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ここで私は生きて行く  作者: 白野
第四章
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第59話 王城へ

 2日後の夜、やっとリューディガーも合流した。シトレンら同様駆けて来たリューディガーは、コルビアスの姿を見ると早々に膝をついて頭を下げた。


「コルビアス様。無事にご帰還された事、お喜び申し上げます」

「リューディガーにも苦労をかけた」

「勿体無いお言葉です」


 リューディガーはヴァロと別れてからずっとリステアードの元で捜査を行なっていたらしい。リステアードは強く聞き分けの良いリューディガーを大層気に入りそばに置いていたそうで、なかなか出る隙がなかったそうだ。

 リューディガーも来た事で、コルビアスはシトレンらとも話した"これからの事"についての話を再開した。


「まずは報告を頼む」

「かしこまりました」


 リューディガーの話では、リステアードの指揮の元捜査を行なっていたが、その内容はなんとも雲をつかむようなものばかりであったらしい。


「とにかく何も見つからないのです。騎士らの報告も中身がないものが多い。だと言うのに”根も葉もない噂”は騎士らの間に誠のように流れていました」


 コルビアスの死亡説もその一つだ。ナハトへの疑惑も状況証拠とも言えないようなものであったし、単純に"怪しく"はあったが本来ならせいぜい容疑者がいいところだ。確実性のあることは何もない。なのに噂ばかりが流れて浮足立つさまは、まるで学生のようであったとリューディガーは言った。


「私が何度も噂の正確さを求めると、今度はその噂を支持する者たちが現れました。貴族も騎士も、場内にいる者たちが一丸となってナハトを犯人にし、コルビアス様が亡くなっているという方へ持って行こうとしているような…そんな強制力を感じました」 


 それに表向きは同意しながらも、リューディガーは足元で情報収集を行い続けた。その中でヴァロとニグルらが後々提出したナハトの指輪とコルビアスのボタンについての話が、彼の中のある疑惑を明確にした。それら”リステアードは何かを知っている”という事だ。

 初めて出た物証を前に、リステアードは「コルビアスが健気にも犯人であるナハトからもぎ取り埋めた」という結論に至ったと言い放ったのだ。いくらナハトが劣等種でも武器である指輪をコルビアスがもぎ取るなど至難の業である。しかもリステアードたちはナハトが劣等種であるとは知らないのだ。その状態でその結論に至るのは、リューディガーにはあまりに奇妙に思えてならなかった。


「まさかリューディガー…あなたはそれでリステアード様を怪しんで、それで調べていたのですか?」

「ああ」

「それは短絡的ではないでしょうか?」

「そうとも限らない」


 シトレンの言葉に、コルビアスはそう言い切って続ける。


「…僕も、確証はないがリステアード兄様が怪しいと思っている」

「ま、まさか…」

「思い出した事があるんだ。舞踏会の夜、ナハトはバレット・アヴォーチカ伯爵を見たと言っていた。結局アヴォーチカ伯爵は証拠不十分であることと、婦人の証言が得られたということで容疑者から外れたが…伯爵は、以前はリステアード兄様の右腕だった男だ」


 シトレンらが怯んだように体を揺らした。それは年長者であるシトレンもリューディガーも知っていたことだが、今彼は第二王子ニフィリムの派閥の者だ。それを知らないはずはないコルビアスの言に、納得がいっていないのが分かる。


「コルビアス様、伯爵はリステアード様の不興を買って派閥を追われたのです。その者が未だリステアード様と繋がりがあるとは思えません」

「…いいえ。その"不興"の内容については何も分かっておりません」


 シトレンの否定に待ったをかけたのはディネロだ。彼はいつも一歩引いてことの成り行きを見守っている事が多い。そのディネロの発言に、全員の視線が一気にそちらへ向く。


「それは本当ですか?」

「はい。おそらくこれだろうという噂程度の話ならば幾つも探せましたが、それを裏付ける証拠となると…ございませんでした」


 コルビアスの命令で調査に当たっていたのはディネロだ。彼は誰よりも正確な情報を持っている。

 さらにそこへナハトが続く。


「私は冒険者の方とお話ししましたが、そこで私の手配を指示した貴族の名をお聞きしました。…グラナド・クリストル伯爵だそうです」

「…そうか」


 クリストルはリステアードの執事であるマシューの性だ。その事実に、コルビアスは低く言葉を絞り出した。

 冒険者への依頼の優先度は、その依頼者の地位に大きく左右される。それは貴族の依頼であっても同じで、依頼者の位が高ければ高いほど何よりも先にと重要度が上がるのだ。侯爵と公爵は広い地域やダンジョン都市を任されるため、彼らから出される依頼はその土地に関してのものが多い。災害や魔獣、魔物などがそれに値する。

 それに対して伯爵の位を持つ者、伯爵の中でも位が高い者は、町の領主として壁のある中規模の町を任される事もある。それ以外の伯爵は王都での高い役職や、侯爵や公爵の補佐として働くものが多く、子爵は伯爵の補佐に、男爵になるとさらにその下だ。男爵の中でも位の低い者は町の豪商などの方が金銭的にも余裕があったりするが、貴族という位だけで平民より依頼は優先される。

 その為冒険者への依頼を出すのは男爵か、まれに子爵なのだ。そこへ伯爵からの依頼となれば、冒険者ギルドの中でその依頼の優先度は跳ね上がる。そこまでして、彼らはナハトを捕えたかった。―――もしくは殺したかったという事だ。


「なんで、そこまでして…」

「そこまでして私の居場所を知りたかったのは、コルビアス様がいたからでしょうか?」


 ナハトの言葉にコルビアスは小さく息を吐いて俯いた。


「正直なところわからない。リステアード兄様が関係していることは確実だと思うが…どこまで関係しているのか、何が目的なのかもわからない。だから僕はまず城へ戻り、陛下と面会して僕が”生きて戻った”ことをお伝えする必要がある」


 クリストル伯爵家が関係していることは確実だが今は全てが推測の範囲内だ。だからまずコルビアスがすべきは、国王陛下の前に姿を現すことで無くなった場所の確保をすることである。それからナハトへの容疑の撤回、誘拐犯たちを捕えるための騎士団動員の許可、味方を増やすこと、婚約者を決めることもこれからは大切だ。他にもやること、考えることは山積みである。


「どちらにせよまずは城へ戻る必要がありますが、今は敵味方の区別が出来ません。どのようにいたしますか?」


 シトレンに問われ、コルビアスは少しだけ考えて口を開く。


「ディネロ、王城の様子を調べほしい。謁見の申し込みをするのは危険な可能性があるから、まずは陛下が執務に戻られているかを。戻られているなら、その時を狙って王城へ向かう」

「かしこまりました」

「それからシトレン、クローベルグ侯爵に手紙を頼む」

「かしこまりました」


 次々にコルビアスは支持を与えていく。ここへ長く居続けるのも危ないため、動くなら出来るだけ早くだ。

 仕事を与えられたシトレンとディネロが席を外すと、お茶を入れ替えたフィスカが口を開いた。


「コルビアス様、学院が始まっておりますがそちらはどういたしますか?」

「あっ…」


 考える事ややることが多すぎてすっかり頭から抜けていたが、コルビアスはヴァリヤーナ学院にまだ通っている年齢だ。今はシトレンが休学届を出しているが、戻ってきたなら通うべきだ。卒業しないというのは王族として恥であるし、貴族としてもあり得ない。

 しかし―――。


「今はまだ無理だ。優先すべきことが多くある」

「では引き続き休学という事でよろしいでしょうか?」

「ああ。とはいえ学院の期間は短い。早めに先生方とも話す必要があるな…。フィスカ、シトレンにそのことも伝えてくれ」

「かしこまりました」


 そうして着実に城へ戻るための根回しや準備は整えられていった。




 しばらくして、ディネロが戻ってくるよりも早くクローベルグ侯爵からの連絡があった。それによると今ニグルは動けないらしい。

 というのも、マシェル騎士団は現在ガイゼン・ウェルシオラが団長代理になっていて、ニグルは技師団長の任は解かれていないものの実権がほとんど取り上げられているのだそうだ。コルビアスが戻ってきたことは公になっていないため、外では未だコルビアスの捜索が行われているのだ。


「出来れば侯爵と話をしてから向かいたかったが…仕方ない」


 念のためシトレンの名前で侯爵に手紙を出し、コルビアスは口を開いた。


「ディネロの調べでは、陛下は現在まだ完全に復調されていないそうだ。執務を制限されているが、宰相のディミトリからの報告は自ら受けているらしい。そこへ向かう」

「かしこまりました」

「あの…でも、そんなこと本当に可能なんですか?」


 口を挟んだのはヴァロだ。シトレンもリューディガーも、ディネロもフィスカも皆当たり前のように頷いたが、ナハトも同じように思っていた。 コルビアスの話ではまるで王城へ乗り込んで執務室まで突き進むと言っているように聞こえるが、王城には近衛騎士団もいるのだ。そんなことが果たして本当に可能なのか甚だ疑問である。

 するとコルビアスが「ああ」と呟いて口を開いた。


「実は、王城には秘密の通路があるんだ。僕も7歳の誕生日に陛下から教えてもらってから一度も使ってないんだけど…それは城の中から様々な場所に繋がっていて、王都の僕の屋敷からも繋がっている。そこから向かえば比較的安全に陛下のもとへ向かえるんだ」

「そ…そんな事を私たちに教えてよろしいのですか!?」


 突然さらりと与えられた大きな情報にナハトとヴァロは思わず腰を浮かすが、コルビアスはにこりと微笑む。


「2人を信用しているからね」

「それは光栄ですが…私たちは騎士として仕え続けるつもりはございませんよ?」

「わかっている。だけど僕が言いたかったんだ」


 大きな信用は共に旅をしたからだろうか、それとも無事を信じて必死に探していたからだろうか。

 どちらにせよ王城へ忍び込むための算段はついた。フレスカにも明日出ることを伝え、それぞれの部屋で眠りについた。




 翌日はノジェスにあるコルビアスの邸宅から王都の邸宅へ転移の魔方陣を使って移動し、そこから隠し通路へと向かった。

 また王都に戻らなくてはならないため、ナハトは再度クルムにドラコを預けようと思ったのだが、今度こそドラコは納得しなかった。どうやっても離れず泣いて嫌がるため、ナハトの方が折れたのだった。ナハトと来たら我慢しなければならない事が多くなる。だから本当にいいのか何度も確認したが、それでもドラコは頷いたため、ナハトも連れて行くことに決めた。今もナハトの首元に潜り込んで動かないでいる。それを服の上から撫でながら、ナハトはコルビアスの後を追った。

 コルビアスの使用している邸宅は、元はその昔に子を失った事で病んでしまった第二婦人のために建てられた物であったそうだ。その時はまだ隠し通路は城とその外だけに繋がっていたのだが、当時の国王は病んでしまった第二婦人の事も深く愛されていて、他の者の目を避けて会いに来られるよう繋げたのだそうだ。


「確認しただけで使ったことはないが…」


 そう言ってコルビアスが足を止めたのは、エントランス横の待合室であった。本来この場所は招待した客人を待たせるための部屋であるが、今はほとんど使われない客室になっている。それほど目立った家具がないその部屋の暖炉横の壁に向かうと、その壁にコルビアスは手を当てた。

 傍目には何もないように見えたが―――。


(「あっ…」)


 魔力の流れを感じ取ってナハトは手を握った。どうやらその壁は砕いた魔石と魔方陣が埋め込まれているようで、コルビアスの魔力に反応して扉が出現した。

 何の装飾もない扉であるが、そこを開けると薄暗い岩の通路が見える。カビ臭い風も流れてきて、皆思わず鼻を覆う。


「通路には魔術が仕掛けてあると聞いている。すぐ着くはずだ」


 コルビアスの言葉に頷いて、まずはリューディガーが先行して扉をくぐる。次にナハト、コルビアス、シトレンと続いて最後にヴァロだ。

 フィスカとディネロは屋敷側の扉の警戒と、一人自宅に戻されたジモへの連絡を取るために残った。ジモは平民であるため、魔方陣も使わせてもらえず一人馬車で王都へ戻されたのだ。無事着いたことはシトレンが確認済みだが、それならば屋敷へまた戻ってもらいたい。

 全員が扉の向こうへ消えると、ディネロは扉を閉じた。すると扉は消え、またただの壁に戻る。内側もただの行き止まりの壁になった。明かりがなくなったため火の魔石をリューディガーは取り出したが―――。


「明るい…?」


 通路は仄かに明るく光っていた。構造は分からないが、魔力を使わないで済むのはありがたい。王城へ近づくのに魔力を使えば、宮廷魔術師に感づかれる可能性があるからだ。

 そのまま順調に一本道を進み、また行き止まりに着いた。コルビアスの話ではこの先は国王陛下の執務室に繋がっていて、現在の時刻は陛下が宰相のディミトリから報告を受けているはずである。近衛騎士もついているため驚かせることにはなるが、この通路を通ってきた以上、いきなり斬りつけられることはないはずだ。


「魔力を流す」


 コルビアスがそう小さく呟いて、壁に手を当てて魔力を流した。それは屋敷の扉と同じように魔力が行きわたると扉が出現し―――そしてその扉が、あちら側から開いた。


「…っ!?」


 すぐに警戒して武器を手にしたリューディガーであったが、扉の向こうから姿を現したのは、まさかのウィラード国王その人であった。












ジモは一人ごとごと馬車で帰りました。

本当は王都の屋敷へ戻る前にジモにも連絡を取りたかったのですが、ジモは平民であり、魔力もそこまで多くないため魔道具をうまく扱えません。

なので連絡が取れませんでした。

彼は一人きり、何の情報も入ってこない中、ずっと心配していました。

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