第26話 目覚めたヴァロと犯人の目的
ナハトとヴァロはクローベルグ侯爵の屋敷へと送られた。ヴァロはナハトの予測通り3日間眠り続け、目を覚ましてからはひどい頭痛と吐き気、体の怠さに苛まされたのだが―――そんなものよりも、精神的ダメージの方がはるかに大きかった。
桶を抱えて吐きながら、生理的なものなのか後悔のものなのかわからない涙が頬を伝う。
ヴァロは、己がした事を覚えていた。全てではないが、よくわからない感覚に流され興奮して、ナハトを襲ってしまったそれらを覚えていたのだ。認識した好意も欠片も言うつもりはなかった。それを言ったら、ナハトが距離を置こうとするであろうことはわかっていたから。
ヴァロにとっては意識しだしたばかりのそんな気持ちより、ナハトと一緒にいられることの方が重要だった。なのに。
(「俺は…俺は、何を…何てことを…!!」)
あんなに悲しい顔をさせるつもりなかった。ドラコの代わりに守ると約束したのに、そのナハトを一番傷つけたのは外ならぬヴァロだ。何があったか教えてくれて、不安だからと甘えてくれていたのに。ヴァロはナハトが向けてくれた全幅の信頼を最悪の形で裏切った。ブランカなどとは比べ物にならないほど、最低なやり方で―――。
「大丈夫ですか?」
ヴァロの世話のためにつけられた執事が、そっと背中を撫でてくれる。その優しさが重い。自分を傷つけたい衝動に駆られるほど、ヴァロは自分の事が許せずにいる。
その時ノックの音が響いた。確認に行った執事が、戻ってきて呟く。
「侯爵様がいらしています。お通ししてもよろしいでしょうか?」
「…はい」
本当はまともに喋れそうになかった。
だがナハトが無事なのか怖いながらも聞きたくて、ヴァロは首を縦に振る。執事は侯爵を迎えると、気を利かせたのかそのまま退室した。
「もう少し回復してからでも構わなかったんだが…本当に大丈夫なのかね?」
「はい…」
「それならばいいが…」
そう言いながらニグルは椅子を持ってくると、ヴァロのいるベッドの傍らまで持ってきた。上から下まで確認し、小さく息を吐く。
「後遺症は眩暈と吐き気と言ったところか…。他に具合が悪いところはあるかね?君は丸3日眠っていた」
「いえ…。だ、大丈夫です…」
「そうは見えないがね」
「そ、それよりナハトは…あっ、レオは……無事でしょうか?」
慌てて名前を言い直して問うと、ニグルの目が細くなった。そのまま何かを考えるようにヴァロを見つめ、ゆっくりと口を開く。
「人払いをしてあるから、わざわざ名前を言い換えなくても問題ない。だが…君は、彼女の事を聞いてどうするつもりだ?」
ニグルのその言い方にヴァロは察した。知られていると。どうしてと問えないまま呆然と顔を向けると、ニグルは大きく息を吐いて話しだした。
「本人から聞いたわけではないがね…推測はついたとも。ベルジシックの次男に襲われたと聞いたが、報告してきたロザロナは未遂であったと言っていた。だというのに、駆け付けた彼女には明らかに情事の跡があった。ドレスは裂かれ、手のひらには爪が食い込んだ痕がいくつもあった。その横で君は無傷で眠っている。…彼女が植物の魔術の使い手だと知っていれば、襲ってきた君を彼女が眠らせたのだと想像は難くない」
「…っ!お、俺は…あんな事をするつもりはなかったんです!」
思わずヴァロは叫んだ。本当にそんなつもりはなかった。ナハトのことを好きだと認識はしたが、言うつもりもなければあんな事をするつもりもなかったのだ。あの時は訳が分からなくて、理性が衝動に汚染されたようで、自分でも自身の事が怖かった。「やめろ」「してはいけない」と理性が叫んでいるのに、体がまったく言うことを聞かなかった。言い訳にしかならないが、本当にあんなことをするつもりはなかったのだ。
「それは…そうなのかもしれないがな…。ならば聞くが、そのような状態になった心当たりはあるのかね?」
問われてヴァロはすぐに思い出した。廊下でうずくまっていた令嬢を運んだ部屋に焚かれていた香の事を。部屋が薄白く感じるほど焚かれた香は、ひどく変な感じがした。今思えば、あの部屋に入ってからの事が少々曖昧である。
「部屋にいないナハトを、フィスカと探しに出たんです。その時に、令嬢が一人具合が悪いと言って蹲っているのを見かけました。彼女を休ませるために連れて行った部屋に、変なお香が焚かれていたんです。纏わりつくような…鼻の奥につんとくるような重い匂いのものです」
「香か…。君の話が本当なら、それはアサシギの香だろうな」
ニグルの話では、アサシギの香は嗅いだものを興奮させる作用があるらしい。慣れないものには催淫の効果もあるものだそうだ。貴族の間では一般的な香で、結婚した夫婦の間では気分を盛り上げる時などに使われているそうなのだが―――。
「城の休憩室の中の一つに、随分と香りが染みついた部屋があったと報告があったが…その部屋か。だとすれば、君は相当量の香を吸い込んだことになる。そんな部屋に運ぶよう指示した令嬢か…」
今考えればあの令嬢はおかしかった。あんな廊下の端で蹲るほど具合が悪いのであれば、会場にいた給仕係や騎士たちが気付かないはずがない。なのにたった一人であんな所にいて、さらに誰も通らないなど本当にあり得るのだろうか。騎士は舞踏会の最中常に巡回していたはずだ。
「…念のため確認だが、その令嬢とはいたしたのかね?」
「し、してませんよ!!!」
力いっぱい言うと、また吐き気が込み上げてきて桶に顔面を押し付けた。ニグルは何も言わずに水差しから移したコップを差し出してくれ、それで口をゆすぐと少しだけ楽になった気がした。
「部屋に入って、すぐおかしいと気づいたんです。でもうまく体が動かなくて…だから、足に傷をつけてすぐに逃げました。何もしていません」
「ならば、その令嬢の特徴は覚えているかね?」
「はい…。長い紺色の髪で、空色の目で…下を向いた三角耳の小柄な人でした。歳は多分…20代半ばくらいだと思います」
「なるほど。…何の情報も得られないかもしれないが、探してみよう」
ニグルはそう言って立ち上がった。「ゆっくり休むといい」という彼に、まさかもう話は終わりかと顔を上げる。
まだナハトの事を聞けていない。どういう状態だったのかは聞いたが、現在の状態は聞けていない。
「あ、あの…それでナハトは、ナハトは大丈夫なんですか?」
ヴァロの問いかけに、ニグルは厳しい目を返してきた。爬虫類の特性が強い彼の睨みは恐ろしく、ヴァロの喉がこくりと鳴る。
「…まだ眠っている。熱も高く、うわ言も酷いそうだ」
しばらくしてニグルは小さく呟いた。
何も返せないヴァロに、ニグルは続ける。
「アサシギの香にやられた君には同情する。その状態で唇を嚙みちぎり、指を傷つけて抵抗した胆力も素晴らしいと思う。だがね…私は娘を持つ父親なんだ」
「こ、侯爵様…!」
「ナハトが目を覚まし、君への対応を決めるまで…申し訳ないが、会わせることは出来ない。だが、ナナリアを救ってくれた事には本当に感謝している。友人だと言っていたのも本当だ。だが…」
「すまない」と、ニグルはそう言って部屋から出て行った。
ヴァロが目覚めた翌日、コルビアスはリューディガーとシトレンを連れてニグルの元を訪ねた。舞踏会から4日、前日まで2人についてはまだ目覚めないとの連絡しか来ていなかったのだが、今日やっとヴァロが目覚めたとの知らせがあったからだ。
貴族の慣例としてはよくないが、その日の内にと面会予約をして急がなければならないのには理由があった。今回の騒動でコルビアスは護衛騎士2名の負傷という痛手を負ったが、その他に傷を負ったものはなく、マシェル公爵の城が放火されたという部分の方が大きく問題視されてしまっていたのだ。その為ウィラード含め、リステアードとニフィリムもそちらにかかりきりで、コルビアスは当日の唯一の目撃者であるナハトの情報を持ち帰るよう命令を受けていた。
もちろんナハトとヴァロの様子も気になる。だがそれ以上に初めて任された王族の仕事に対する焦りと、手紙に書かれていたヴァロが出会った令嬢、それとナハトの状態が気になっていた。
お茶とお菓子、それと盗聴防止の魔道具が動く中、コルビアスは口を開く。
「ヴァロと、ナハトの様子は如何でしょうか?…まだ目覚めませんか?」
ヴァロが目覚めたのならナハトもとそう思ったのだが、ニグルは苦い顔のまま口を開く。
「ヴァロは意識もはっきりしておりますし、外傷もないので明日にはお返しできますでしょう。お望みとあらば、この後お部屋までご案内いたします。ですが、ナハトはまだ目覚めておりません。熱もまだ高いままなので、意識が戻るまではまだかかるでしょう」
「…そう、ですか」
しょうがないとはわかっているが、こうも一辺倒の回答では”本当に目が覚めていないのか”と疑問に思ってしまう。ヴァロは強い魔術で眠らされたようだと聞いていたが、ナハトはあの場を立ち去る直前まで意識があったのだ。本当に何日も高熱が続くものなのだろうか。
なによりナハトの話が聞けないとウィラードたちが求めている情報が更新できない。劣等種のいた痕跡は見つからず、見つかったのは複数の足跡だけ。唯一出た名前であるバレット・アヴォーチカは舞踏会に参加していないと言い張り、とはいえ怪しいために軟禁されているが、ナハト以外に彼を見かけたものがいないためその拘束もいつ解けてもおかしくはない。貴族ではないナハトの言は軽く、バレットから話を聞くにも新しい情報が必要なのだ。
「お疑いですか?」
コルビアスの様子にニグルがそう声をかけた。コルビアスは否定を口にするが、本当は少し疑っていた。あの舞踏会の夜から、どうもクローベルグ侯爵らはナハトらとコルビアスを会わせないようにしている気がしている。
「…本当に、ナハトは目を覚ましていないのですか?」
「……そう仰られるのでしたら、あなた様とクローベルグ家の関係はそれだけのものという事でしょう」
それはある意味脅しに等しい。コルビアスはナハトやヴァロから情報を得たいが、2人はニグルのもとで療養している。ここでニグルの機嫌を損ない関係を絶たれれば、2人を返してもらえない可能性すらある。
コルビアスはぐっと膝の上でこぶしを握った。王家の人間で侯爵家とそこまで深いかかわりの者がいない今、唯一のつながりがあるコルビアスが関係を断たれれてしまうことは避けなければならない。中立派の代表であるクローベルグ侯爵家の力はそれほどに強いのだ。
「…侯爵がそう仰るのでしたら、もうしばらく待ちます。ですが、ナハトの目が覚めたらすぐに教えていただきたい」
「承知しました。話が出来るようになりましたら、必ずお伝えいたしましょう」
”目を覚ましたら”に対して、”回復したら”と笑顔で返すニグルにコルビアスはため息を隠せない。しかし今は頷くしかない。
「……わかりました。ですが、目が覚ましても一報もらえないでしょうか。押しかけるようなことはしないと約束します」
「かしこまりました」
ナハトについての言質を得たら、次はヴァロの証言についての話だ。
先にヴァロから話を聞いていたニグルから、コルビアスのもとをフィスカと共に離れてからの説明が順を追ってなされた。ナハトがいた部屋へ向かうもおらず、書置きを見つけて手分けして探しに出たというのはフィスカと同じ証言であったが、問題はその先だ。
ヴァロが出会った令嬢、その令嬢が指し示した部屋、アサシギの香。その先はヴァロの記憶があいまいであったという事で説明が省かれた。ナハトと共にいたはずだが、ヴァロは劣等種の姿を見ておらず、その怪しい令嬢以外の貴族も目にしていないらしい。
「幸いなことにヴァロは何事もなく令嬢と離れたそうです。ですが、アサシギの香が部屋に充満するほどの量使われたことを考えると…やり方が稚拙とはいえ何事もなくてよかったと思います」
アサシギの香はコルビアスも知っている。あれは催淫の効果もある香であったはずだ。つまりこれを仕掛けた犯人は、ヴァロに令嬢を襲わせようとしたということだ。その令嬢が誰なのかはわからないが、ニグルが何もなかったと言うのだから何の訴えも出ていないのだろう。コルビアスはほっと息を吐く。
それよりも問題なのはそれに協力した令嬢についてだ。この作戦がうまくいった場合、令嬢は”襲われた”という事実が貴族の中に広がってしまう。貴族の令嬢にとって、婚前前の情事が明るみに出るなど修道院に行くほどの不名誉だ。とても令嬢が進んで協力したとは思えない。
「その令嬢の特徴などは分かりますか?」
「紺色の長い髪に空色の目、下を向いた三角耳で、年のころは20代半ばほどとヴァロは申しておりました」
コルビアスはある程度の貴族なら大まかに記憶しているが、その中でヴァロの証言と一致する外見は1人、ベルトーチカ・フラン伯爵夫人だけだ。だが彼女は既婚者で、夫のフラン伯爵とも仲が良いと聞く。それ以上の情報はないためわからないが、一度ディネロに調べてもらった方がいいかもしれない。
「私の方でも調べてはおりますが、もしかしたら髪を染めるなどして外見を変えていた可能性もございます」
「確かに…。魔術の可能性はないでしょうか?」
ディネロの事があるためコルビアスはそう問いかけたが、ニグルは首を横に振る。
「恐らくその可能性はないでしょう。密着しても動き回っても乱れないような高等魔術を使える者がいればすぐに周囲に知れるはずです。該当の魔術に心当たりがない以上、魔術とは考えにくいかと存じます」
確かにディネロの魔術は本人でコントロールが効かないものだ。ディネロのように本能的に使ってしまっている人間ではなく、意識して魔術を使えるような人がいればすぐに知れるはずだ。貴族は全員学院へ通うのだから尚更である。
「それにしても」と、コルビアスは口を開く。
「そこまでして私の名誉を削ぎたい者がいるとはな…」
コルビアスはげんなりとした顔で息を吐いた。口ではそういったが、この場合考えられるのはニフィリム様か、ニフィリムの息がかかった者であるのは明白だ。ナハトに手を出したブランカ・ベルジシックは言わずもがな、リステアードが下につくことを宣言したコルビアスを、リステアードが害そうとするのは辻褄が合わない。
その事を知らないリステアード派の貴族という事も考えられなくはないが―――。
だがコルビアスの言葉に、ニグルは「それもなくはないですが…」と随分と歯切れの悪い言葉を漏らした。
ニグルは事前にこの場へ同席するユリアンナと、これらを仕掛けたものがコルビアスに対して何をしたかったのかと話をしていた。だがそこで話された内容は、コルビアスには少々難しいかもしれないと思ったのだ。いくら聡くともコルビアスはまだ9歳の少年だ。性にはまだ疎い彼が、己の護衛騎士に仕掛けられたものがどういう意味を持つのか知ればショックを受けかねないと、そうニグルは思ったのだが―――ユリアンナはそう思わなかったようだ。ちらりと視線を送られて、ニグルは言いにくそうに口を開く。
「コルビアス様、おそらくですが…彼ら2人はコルビアス様から引き離すために、尚且つあちら側へ取り込むために嵌められたのだと思います」
「…どういうことですか?」
コルビアスは首をかしげた。引き離して取り込む。言われていることはわかるが、いまいちピンとこない。
「もちろんあなた様が仰る通り、名誉を削ぐ目的もありましょうが…目的の大部分はそちらかと」
「侯爵、私にもわかるように説明してほしい」
コルビアスがそう言うと、ニグルは「わかりました」と言って口を開いた。
「まずナハトを襲ったブランカ・ベルジシックですが、彼の目的としては既成事実を作ることでしょう」
「…?護衛騎士であるのに膝をついたという不名誉ではなく?」
「もちろんそれもございます。ですがそれはあくまでついでの事。おそらくは…ナハトが傷物にされたと言う事実が欲しかったのだと思います」
傷物と聞いてその意味が頭をよぎる。襲ったのだからそういうつもりであったことは予想がついたが、それがどういう意味を差すのかが良くわからない。
「な、何故…?」
「……傷物にされれば、腹に子がいる可能性が出ましょう」
さすがのコルビアスでもどう言うことかわかった。もしナハトの腹にブランカの子がいる可能性があるとなれば、ナハトごと取り上げられるだろう。ナハトは平民でブランカは貴族だ。そのような事はまずないため思いつきもしなかったが、腹に子がいる可能性を盾にされれば、コルビアスがいくらナハトを護衛騎士にと言っても無理だ。子の可能性の方が重要で、ブランカの主であるニフィリムの言の方が強い。
「それが失敗したことが分かり、それで次にヴァロが狙われたのでしょう。香を使っての犯行、やり方に性急さが表れている所からしても、ベルジシックの失敗は予想外の事だったのでしょう」
「だ、だが…2人は護衛騎士だ。2人とも強いのに、そんなやり方でうまくいくわけが…」
「…劣等種が力で優等種にかなうとお思いですか?」
コルビアスは息をのんだ。そうだ。ナハトは劣等種だ。強力な魔術にばかり目がいってすっかり忘れていたが、劣等種は優等種と比べてはるかに力が弱く脆い。武器も持たない状態で、長いドレスで戦えるわけはない。
「コルビアス様はご存じないのかもしれませんが、アサシギの香は貴族には一般的ですが平民は使用しません。知っていれば対処の仕方もあったでしょうが…ヴァロは知らないようでした」
ニグルの言葉にコルビアスは震えた。今までこんなやり方をされた事はなかった。毒や暗殺などは数知れなかったが、こんなやり方で貶めようと、弱らせようとしてくるとは全く予想していなかったのだ。
これは考えなかったコルビアスの責任だ。平民のナハトとヴァロを貴族の側に置いておいて、順応しろと迫っておいて、その責任を負っていなかった。2人がこのような扱いを受ける可能性を少しも考えていなかった。アサシギの香なも2人が知るわけはない。説明も何もしていなかったのだから。
とんでも無いことに2人を巻き込んだと気付いて、どうしようもない後悔が襲う。
「コルビアス様、後悔は後になさいませ。先にこれからどうするかを考えなければなりません」
呆然とするコルビアスに、そんなユリアンナの言葉が突き刺さる。シトレンが厳しい顔を向けるも、そんなシトレンにもユリアンナは毅然と言い放つ。
「幼い主を補佐するのが執事の務めでしょう。それとも、主に合わせてあなたも子供になったのですか?もしくは、あの2人が平民で、気に入らないからと途中で思考を放棄したのですか?」
「…そのような事はございません」
ユリアンナの指摘はとても痛いところを突いていた。シトレンもリューディガーも、コルビアスに言われて考え方を変えようと努めてはいたのだ。
だが、長年染み付いたものはそう簡単に変えることができない。意識できないところでナハトとヴァロを軽んじていたと、シトレンらは認めざるをおえなかった。
「ともかく、話を先に進めましょう」
ニグルの言葉に、コルビアスは小さく頷いた。
だが何か情報を持ち帰らなければと勇んでいた気持ちは、すっかり萎えてなくなってしまった。
アサシギの香は、2章でナハトたちが集めた”自己主張の激しい葉”です。
自走して動き回るほど生命力が強い植物なので、その葉が持つ生命力はとても高いです。
滋養に良いので、平民の間では栄養を取りたいときに使われます。
貴族の間ではその葉を乾燥させてすりつぶし、炭やのり材と混ぜて乾燥させて使います。
煙にすると葉そのものを摂取するよりも効果は低いですが、代わりに催淫の効果が付加されるので夫婦間の寝所で使われる香として一般的です。
平民の間では食べ物、貴族の間では嗜好品として使い方に違いが表れています。




