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ここで私は生きて行く  作者: 白野
第三章
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第7話 魔力の検証とノジェス観光

 ルイーゼが訪ねてきた翌々日、やっと熱が下がったナハトは、ヴァロ、ドラコと共にダンジョンギルドを訪ねた。ネーヴェからあの日の聴取を取りたいと知らせを受けていたからだ。

 受付で伝えると、すぐに奥からネーヴェが出て来た。そのまま応接間まで案内され、ソファに座るよう勧められたのだが、何故かネーヴェの表情は少しの緊張を浮かべていた。先日の騒動の聴取と聞いていただけに、ルイーゼに忠告された呼び出しについてが頭をよぎる。


「お話の前に、少しよろしいですか?」


ネーヴェにそう言われて、ナハトは頷いた。どうぞと口にすると、礼を言ってネーヴェが話し出した。


「宿を移って数日たちますが、住み心地はいかがでしょうか?」

「…?深夜も静かで、快適に過ごさせていただいてますよ」


深刻な顔の割に当たり障りのない質問で内心首を傾げる。不思議に思いつつも快適であることを伝えると、ネーヴェはほっとしたように息を吐いたがすぐに真剣な顔で姿勢を正した。


「一軒家は準備いただくものが多いのですが…何か、お困りのことは無いでしょうか?」

「お困りの事…?」

「はい。その…寒いとか、食事の用意が大変だとか…。あまり公には出ておりませんが、一応ギルドでは専用の労役もございますので…!」


思わずヴァロと顔を見合わせる。イマイチ質問の意図が分からないが、これは金銭について聞かれているのだという事は分かる。

金銭の貸し借りについてはあまり口に出すことではない。それは、カントゥラでニンらに教えてもらった事だ。ナハトたちからも口に出していない以上、労役についてというのが、あちらがぎりぎり口に出来る範囲なのだろうが―――。


(「今、何故そんな話を?」)


ナハトがそう聞いてもいいが、正直なところ金銭に関してのルールが曖昧なナハトが答えるよりも、ヴァロが答えた方が間違いは少ないだろう。

ナハトは隣に座るヴァロの肩を叩くと、任せたと口にした。


「わ、わかった。えっと…十分に夜を過ごせます。ありがとうございます」


やはり任せて良かった。どういう意味かは分からないが、わざわざヴァロがそう答えたという事は、答え方があったという事だ。後でどういう意味なのかを聞かねばならないが、とりあえずよかったと、ナハトは顔を上げた。

だが、ネーヴェの顔は困惑を浮かべていた。思わず声をかける。


「…どうされましたか?」

「あ…申し訳ありません」


何故か謝罪を口にするネーヴェ。首を傾げると、意を決したように顔を上げた。


「……ヴァロ様、わたくし…何か失礼をしてしまいましたでしょうか?」

「えっ!?俺!?」


名指しで言われて戸惑うヴァロ。わたわたと慌ててはいるが、ネーヴェの顔は真剣そのものだ。何か行き違いが起きているようだが―――。


「ヴァロくん。君、何をしたんだね?」

「お、俺何も…」

「ネーヴェさん、そう思われた理由をお話しいただけますか?」


ヴァロに聞いてもわからなそうなのでネーヴェに問う。すると、彼女は少々躊躇った後に口を開いた。


「…先日、ヴァロ様が宿の変更を求めにいらっしゃいました。その時に、幾つか宿をご提示させていただいたのですが…どうしても、一軒家がいいと申されまして…」


一軒家にしたという報告だけもらったが、どうしても一軒家がいいと言っていたとは初耳だ。ヴァロがそうしたかったなら文句はないが、それがこの話にどうかかわってくるのだろう。


「ご説明させていただいている間も、目は一切合わせていただけませんでしたし、宿ではなく一軒家がいいと申されますし…。一軒家は、借主の匙加減で…その、コストが大きく変わります。ですから…」

「ああ、なるほど」


はっきり言わず目も合わせずにしゃべるヴァロに、お金がないから一軒家がいいと言ったとネーヴェは思った。だから金銭について遠回しに聞いたが、問題ないとの回答をもらった。ならば、ヴァロが目線を合わせずはっきり言わなかったのは、ネーヴェに何か不備があったからかもしれないと―――そう思い込んだという事だ。


「ナハト…?」

「ヴァロくん、これは君が悪いよ」

「えっ!?俺なんかした…?」

「したとも。ネーヴェさん、どうぞ顔を上げてください」


そう言うと、ネーヴェは恐る恐る顔を上げた。ナハトはそんなネーヴェに笑いかけて、口を開く。


「ご不快な思いをさせて申し訳ありません。彼は、極度の照れ屋なんです。女性と一対一ではうまく話せないほどの照れ屋で、さらに恥ずかしがり屋なんです」

「えっ…?」

「な、ナハト!?そんなにはっきり言わなくても…!」


文句の声を上げるヴァロにため息を返し、ナハトは言う。


「君がいつまでも女性に対してそれだから、ネーヴェさんが勘違いしてしまったんだよ?君のせいなんだから謝ったらどうかね」

「うっ…あの、すみません…」

「い、いえ、わたくしの方こそ…申し訳ありませんでした」


ネーヴェが視線を合わせると、反射的にまたヴァロが顔を逸らす。注意はしたが、ヴァロの恥ずかしがり屋は筋金入りだ。すぐに治るものではない。

だから代わりに、ナハトはヴァロの耳を指さした。ヴァロは肌はもちろん髪も耳も白い。真っ白なその耳が、今は薄ピンク色になっている。


「…ね?」


低く笑うナハトの様子に、ネーヴェも小さく笑った。




その後はルーイ名乗るという職員がやってきて、ナハトとヴァロは聴取を受けた。

全員に聞いているのだろう一通りの質問と、ナハトとヴァロが見た状況を、事細かに記載していった。


「ご協力いただき、ありがとうございます」

「お役に立てたなら良かったです」


そう返して聴取は終わった。しかし終わったもののルーイは席を立たず、ちらりとナハトを見る。

その視線は先ほどネーヴェが何かを言い難そうにしていた姿を想起させて、思わずナハトは口を開いた。


「何か、私たちに仰りたいことがあるのではないでしょうか?」

「……はい」


こちらから声をかけた事が良かったのか、ルーイは少しの沈黙の後そのまま言葉を続ける。


「あの、今回…ナハト様の具合が悪かったことは、承知しております。ですが、何故勝手に帰宅されたのでしょうか?」

「それは…」

「ルーイ、それでは伝わりませんよ?」


隣で聞いていたネーヴェがそう声をかけた。先ほど、ヴァロとの行き違いがあったからか、少し恥ずかしそうに口を開く。



「少し補足いたしますね。先ほどナハト様も仰った通り、冒険者にはダンジョンで問題があった時に駆け付ける義務があります。今回全て魔物が倒されたとはいえ、何も言わずに立ち去ってしまうのは、その責任を放棄したとみられかねません。お気を付けください」

「はい…。それについては、今後気を付けます」

「ありがとうございます。それで…少々申し上げにくいのですが、今回ナハト様方が帰宅されたことにより、ある疑惑が、持ち上がっております」

「…なんでしょうか?」


勿体ぶった言い方に、少しだけ緊張が走る。


「ナハト様が、あの大魔術を行った魔術師ではないかという疑惑です」


ルイーゼからも、多少疑われるとは聞いていた。魔術師がやったというのは誰でもわかるとも。あの場にいた植物の魔術師はナハトだけのようだし、そう疑惑が向くのも無理はない。

ナハトはわざと驚いたふりをして、手を自分の胸に当てた。


「私が…ですか?」

「はい。…ですが、ナハト様が魔力過多を起こしていたとの証言は複数出ておりますし、疑惑とは言っても些細なものです。問題は、別のところにあります」

「別のところ?」


その質問に答えたのはルーイだった。ナハトたちの聴取内容を見ながら口を開く。


「実は、今回の事に騎士様が大変興味を持っておられて…。魔物を捕らえた植物の魔術師を探そうとしているようなのです」

「えっ…」

「誰があのような魔術を使ったのかわかりませんが、今、ノジェスにいる植物の魔術師はお二人だけ。ウィストル様とナハト様です。ですから、恐らく騎士様の方から、ナハト様にも聴取のご連絡があると思います」


先日ルイーゼから聞いた話がそのまま出てきて、ナハトとヴァロは普通に驚いた。事前にルイーゼから聞いてはいたが、本当にそのままなので、貴族からの襲撃も本当にありそうだと嫌な汗をかく。


「念のための聴取ですし、あちらにはナハト様の等級もお伝え済みです。今回させていただいた聴取のようにお答えいただければ、問題ないと思います」

「わかりました。ありがとうございます」




 ネーヴェとルーイからの聴取が終わり、時刻は昼過ぎ。ダンジョンがある広場へ続く門まで下りてくると、そこには当番についているはずのルイーゼの姿があった。


「あっ、来た来たぁ!待ってたわよぉ♪」


 元々ルイーゼとはこの時間に約束をしていたが、まさかここで待っているとは思ってもみなかった。

 ルイーゼの横には少々げっそりした顔の職員。どうやら、調べたいことがあるとごり押しして、ナハトとヴァロが一次的にこの門を通る許可を取り付けたらしい。申請もしていないのにそんな事が可能なのかと驚くが、事実下りたのだ。凄いのか酷いのかわからないが、ルイーゼがやり手というのは確かだ。

 そうまでして、許可をもぎ取った理由はただ一つ。ナハトがダンジョンに入ると必ず魔力過多を起こすのか、それとも前回がたまたまだったのか、その検証をするためだ。前回がたまたまの可能性は低くはあるが、試さない理由はない。

 万が一たまたまだった場合は目も当てられないが。


「早速だけどぉ、試してみてくれる?」

「…わかりました」

「き、気を付けてね?」


 そう言うヴァロに頷いて、ナハトはダンジョンの虹色のそれに手を伸ばした。ユニコーンの時のような膜の感触はない。だが、そこには確かに見えない壁を、指先に感じる。

 ごくりと息を飲んで、そっと指先を押し込む。特に何の反発もなく、指先がそれを越えた瞬間―――。


「…っ!」


 指先から濁流のように流れ込んでくる魔力を感じて、ナハトは慌てて指先を引き抜いた。


「ギュー!?」

「ナハト!大丈夫!?」

「…大丈夫だ」


 気付いてすぐに引き抜いた為、何とか抑えられる程度の魔力量で済んだ。それでも念のため指先を傷つけ、魔石に魔力を流す。


「うーん…。あの時がたまたまーってわけじゃ、やっぱりなかったみたいねぇ…」

「そのようです…」


 やはり入れないのだろうか。そんな不安が顔に出たのか、ルイーゼが笑ってナハトの肩を叩く。


「だーいじょうぶっ♪ちゃんと入れるようにしてあげるわぁ」


「ちょーっと時間が欲しいけど」というルイーゼに頷いて任せ、ナハトらは一度ダンジョンを後にした。




「本当に大丈夫かなぁ?」

「大丈夫だろう。彼女が魔道具を作るのが得意だというのは事実だからな…」

「ギュー」


 襟元から顔を出したドラコの頭を撫でながら、通りを歩く。

 今日は特に予定もなく、だからと言ってギルドで何か依頼を受けるのは時間が中途半端であったため、一度町を隅々まで歩いてみることにしたのだ。


「ナハトはそう言うけど…俺、あの人の変態っぽい所しか見てないから…」

「…まあ、変態なのは間違いない」

「そういう意味でも、大丈夫?って思うんだけど…」


 ちらりと見降ろされて、妙に気まずくて視線を逸らす。なんだかんだで血と涙、汗まで渡してしまった。ルイーゼは確かに優秀だが、何か頼む度にこれではあまりよろしくない。


「もう魔術の事聞けたんだから、あんまり仲良くしすぎない方がいいよ?」

「ああ、そうだね…」


 頷くと、どこからかふわりといい匂いが漂ってきた。食欲をそそる濃い香りに、隣を歩くヴァロのお腹がなる。

 この先は昼時という事もあって屋台が多く出ているようだ。あちこちからいい匂いがして、にぎやかな声が響いている。


「ふふ、そう言えば昼食がまだだったな。せっかくだ、食べ歩きと行こうじゃないか」

「あっ、いいね!そしたら俺、あれ食べたい」


 指さしたのはこの香りの元の屋台。何かを塗って、炭火で焼いているようだ。屋台の前には香りにつられて複数の人が集まっている。

 そわそわするヴァロに笑いながら屋台を覗き込むと、どうやらカウムに複数の調味料を合わせたものを塗って焼いているようだ。


「いい匂いだね」

「買ってくるよ!ナハトは食べる?ドラコは?」

「私とドラコは良いよ。君の分だけ買っておいで」

「わかった!」


 駆けて行くヴァロを見送って、ナハトは右手にある屋台に向かった。そちらでは暖かい飲み物を売っているようで、湯気の上がる器がいくつも並べられている。屋台の前に置かれた木札には、ノジェスで寒さの洗礼を受けた時に口にしたホットビアと、バターミルク、他にもミルクティーやチャイなど聞き慣れないものもある。

 どれも気になるが、一番気になるのはこの独特な香りのするチャイだ。ナハトは自分の番が来るのを待って店主に問いかけた。


「すみません、このチャイというのは何でしょうか?」

「これは紅茶に砕いたスパイスを入れて煮だして、ミルクを入れたお茶だよ。独特な香りがするだろう?」

「そうですね。嗅ぎ慣れない香りです」

「ここじゃどこの家庭でも飲まれてるお茶さね。寒いならオススメだよ」


 ネーヴェのところで口にしたあれだろうか。香りが違う気もするが、結局ナハトはそれを頼んだ。ヴァロにはホットビアを買い、戻ると、串焼きを5本も買ったヴァロがいい笑顔で待っていた。


「おかえり!何買ったの?」

「飲み物だよ。これはチャイというらしい。君にはホットビアだ」

「あっ!ありがとう」

「…それより、食べ歩きと言ったのに5本も買うとは…どこかに腰を落ち着けた方がいいかね?」

「大丈夫」


 そう言って、ヴァロは早速その串焼きにかぶりついた。目を輝かせながら咀嚼しているところを見ると、よほど気に入ったらしい。あっという間に左手に持っていた串焼きを食べきり、ホットビアを受け取る。一口飲み、これは飲みすぎると呟く。


「これ、すごくヤバいよ。この串焼きとホットビアは合いすぎる…」

「ふふっ、それはよかったね」


 問題なさそうなのでそのまま通りを進む。進みながらナハトは燻製にした魚介と野菜を挟んだパンを買い、ドラコにはラシャペという小動物の肉を買った。パンにかぶりつくと、燻製のいい香りが鼻を抜けて、思わず口角が上がる。少し酸味のあるソースもなかなかだ。ドラコには小さく裂いたラシャペの肉を両手に持たせてあげると、肩の上で器用に首を捻ってちぎり、咀嚼して、こちらも目を輝かせた。どうやら気に入ったらしい。

 ヴァロはまた別の串焼きと、具の入った揚げパンのようなものを次々とつまむ。どれも美味しいらしくいい笑顔だ。ホットビアも結構な量口にしているはずだが酔った様子はない。


「ヴァロくんは、酒に強いようだね」

「そうなのかな…?村にいた時はあんまり飲んだ事なかったんだけど、ここはご飯もお酒も美味しくて…特にホットビアはかなり好きだな」

「そのようだな」


 町を東西に横断する大通りに出ると、今度は飲食店以外の店が目立つようになった。

 カントゥラも大きい町だと思っていたが、ノジェスはダンジョン都市というだけあってその大きさは段違いだ。武器屋や雑貨屋一つにとっても、品揃えから全然違う。商業ギルドや木工ギルド、鍛冶ギルドなどの建物も大きく、大通りに面して複数のギルドが並んでいた。


「あちらへ行ってみようか」


 今日は陽が出ているせいもあって、子供の数も多い。たくさんの子供が駆けて行くので、興味をひかれてそちらへ進む。

 町を見て歩きながら、ふと思い出して、ナハトはヴァロに問いかけた。


「そういえばヴァロくん、ネーヴェさんに言っていた、"十分に夜を過ごせます"というのはどういう意味なんだね?」

「ああ、あれはね…」


最後の串焼きを食べながらヴァロが説明してくれた。それによると、ここでは色が物事の優劣や十分、不十分を強く表していて、等級と同じで白が下で赤が上。

今回のことで言えば、空が一番赤いのは陽が沈む時―――つまり夕方だ。それより先の夜と表現したことにより、赤を超えるほど十分に金があるという事を指したことになる。因みに一番困っている状態を表す時は、夜の反対、朝日が昇らないと言うらしい。


「魔獣から出る魔石も、強いやつほど赤くて透明でしょ?あと、王族の人は皆髪が赤いんだって。それもあるからかもね」

「なるほど。確かに髪の色は赤茶は見た事があるが、赤というのはないね」

「でしょ?俺もないよ」


 話しながら少し歩くと、大きな広場が見えてきた。山のように積まれた雪から子供たちが滑り降り、その山の下には一面の氷が広がっている。子供だけかと思ったが、よく見ると氷の上には大人の姿もある。器用にその上を滑り、時折転んでいる者もいるが、くるくると踊るように動き回る者もいる。


「楽しそうだなぁ…!」

「驚いたな。雪や氷だけでこれほど遊べるとは」


 雪玉を投げ合って走り回る子供たち。ナハトも雪に触れてみると、思いのほか柔らかかった。ドラコの顔のあたりに雪を持って行くと、興味深そうに鼻をひくつかせて頭を突っ込んだ。しかしすぐにその冷たさに震える。


「ふふっ、冷たいね。そらっ!」

「わっ!?」


 子供たちに習ってナハトもヴァロに雪玉を投げた。が、雪玉は当たる前に形を崩し、空中で分解されてサラサラと風に流れて行く。


「ふむ。水分が少ないのか?」

「ぺっぺ…口に入った!」

「はははっ!小麦粉をかぶったようじゃないか」

「お兄ちゃんたち冒険者?」


 少し離れたところから声がかかってそちらを向くと、数人の子供がナハトらを見ていた。上着を着てしまったせいでいつもつけているバッジが見えない。それに気づいて少し前を緩めて見せてやれば、パッと子供たちの顔に笑顔が浮かぶ。


「うん、そうだよ」

「私たちに何か御用ですか?」

「ごよう?」

「ええ、何かお願いしたいことでもありましたか?」

「あっ、うん!ゲームしない?」

「ゲーム?」


 ヴァロが首を傾げると、少年らは駆け出して、大きな雪玉のそばまで行った。その雪玉は縦横幅が樽2つ分ほどの大きさがあり、よく見ればその先には背の高い木と、少年らの傍にある雪玉と同じくらいの大きさの雪玉がいくつか転がっている。


「この雪玉を、どこまで投げられるかってゲーム!」

「冒険者の人にやってもらってるの!」

「今一番の人は、あの木までだよ!」

「持ち上げられない人もいるんだよー!」

「ふむ…?」


 単純なゲームのようだが、持ち上げられない人もいるとは―――そんなに重いのだろうか。

 ナハトは興味本位で雪玉に近づき、手を乗せてすぐに気づく。固い、恐ろしく固い雪玉だ。これは雪というより氷の塊に近いのだろう。とてもナハトが持ち上げられるものではない。


「…因みに魔術の使用は?」

「だめー!」

「なるほど…。ならばヴァロくん、頑張ってくれ」

「えっ!俺!?」


 己を指差すヴァロに頷く。ナハトが持ち上げられず、魔術も使えないのだから、これはヴァロがやるべきだろう。

 そういえば、ゲームという以上、何か勝敗なり景品なりがあるのだろうか。そう思い、ナハトは最初に声をかけてきた少年に問いかけた。


「もし彼があの木の向こうまで雪玉を投げられたら、何か景品などあるのでしょうか?」

「あるよ!」

「あのね!この町で一番ご飯が美味しいお店教えてあげる!」

「ほお…?それはそれは…」


 なかなか良い情報だ。美味しい食事は大切だ。住人に聞くのもいいが、こういうのは意外と子供の方が色々知っていたりする。

 しかも彼らはそれを景品にしている。期待できそうだと、ナハトは子供に囲まれて戸惑った顔のヴァロに笑いかけた。


「というわけで、ヴァロくん。頑張ってくれたまえ」

「ええー…でも、ご飯が美味しいお店か…。よし、俺やるよ!」

「任せた」

「ギュー!」


 子供たちもわーっと声を上げて盛り上げる。その声に釣られて更に集まってくる子供たちに囲まれ、ヴァロは困惑しながらも上着を預けて腕を回す。


「危ないから離れててね」

「無理はするなよ」

「うん!」


 頷いて、ヴァロは雪玉を抱えた。すぐに冷気が肌を刺し痛みを感じる。だが持ち上げられない事はなさそうだ。雪玉に爪を立ててグッと力を込める。


「持ち上がるかな…!」

「頑張れ!」

「がーんーばーれー!」


 応援する子供の声に応えるように、ヴァロは一気にそれを持ち上げた。それに歓声が上がる。

 だがやはり結構な重さなのか、数歩ふらつき、何とか踏み留まった。


「ううっ、重い!くそっ、みんな離れてね!…せーのっ!!!」


 ぶんっと音を立てて、大きな雪玉が飛んで行った。それはあの大きな木を超えて、更にその向こうまで―――町の城壁を軽々と超えて見えなくなった。


「……は?」

「えっ…」


 ぽかんとした顔の面々。だが、次の瞬間には、子供たちは大騒ぎでヴァロに駆け寄っていった。少し遅れて見物人も口々に褒め称える。


「すっげー!!!」

「お兄ちゃんすんごい力持ちなんだね!」

「かっこいー!」

「えっ…あ、いやぁ…あはは…」

「君は子供に褒められてもそれなのかね…」


 子供たちにたかられて動けなくなったヴァロを見てナハトは笑った。


修正していて気づきました。

色に関して書いたところがごっそり抜けてる…。

大変失礼しましたです。

えー因みに、ヴァロをいじめていたヨルンですが、ヴァロの髪が白い事もあっていじめていました。

白=弱者という事ですね。実際は違いましたが…

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