三つ編みに顔を埋めるようにしながら、何故か警戒するようにヴァロを見る。それに苦笑いを浮かべてクルムは口を開いた。


「すみません。2人ともかなり人見知りで…」

「だ、大丈夫です。俺でかいから、結構怖がられやすいんですよね」

「冒険者としては羨ましいけどね」


 クルムは中肉中背で、その見た目に反して膂力はかなりのものだが、冒険者にしてはなかなかに小柄だ。顔も童顔であるので、先日フェルグスの息子であるカイセルに冒険者らしからぬと疑われたばかりである。それでもナハトよりはよほど冒険者らしいが、同じパーティメンバーのフェルグスやナッツェの体格がいいので実はコンプレックスなのかもしれない。


「俺はまだまだ体格負けしてますから…もっと鍛えて、クルムさんやフェルグスさんみたいに強くなりたいです」

「…お兄ちゃん、フェルグスおじさんのこと知ってるの?」


 そう声をかけられて視線を下げると、男の子の方が恐る恐ると言った様子で問いかけて来た。


(「確か、視線を合わせるといいんだっけ?」)


 以前ナハトに言われたことを思い出しながら屈むと、男の子の目から少しだけ警戒が薄れた気がした。それに少しだけほっとする。


「知ってるよ。君のお父さんとフェルグスさんには、たくさん戦い方を教わったからね」

「お父さん、強い?」

「それはもう!俺じゃまだ全然かなわないよ」

「…さすがにそれは言いすぎじゃないかな…?」


 少し照れた様子でクルムが言うが、実際ヴァロはまだまだクルムに勝てそうにない。

 槍捌きは素早く正確で、魔術を使えば勝てるかもしれないが使わなければまだまだこてんぱんにやられてしまうのだ。

 少年はどうやら父親であるクルムの話を聞くのが好きなようで、ヴァロの言葉にとても嬉しそうに笑う。


「そういえば、夕食を買っていたんじゃないの?帰らなくて平気?」

「あ…」


 クルムにそう言われて気付く。広場にある時計を見上げると、借家を出てから随分経ってしまっていた。もうナハトは起きているかもしれない。

 ソースの香りの総菜には後ろ髪を引かれていたが、一度帰ろうとヴァロは立ち上がった。その時ざわりと声が揺れて、周囲の人々が一斉に通りの先を見た。


「…あれ、ナハトさん?」

「え…」


 クルムの声に振り向くと、ナハトがきょろきょろと辺りを見回しながらこちらへ歩いてくるのが見えた。見えたが何というか―――ちょっとおかしい。

 服装はいつも通りきっちりしているのだが、どうにも買い物をしている周囲にまったく溶け込んでいない。おそらくヴァロとドラコを探しているのだと思うが、あちこち視線を巡らす様子がまるで貴族がお忍びでやってきているように見えるのだ。


「…?なんだかいつもと雰囲気が…」


 クルムがそう呟くのも頷ける。上手くいえないが、なんとも妖艶な雰囲気があるのだ。いつも一つに縛っている髪が風に揺られてよりその雰囲気を醸し出している。

じろじろ見られてナハトは居心地悪そうにしていたが、ヴァロとクルムに気づいたようだ。柔らかく微笑んでこちらへ歩いてくる。


「…王子様みたい」

「……グー…」


 クルムの娘の方が小さくそう呟き、ドラコがなんとも言えない声を上げて顔を覆った。

 それでヴァロは気付いた。ナハトはもともと所作がきれいだが、コルビアスの護衛騎士についた際、シトレンにその所作をさらに上の段階へ磨き上げられてしまったのだ。更に言うなら”令嬢を惚れさせろ”という任務を請け負っていた為、笑顔の指導まで受けている。それを舞踏会で繰り返した結果、物覚えのいいナハトはこの短期間でそれらが染みついてしまったのだ。

 貴族と関わり合いがあったことを隠すために顔を隠し、フレスカに口止めして護衛騎士の任務に当たっていた。だというのにナハトがこれでは隠していた意味がない。


「クルムさん、こんばんは。2人とも、探したよ」

「こんばんは、ナハトさん。髪を下ろしてるだけで随分と雰囲気が変わるね」

「そうですか?」


 ナハトの変化は髪を下ろしているせいだとクルムは思っているようだ。クルムがそう勘違いしている内に、出来るだけ早くここを離れた方がいい。ヴァロはどうやってナハトを連れてここから離れようかと考えをめぐらした。

 その間にもナハトはクルムと話しながら、無駄に色気を振りまいている。


「ちょっと髪紐が見つからなくて…少々邪魔ではあるんですが、そのまま出て来てしまいました」

「似合ってはいるけど、いつもにも増して大人びて見えるね」


 ヴァロは外側からポケット触った。ナハトは髪紐を探している。ならば、それは家にあるから今すぐ帰ろうと言えば、食事も買ってあるしすぐにここから離れられるかもしれない。


「ご、ごめんナハト!髪紐落ちてたから、無くさないようにキャビネットの中に閉まっておいたんだ」

「ああ、そうだったのか。キャビネットの中は探してなかったな…」

「髪邪魔でしょ?夕食も買ってあるし、すぐに…」


「帰ろうと」ヴァロが口にする前に、ナハトの服の袖が引っ張られた。それに反応してナハトは振り向き、袖を引っぱったのがクルムの傍らにいる少女だと分かって―――彼女の前に膝をついた。


「あ、ああ!そうだ!忘れてた!」


 咄嗟にヴァロは大きな声を上げて持っていた夕食をそのままクルムに押し付けた。クルムは慌てながらもそれを受け取り、彼の娘と息子はヴァロの声に驚いてびくりと肩を揺らす。

 それら全部を無視して、ヴァロは膝をついた状態のナハトを肩に抱え上げた。


「ヴァロくん!?」


 慌てるナハトを無視してそのまま走り出す。


「クルムさんすいません、急用を思い出したのでそれあげます!好きじゃなかったらごめんなさい!」

「君はいきなり何をするんだ!?」

「いいからナハトは黙ってて!」

「ギュー!」


 ドラコとヴァロの両方に怒られて、ナハトはよくわからないまま借家へ強制的に連れ帰られてしまった。

 その後、勝手に連れ帰ったことに対してナハトは文句を口にしたが、ヴァロとドラコから貴族らしさが染みついてしまっていることを逆に指摘され、懇々と諭される結果になった。


「せめて自分の所作がそうなってるってことを理解して!じゃないとバレちゃうよ!?」

「ギュー!」

「す、すまない…」


「意味もなく女の子を誘惑しない」とまで言われ、ナハトはなんともしょっぱい気持ちで謝った。




 数日後、ダンジョンへ入る許可が下りた。2日後である為、事前にルイーゼに今回は同行するのかを聞きにダンジョンギルドへと向かう。受付でいつも通りにルイーゼに会いに来たことを伝えると、何故か職員は苦笑いを浮かべながら口を開いた。


「ああ、ルイーゼ様は今自室におられません」

「…?どこかへ出かけていらっしゃるのですか?」


 いないとは珍しい。何か足りない材料でも買いに出かけたのかと問いかければ、職員は少々申し訳なさそうに眉を下げながら答えた。


「実は度重なる職務放棄が問題になりまして…罰として現在ダンジョンの監視任務にあたっております。…監視付きで」


 そう言って職員は窓の外を指し示した。それはギルド内から壁の中が確認できるよう取り付けられた窓で、そこから中を見てみると、ダンジョン前でルイーゼが職員に見られながら任務に当たっていた。頬を膨らませつつも、もう1組のパーティと協力して魔物を倒している。


「終了は16時です。その後でしたら自室にいらっしゃると思いますので、改めてお越しいただければと思います」

「わかりました。ありがとうございます」


 そう言って微笑もうとしたナハトの頬をドラコがぺしりと叩いた。慌てて少しだけ顔を引き締める。

 どうもナハトは”微笑む”癖がついてしまったようだった。所作については冒険者であると意識することで幾らか改善されたが、”微笑み”についてはどうにも戻らなかった。

 今までも何かと微笑んではいたのだがそれとどう変わったのかが自分ではわからない。ヴァロにダメだしされつつも模索したが、以前との違いが自分ではわからないため対処の方法が”微笑まない”という手しかなくなってしまったのだ。幸いにもドラコが事前に察知して指摘してくれるため、先日のような”事故”は今のところない。

 ルイーゼの仕事が終わる時間を待つことにして、ナハトたちは一旦ギルドを後にした。


「ナハトは天然のタラシだね」

「…随分な言い方をしてくれるじゃないか」

「だって、自覚ないんでしょ?」


 行動に対して自覚がまったく無いわけではないが、指導された微笑みをしただけで”タラシ”と言われるのはいただけない。全てはナハトにこの微笑み方を指導したシトレンのせいであるが―――その文句を言おうにも、もう会うことは無いのだからどうしようもない。


「そう言えば、もう監視の目はないかい?」


 借家へ帰り、ナハトはヴァロにそう問いかけた。

 コルビアスの元を離れて今日で3日目。1日は疲れて寝ていて、その次の日も一日中だらだらして過ごし、まともに外へ出たのは今日が初めてだった。コルビアスの依頼を受けるまでは外へ出る度に感じていた視線だったが、今はどうなのだろうか。


「ないと思うよ。少なくともディネロの視線は感じない」

「そうか」


 ならば本当の意味でナハトたちの役目は終わったとみていいのだろう。ナハトがほっと息を吐くと、反対にヴァロは視線を巡らせて立ち上がった。そしてまた何かに気づいたように座る。

随分と不審なヴァロの行動に、ナハトは苦笑いを浮かべながら声をかけた。


「どうしたんだね。随分不審な動きをしているが…また気になる事でも?」

「あっえと…最近ずっと盗聴防止の魔道具使ってたから一瞬使ってない事に慌てたんだけど、そういえばもう必要なかったなって思って」

「ふふ、なるほど。それで?何か聞きたいことがあったんだろう?」

「あ、うん」


 そう言ってヴァロは頭の後ろをかきながら口を開いた。


「俺、ナハトはあのまま護衛騎士を続けることに頷くと思ってたんだ。だけど断ったから、なんでかなって」

「…私は寧ろ、君が何故あの状況で私が受けると言うと思ったのか聞きたいがね」


 あの状態でナハトが頷くことがないというのは、ヴァロならばわかりそうなものだが―――。

 問われたヴァロはきょとんとした顔でナハトの質問に答えた。


「え?だってナハト、子供好きでしょ?」

「……は?」

「えっ?気づいてなかったの!?」

「私が子供が好きとは…どこでそう判断したんだね?」


 そんな自覚はなかったが、ヴァロはさも当たり前のようにそう思った理由を説明した。それによると、ナハトは相手が自分より幼いと無条件に対応が甘くなるらしい。カントゥラではニンが失礼な事を言っても怒らなかったが、相手がアンバスやイーリーの場合は言い返していた。ナナリア相手には言わずもがな、マゴットや、途中で会った年下の冒険者相手と話している時は、表情からして違ったそうだ。


「………」

「自覚なかったんだ?」

「ああ。まったく…」

「ギュー…」


 ドラコが呆れたような声を出して、ナハトの頬に頭を押し付けて来た。という事はドラコも気づいていたらしい。知らなかったのはナハトだけという事だ。


「ナハト、コルビアス様が魔獣を倒すって言った時や脅された時、すごい腹を立ててたでしょ?なのに子供だからって休ませようとしたり、なんだかんだ言いながらも魔獣倒すのに協力して…。いつもなら怒る場面もいっぱいあったのに、怒らないで協力してた。本当にあっちは困ってるみたいだったから、やるって言うんだと思ってたんだ。なのに断ったから、何でだろうって思って」

「そうやって分析されると、なんとも居心地が悪いな…」


 ヴァロがそう思った理由は分かったが、ナハトが断った理由は単純だ。コルビアスの提案は、「相手が困っているようだから」で受けられるような簡単な問題ではなかったからだ。


「君が言う通りだったとして…そんな情で受けるには、少々大きすぎる問題だったから…というのが理由だな」

「大きすぎる問題って…?」

「コルビアス様は”ノジェスにいる間だけ”と言っていただろう?具体的な期間ではなく、いる間という曖昧なものだった。王族は首都の城にいるものらしいが、あの様子では城に居場所があるとは思えない。ということは、彼のメインの居住地がノジェスのあの屋敷である可能性があるわけだ。ならば、あそこでやると答えたら、半永久的に護衛騎士にされる可能性があった」

「あ…」


 ヴァロが驚いた顔で口に手を当てた。

 コルビアスが悲しそうに顔を歪めて懇願していたが、その裏でナハトが言う通りの事があったかもしれないと思うと背筋がぞっとした。忘れていたが彼はナハトとヴァロを脅して護衛騎士にさせたのだ。裏でそう考えていた可能性は大いにある。


「1度だけならまだしも、半永久的になど受け入れることは出来ない。なにより、そんな言葉遊びでこちらを縛り付けようとする相手を信用できないだろう?」

「うん…」


 卑怯と言ったナハトの言葉はその部分を指摘する意味もあった。言われた直後のあの顔からして、コルビアスがそのつもりで言っていたのは確かだろう。でなければ、あそこまでショックを受ける意味が分からない。最初にやったことも卑怯ではあるが、あのやり方は貴族や権力者が取る常套手段だ。ショックを受けたとしてもそこまでではないはずだ。


「だからあちらが答えられないだろうと分かったうえで、あれだけのものを並べたんだ。それに、ある意味忠告でもあった」

「…どういうこと?」

「…あちらは監視をつけて私たちの事を調べ、ディネロに至っては私たちを使ってカントゥラでひと騒ぎを起こした。それを謝りもせず、彼の事は隠したままで、コルビアス様本人の情報や立場も全て隠して言うことを聞かせようというのはあまりに公正ではない。だけれど、コルビアス様が私が提示したことのすべてを言えるのであれば、そこで初めて私たちは平等になる。そうして頼むのが、本当に真摯なお願いだろう?」


 「お願いと口にするならば」と、ナハトは呟いた。護衛騎士になるからには、命を懸けてコルビアスを守るという事だ。彼自身に王族としての力はなく、ナハトたちを立場で守ることが出来ない。リューディガーやシトレンらは忠誠心で仕えているのだろうが、ナハトたちは冒険者で報酬が必要である。金銭にも困っていない今、護衛騎士をやる事にはデメリットしかないのだ。

メリットを提示できず、デメリットしかない事を「お願い」するのであれば、せめて気持ちくらいは真摯でなければならない。


「…そうだね。無理やりやれって言われても俺たちにはやることがあるし…。それに俺、多分ナハトが危なくなったら、コルビアス様放ってナハトを助けに行く自信があるな」

「…事実、背負っている事を忘れて駆け寄ってきたしな」

「あはは…」


 コルビアスが貴族で王族であり、尊重される立場なのは分かる。だがそれを真に理解できるのは貴族だけだろう。平民であるナハトたちには難しく、そして、そんな関係ではヴァロが言う通り咄嗟に裏切ることになる。

 初めから裏切る前提で受ける仕事などないし、そんな簡単にかけられるほど安い命ではない。


「そういうわけで、私は断ったのだよ。…理解できたかい?」

「うん。…安易に可哀想だけで考えちゃいけないね…」


 少し悲しそうに目を伏せるヴァロに、ナハトは笑う。


「君はそのままでいい。言葉の裏を読むのは私の役目だ。相手を心配してそわそわしてもいいが、何かを提示された時は相談する。それさえ守ってくれたら、ヴァロくんは好きなだけ相手を心配するといい」

「……それって褒めてるの?貶してるの?」

「さて」

「ギュー」


 ナハトが応える代わりに、ドラコが鳴いてヴァロの肩へ飛び移った。頭を押し付けてきたドラコになんだか誤魔化されている気がすると思いながらも、ヴァロも笑ってドラコを撫でた。









冒険者に様をつけて丁寧に喋る職員とそうじゃない職員がいるのは、ギルドが受け付けている時間かどうかによります。

それとルイーゼは好き勝手するのでかなり職員の対応も雑です。

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