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ここで私は生きて行く  作者: 白野
第三章
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拠点探し

 ナハトがルイーゼの元へ行っている間、ヴァロは拠点探しのためにギルドへ向かった。

 朝早かったが、冒険者ギルドの中にはたくさんの冒険者の姿がある。ダンジョンに潜る冒険者も多いが、ダンジョン都市の周りはダンジョンの影響か、強い魔獣もそれなりに多い。その討伐の為の依頼を受けている者たちもいるのだ。

 他の町と違って、ダンジョン都市のギルドにいる冒険者は、ほとんどが黄等級以上。誰も彼も強そうで、妙に緊張しながらヴァロは受付へ向かった。


「すみません、あの…」


 声をかけると、すぐに1人の女性が反応してくれた。青い髪を肩口で2つに縛った小さな三角耳の女性だ。

 よく考えたら一人で若い女性と話すことなんていつ振りだろうか。それに突然気がついて、恥ずかしさで顔が熱くなる。


「はい、なんでしょうか?」

「あああああの……ちょ、長期で泊まれるところを紹介してもらいたいんですけど…」

「長期で泊まれる宿のご紹介ですね。畏まりました。確認しますので、身分証をお願いできますでしょうか?」

「…は、はい…」


 おどおどしながら身分証をカウンターの上に置いた。女性はそれを受け取ると、カウンターの奥へ歩いて行った。入れ替わりになるように出て来たのはネーヴェ。ヴァロの姿を見て、声をかけてきた。


「あら、おはようございますヴァロ様」

「お、おはよう…ございます」


 挙動不審なヴァロに首を傾げるネーヴェ。

 ネーヴェとは一度話したことがあったが、1対1は初めてだ。緊張して手汗が酷い。


「今日はお一人ですか?」

「は…はい。…ナハトは、る、ルイーゼさんのところへ、行ってまして…」


 目が見れないので変な感じの会話になる。

 そこへ、受付の女性が戻ってきた。ヴァロと話すネーヴェを見て、何かあったかと口を開く。


「あれ?ネーヴェさん、どうかされましたか?」

「ああ、いえ。こちらのヴァロ様と、パーティメンバーのナハト様は、わたくしが担当していましたもので…どんな御用だったのですか?」

「あっはい。長期で泊まれる宿のご紹介を受けましたので、確認にいってました」


 それを聞いてネーヴェは首を傾げた。宿はつい先日紹介したはずである。

 他の町のギルド長から紹介された冒険者相手に何か不備でもあったのかと、ネーヴェはヴァロに問いかけた。


「申し訳ありません。何か問題がございましたでしょうか?」

「あ、ああああの!問題…というか…。その…も、もう少し…し、静かなところが、いいなぁと…思いまして…。だから…その、い……とかが」


 ヴァロの声がどんどん小さくなるから、どんどんネーヴェが近くなる。そうするとますます声が小さくなって悪循環だ。それでも何とか聞き取ったネーヴェは、なるほどと頷く。

 ナハトらに紹介した宿は、清潔で値段も手ごろ。ダンジョンから程よい距離で、隣が明け方までやっている酒場で、遅くまで食事ができるおすすめの宿だ。

 しかし、一つだけ問題点を上げるとすれば、深夜までやっている酒場のせいで少々騒がしい。利便性だけで進めたが、もっと静かな方が良かったかと、ネーヴェはすぐに頭の中でいくつか宿屋をピックアップした。


「承知しました。でしたら、大通りから一本入ったところにあるかまくら亭か、ダンジョンにより近い雪の歌亭はいかがでしょうか?」


 どちらの宿も評判がいいところだ。特に雪の歌亭は、食事の美味しさに定評があるし、近隣に遅くまでやっている酒場はない。うるさくもないはずだが、何故かヴァロは首を縦に振らない。

 もしやまだ聞き取れなかった不満があったのかと、ネーヴェはカウンターの外へ出た。ヴァロに他にどんな不満があったかと問うが、肝心のヴァロがどんどん後ろへ下がっていく。そんな煮え切らない態度に、いら立ちが募る。


「あああああの!」

「ヴァロ様、はっきりと仰ってくださいませ!何がご不満なのでしょうか?」

「あ、あの…!で、ですから……!い、いいいいい一軒家を紹介してください!」

「…はっ?」


 きょとんとするネーヴェ。宿を探していたんじゃないのかと問うと、ヴァロは一軒家の方がいいと言う。先日は会話の流れで確かに一軒家のことも言ったが、なぜわざわざ冒険者が生活しにくい一軒家を選ぶのだろうか。宿ならば、部屋の掃除も暖炉の準備も全て宿側がやってくれる。宿によっては食堂もあるのだ。すべてを自分たちでやらなければいけない一軒家は、冒険者にはなかなかにハードルが高いはずだ。

 そう考えて、ネーヴェは気付いた。ひょっとしたら、ヴァロたちはあまりお金がないのかもしれないと。

 それならば確かに一軒家の方が安い。薪代や必要な物を揃えたらかなりの金額が行くが、それでも節約するなら一軒家だ。寒さを我慢し、食事を自炊にすればかなり安く済む。それで一軒家がいいと言ったに違いない。予算についての確認をせずに宿を進めてしまった事を、ネーヴェは深く反省した。


「…最初にご予算を確認せず、宿をご紹介してしまってすみませんでした…」

「い、いえ…?」


 何故謝られたのかわからないヴァロであったが、無事、幾つかの一軒家を紹介してもらうことが出来た。鍵をもらい、それぞれの家を回って確認し、最終的に決めた家は、リビエル村の自分の家と似た間取りの物だったが、一番の決め手は台所にあった。

 魔石で動く大きなオーブンがあったのだ。誰にも言ったことはないし、本人にも言ったことはなかったが、ヴァロはナハト作るパンが好きだった。宿で食べるご飯も、屋台で食べるご飯も美味しいが、リビエル村で食べていたナハトの作るご飯がまた食べたかったのだ。決して言わないが、台所があればまた食べることができるかもしれない。

 拠点にしたのは宿ではないが、2か月まとめて払った金額は、こちらの方が大分安い。ベッドも風呂も台所もあって、大きな暖炉もある。ここに決めたのは己の打算が大部分を占めてはいるが、拠点としては問題ないはずだと、この時まではそうヴァロは思っていた。

 連れてきたナハトに、薪や掃除道具、壊れている備品などにツッコミを入れられるまでは―――。






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