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ここで私は生きて行く  作者: 白野
第三章
100/189

ヴァロの誕生日

遅くなりましたが、ついに100話目…!

ヴァロの誕生日の話です。

 誕生日と聞いて普通は何をするものなのか。

 数か月前に自身の誕生日を祝ってもらったナハトは、ヴァロの誕生日を一週間後に控えてそんな事を考えていた。ナハト自身誕生日を祝われたのはヴァロに祝われたそれが初めてで、よくわからないままにプレゼントをもらい、ケーキをもらい、生まれて来てくれてありがとうと言われ、あの時はなんとも言えない幸福感を味わった。

 嬉しかったことは相手にもやってあげたいと思うもの。誕生日を祝われる事の楽しさを教えてもらったナハトは、ヴァロの誕生日をしっかりと祝うつもりでいた。しかし何をしたらいいのかがよくわからない。

 その為、困った時は図書館だと、ナハトはドラコと共に朝から図書館へ向かった。


「すみません。誕生日について書かれた書籍が欲しいのですが、ありますでしょうか?」

「少々お待ちください」


 訪ねると、司書は冊子のようなものを開いて調べてくれる。

 一通り目を通した司書は、ナハトに質問を返して来た。


「生命の誕生などの哲学書をお探しでしょうか?それとも誕生日について書かれた子供用の絵本、もしくは占いの本もございますが、どちらをお探しでしょうか?」


 その中では最も目的に近いのは恐らく絵本だろう。哲学書も少々気になるが、今は誕生日がどういう物かを正しく知るのが先だ。絵本だと司書に伝えると、彼は該当の絵本が置かれた書棚の番号を教えてくれた。

 持ち帰ってヴァロの目に入るのは避けたかったため、図書館の隅で誕生日について書かれた絵本を開く。机に降りてきたドラコと共に見れば、それは「ミーアの誕生日」というタイトルの本で、優等種の女の子が誕生日が来るのが楽しみで、毎日日付けを数えながらわくわくと誕生日を迎えるという話だった。


「ふむ…。やはりプレゼントとケーキは必須なのだな。それと御馳走か…」

「ギュー」


 絵本には机いっぱいに並べられた御馳走と、大きな箱を持った女の子の絵が描いてある。


「…確かヴァロくんは、プレゼントは高価な物である必要はないと言っていたな…」


 絵本に描かれた女の子は喜んでいて、文章部分は「箱には可愛らしいラシャペのぬいぐるみが入っていた」と書いてある。という事は高価な物ではなくてもいいが、相手が喜ぶ物であるべきなのだろう。

 ナハトがヴァロから貰ったのは瞳の色と同じ耳飾りだ。「似合うと思って」とヴァロは言っていたが、これはナハトが欲しいと思った物ではない。しかし必死に考えて選んでくれたのだろうそれは、貰ってとても嬉しかった。

 つまりは、相手が喜ぶものをあげるという事だ。


「…ヴァロくんは何をあげたら喜ぶのだろう…?」

「ギュー…」


 考えてもわからない時は聞く方が早い。情報源が本だけというのも心もとないので、いろんな人は聞いてみようと、今度は冒険者ギルドへと向かった。



 冒険者ギルドでナハトはまずネーヴェに尋ねてみた。


「ネーヴェさん。誕生日プレゼントとは、一般的にどのようなものを差し上げるものなのでしょうか?」


 問われたネーヴェは少し驚いた顔をしたものの、質問した理由を話すと、なるほどと頷いてさまざまな事を教えてくれた。

 その中でも、プレゼントを渡す相手との関係性で変わってくるというのが一番の収穫であった。知り合い程度ならお菓子などの食べ物や飲み物。友人や家族間なら、相手に聞いた上で欲しいものを送ることが多いが、驚かせるためにあえて聞かずに用意するということもあるらしい。


「それと、友人を招いてお店の個室を貸し切ってパーティというのもいいですね。ここは大きな町ですから、パーティ専門のお店というのもあります。そちらもよろしければお教えいたしますが、いかがなさいますか?」

「よろしくお願いします」


 ネーヴェに礼を言って、今度は演習場へ向かった。

 ドラコを撫でながら階段を降りて行くと、丁度フェルグスらとヴァロが鍛錬をしているところだった。そういえばナハトも誘われていたが、図書館に行きたかったために断ったのだ。

 ヴァロがナハトを見て、少し驚いた様子で走ってくる。


「ナハト、用事はもう終わったの?」

「いいや、まだなんだが…」


 その時、ヴァロの腕に打撲跡を見つけてふと思いついた。喜ぶかはわからないが、ヴァロの役に立ち、ヴァロを守ることが出来そうなもの―――。


「…ナハト?」


 途中で話を切ったナハトを不思議に思ったヴァロが声をかけると、ナハトは「ああ」と顔を上げてなんでもないと首を横に振った。


「まだ用事は終わってないんだ。夕食は一緒に食べられるだろうから、何か食べたいものがあれば作るが…」

「パンとシチュー!」

「…早いな。わかった」


 思わず笑って戻るように言うと、大声を上げたことを少し恥ずかしそうにしながらもヴァロは戻っていった。

 同様にそれを見ていたナッツェが笑いながら声をかけてくる。


「ヴァロちゃんは本当にナハトちゃんのことが好きねぇ」

「それに悪い気はしませんが…それよりナッツェさん、少しよろしいですか?」

「…?」


 ナッツェに相談したいのはヴァロへの誕生日プレゼントについてだ。ふと思いついた事だったのだが、ヴァロは前衛である為生傷が絶えない。更に並外れて頑丈であるので、どうにも自分の肉体を過信しすぎなところがある。回復薬も言わなければ飲まないし、本人も頑丈である自覚があるせいで無理をする。いつ重傷を負ってもおかしくないと心配に思っていた。


「魔力を流すだけで、該当の魔術が使える…そんな方法ありませんか?」

「あるわよ」


 ナッツェはにっこり笑って教えてくれた。

 魔石は使う人が魔力を流すことによって、その魔石の魔力を使うことが出来る。加工前の魔石はそれしか出来ないが、魔力を魔石に流す段階でその魔術を使うつもりで空の魔石に魔力を流し込むと、誰が魔力を流しても同じように魔術が使えるのだそうだ。仕組みとしてはそういう事らしい。


「といっても、これってそこまでは活用される物じゃないのよね。作るの大変な割に一回で魔石砕けちゃうし。貴族の間では親から子へお守りみたいな感じで渡したりすることはあるらしいけど。魔力流したら盾になってくれるーみたいな感じで」

「なるほど…。作り方を教えていただくことは可能ですか?」

「ンフフ、いいわよ」


 かくして、プレゼントの算段は付いた。

 ケーキは幸いな事にヴァロは好きな店がある。そこの物を買えばいいのであとは場所と規模だが―――。


(「絵本では家族で祝っていた。しかしネーヴェさんは、友人をたくさん呼んで行うのも楽しいと言っていたな」)


 ヴァロはどちらの方が好きなのだろうか。


「ドラコはどちらがいいと思う?」

「ギュー…」


 試しにドラコに聞いてみると、ドラコはしばし考えてみんなで騒ぐのがいいのではないかと言ってきた。ナハトも、ヴァロはその方が喜ぶと思っていたので丁度いい。

 そのままナッツェとクルムに相談に乗ってもらい、ナハトは当日の予定を立てた。




 ヴァロの誕生日当日。

 フェルグスやクルム、ナッツェはもちろん、相談に乗ってもらったネーヴェも呼んで、盛大に祝った。お酒もご飯もたくさん用意し、人数がいたのでケーキも大きいサイズをあらかじめ注文しておいた。

 少々問題だったのは、ナハトが誕生日の参考にしたのが絵本だった事だろうか。周囲に聞いたりもしたがやはり視覚的な情報というのは強く、ケーキに書いてもらったプレートが『ヴァロくん お誕生日おめでとう』と可愛らしく装飾されてしまっていたせいで盛大に揶揄われることになってしまった。


「ふふ、可愛らしいケーキですね」


 という、ネーヴェの発言がなかなかに恥ずかしい。

 とはいえパーティは大盛況で終わり、みんなが帰った後、改めてナハトはヴァロに向かって口を開いた。


「誕生日おめでとうヴァロくん。パーティは楽しかっただろうか?」

「すごく楽しかったし、嬉しかったよ。ありがとう」

「ギュー!」

「ふふ、それはよかった」


 少々子供っぽい演出になってしまった部分もあったが、本人に楽しんでもらえたならば何よりだ。いい笑顔で笑ったヴァロは本当に楽しかったのだろう、酒のせいもあるだろうが頬が赤い。


「それと、これは私とドラコからだ」


 そう言ってナハトが取り出したのはヴァロの手になら片手で収まってしまうくらいの箱だった。


「…プレゼント?」

「ああ」

「ギュー」


 正直なところ、ヴァロがあげたプレゼントにも戸惑っていた様子であったため、ヴァロはナハトから貰えるとは思ってもみなかった。その為、急に照れが押し寄せてきて、赤い顔が耳まで真っ赤になる。


「ふふ、どうしたんだねその顔は。開けてみてはくれないのかい?」

「え…あ、うん!」


 小さな箱を開けると、出て来たのは魔石のついた首飾りだった。銀で出来た飾りの中心に緑の魔石が付いたそれは、少し太めの鎖で繋がっていて、ヴァロには少々簡素に見える。

 とてもナハトが選んだようには見えない。


「ナハト、これ…」

「つけてあげよう。後ろを向いて」

「う、うん」


 戸惑ったままヴァロが背中を向けて椅子に座ると、ナハトは首飾りをつけながら口を開く。


「少々地味なデザインになってしまってすまないね」

「そんなこと…」


「なくはないが…」と思いながら、ヴァロはナハトもそう思っている事に気が付いた。ならばなぜこんなデザインのものを選んだのだろう。

 そう思って問いかけると、同意しかない言葉が次々とふってきた。


「もう少しいいデザインに出来たらよかったんだが…君は貴金属をあまり身に着けないだろう?だから手入れをせずとも劣化しにくく、貴金属になれていないものでも違和感がない程度のデザインのものにしたんだ。肌身離さず持っていてもらう事を優先して考えたからね…と、いいぞ」


 ヴァロは自分のだらしなさを指摘されているようで、恥じて少し肩をすくめた。

 よくよく飾り部分を見てみると、確かに地味な感じではあるが細かいパーツがないので手入れもしやすくなっていて、シンプルな分しっくりときた。それに魔石部分に白い球状の何かが浮いているように見える。


「その魔石部分には”神秘の花”の魔術が込められている」

「えっ…神秘の花って…あの?すぐ治っちゃう…」

「そう、それだ。その魔石部分に魔力を流すと、一度だけ神秘の花が咲く」


 あの凄い花が一度だけとはいえ自由に咲かせることが出来るのかと、ヴァロは感動した。

 しかしそんなすごいものを自分が貰ってもいいのかとも思う。ヴァロは並外れて頑丈だ。貰ったこれを使う事などない可能性のが高いだろう。

 それを見越してか、ナハトが続ける。


「君は確かに頑丈だが、怪我をしないわけではない。精霊のような未知のものに会う事だって今後もあるかもしれない」


 座ったままのヴァロの頭にナハトの手がのせられた。その手がそのまま撫でるように左右へ動く。


「君は私を守ろうとして無茶をするが、気を付けろと言っても脊髄反射で厳しいようだからね。それがあれば、微力ながら私でも君が守れるんじゃないかと思ったんだよ。私があげたいものだから、プレゼントととはいえないかもしれないが…」

「そんな事ないよ!」


 ヴァロは振り返ってナハトの手を掴んだ。

 確かにこれはナハトがあげたいもので、ヴァロが欲しいものではないが、ヴァロの事を考えてナハトが作ってくれたものだ。どんな物より価値があるし、嬉しい。


「パーティも楽しかったし、ケーキも可愛くておいしかった!プレゼントも、本当に嬉しいよ。ありがとう!」


 目を輝かせてそういうヴァロに、ナハトは少しだけ照れ臭く思いながらも微笑んだ。













実はナハトはクラッカーとかも用意していて、それも揶揄われました。

絵本の情報をそのまま鵜呑みにして大人にも当てはめてしまいましたが、フェルグスたちはナハトが孤児だと知っているので何とも言えない生暖かい目で見てくれました。

因みにルイーゼも誘ってますが、彼女は魔道具作りたいからときませんでした。彼女はそういう人間です。

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