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【外伝】人外家政婦の巣 ~平穏な大学生活を望んでるのに、また新しい『護衛婦《メイド》』が暗躍し始めた~

作者: かいみん珈琲

外伝です。


考えていた構想を、掻い摘んでまとめてみました。


もし、前作が気になれば前作もどうぞ。


↓↓↓


【人外家政婦の巣~念願の1人暮らしで親戚から屋敷を貸してもらったけど『護衛婦メイド』もついてきた~】


https://ncode.syosetu.com/n7471gp/

1/春風の後日談


●大学/広場


 23日目。

 三枝若葉さえぐさわかばが、屋敷に引っ越してきて経過した日数だ。


 引っ越し初日から、怒涛の10日をなんとか乗り越え。

 汗水流す修繕の日々を耐え続け、今日に至る。

 

 その最中、無事に大学の入学式も終えていた。

 

 ガイダンスも終わり、徐々に講義が始まっていく頃合い。

 そんな23日間。

 こちらにきて3週間が経っていた。


 

 ここ数日、若葉の日課は中庭広場での読書だった。

 

 講義の合間、ベンチに腰掛け頁をめくる。

 日当たりも良好。

 生ぬるい缶コーヒーを端に置き、時間を潰している。


「そうそう! それでさぁ、マジでウケんのが……」


「頼む! 次の講義の出席カード出しといてくれよ、なぁ?」


 時々、耳に入る学生の黄色い声。

 派手に着飾った若者。

 大声で砕けた会話をする集団。


 十人十色の学生が通りがかるが、気にしない。


 彼の意識は、すでに本の中。

 文字の羅列をひも解き、想像し、自らの知識へ変えている。

 

 小難しい事は何もない。

 ただ本を読むと、心のモヤモヤを文字が洗い流してくれる。

 そんな気がして、日中の読書量も普段より増えた。


 ――まぁ悩みのタネ……いや、爆弾みたいのがいっぱいあるからな。 


「人間じゃない家政婦メイドに、まだ残ってる巨額の遺産……それに間違えたら変な奴らに命を狙われるし……」


 と、大きなため息を吐く。


 がしかし、またも手元の本に目線を落とす。


 実際、現実逃避と思われも構わない。

 だが、息抜きや心を整理する時間は欲しい。


 変に気配りしている主人も、どこかで休息が必要だろう。


「……すぅ……」


 無意識の、鼻からのため息。

 

 屋敷は未だ修繕中で、まさに息も詰まる。

 業者のけたたましい駆動音。

 それに比べれば、学生の笑い声など小鳥のさえずりだ。


 2人の家政婦メイドには悪いが、大学は気を張らなくて済む。

 今や大学は素の自分でいられる、安寧な避難場所でもあった。



××××× ××××× ×××××



 昼過ぎの3限目が終わる。

 次の4限目の講義室へ移動しようとしていた時。


「お、三枝!」


 面倒な先輩に見つかってしまった。

 体格のいい男性が正門入口から歩いてくる。


神条かみじょう先輩、こんにちは」


 1つ学年の上の神条先輩。

 

 広がった肩幅や服越しでもわかる筋肉量。

 レスラーのような体躯をした、笑顔の似合う男性だ。

 

 4日前、広場で行われた各同好会の勧誘で知り合った。

 数少ない、学内の知り合いでもある。 


「まだオカルト研究会に入る気にならないのか?」

「いえ、それは……前にお断りしましたよね?」


 今は屋敷の事やアルバイトで精いっぱいだ。

 時間を費やしてまで同好会に入る暇はない。


「いいじゃないか。オカルト」

「はぁ」


「あの一瞬目にしただけではわからない神秘。それをな――」

 

 また始まったと、心の中で呟く若葉。


「解明して、検証して、科学的に証明したモノを! 呑気なオカルト論者の鼻先に突き付ける快感ッ! お前もやってみれば楽しいぞッ!」


 あえていおう。

 神条はオカルトを強く毛嫌いする、科学者気質。


 現実の事象は、科学で説明できないモノはない。

 それが、この超現実主義者の自論である。

 

「え、遠慮します」

「そうか、勿体ない。まぁ考えといてくれ」


 竹を割ったような快活な性格は嫌いじゃない若葉。

 

 だが、もうオカルトに関しては食指が動かない。

 壱号や弐号で腹がいっぱいだからだ。



「そういやお前、”あの騒ぎ”があったトコに住んでるんだって?」

「……はい、そうですよ。」


 こちらも正直に語ろう。

 ”あの騒ぎ”とは、伍号との戦いの爪痕の事だ。


 伍号から逃げた時、住宅の屋根に穴や亀裂を多数残してしまった。

 弐号と戦った墓地も、墓石は強酸性で溶けてしまい跡形もなかった。


 つまり、伍号とのいざこざの後始末。

 それがそのままになっていたわけだ。


 周囲の住民も明確な目撃証言はない。

 若葉は知らないが、前もって伍号が”人払いの術札”を使ったおかげでもあるだろう。

 

 しかし、住民からしたら翌日には墓地や屋根が壊されていた。

 今のところ、犯人の手がかりはない。

 進まない捜査に住民はやきもきしているようだった。


「お前の家は大丈夫だったのか?」

「……ええ、まぁ……」


 その騒ぎの渦中でした、とはいえない若葉。

 そんな乾いた愛想笑いが、春風にさらわれていった。

 



2/誘蛾灯と子猫


●大学


 5限目が終わる。

 三枝若葉さえぐさわかばは、使わなかった筆記用具を片付け始める。


 今日はこの後、アルバイトの初出勤。

 初日から遅刻するわけにもいかない。

 早めに向かうとしよう。

 

 特別、挨拶を交わす知人もいないからか。

 本が数冊入ったバックパックを背負って、そのまま部屋を出る。


 その帰りがけ、図書室へ向かう用事を思い出した。

 昼間、読み終わった本を返そうと思っていたからだ。

 

「……確か、こっちの方が早かったよな……」


 先日、講義棟から図書室へ向かう際、近道を見つけた若葉。

 野外の広場を横断すれば、より早く立ち寄れる。


 返却だけすれば、別段、時間に追われる事はないだろう。

 若葉、学生達をくぐり抜けて図書館へ向かう。


 中庭とも称される、大学の中央広場。

 舗装された歩道や青々しい芝生。

 少々塗装が剥げたベンチや隅には喫煙所もある。


 中学や高校とは、また毛色が違う。

 まるで別の空間に迷い込んだ錯覚。


 この浮ついた感じは、いつ慣れるのだろうか。

 その心配が連動するように、足取りも幾分か重たい。



「あれれー、どうかしたのかにゃー? 迷っちゃったのかにゃー?」


 視界の先、そこに座り込む女性がいた。

 その足元には、子猫が自らの手を舐めている。


 ぱちくりとした眼差し。

 ビー玉のような子猫の瞳が若葉に向く。

 その視線を追って、女性もこちらへ振り向いた。


「……あ……」


 と、子猫同様に目を丸くする。

 だが、すぐに人懐っこい微笑みに変わる。


 垂れた目尻。

 リップが照る口元。

 

 なで肩に、茶髪の先が触れる。

 黒のブラウスと、黒柿色のミドルスカート。

 

 座ってはいるが、おそらく身長は若葉くらい。

 細身で落ち着いた雰囲気に胸が躍る。


 主張しない、丁寧な愛嬌。

 そしてその品性に、惹き込まれそうになる。


「ねぇそこの君。この子の事、知ってる?」

「…………」


「ねぇ、聞いてる?」

「……す、すみません。今、来たばかりだからさっぱり……」


 そっか、と子猫を見下ろす女性。

 同い年にも見えるので、この大学の生徒だろうか。


「……迷い、猫ですか……?」

「かもねー」

 

 と、指先で子猫を撫でる。


 人慣れしているのか、子猫に抵抗はない。

 むしろ目を細めて、咽喉を鳴らしている。


「ねぇどこからきたのかにゃー? ん? ふんふん」

「…………」


「へぇーそうにゃんだー。お母さんとハグれちゃったんだねー」

「……言葉、わかるんですか?」


「ううん、なんとなく。でもこの子、怯えてて震えてる……きっと寂しいんだよ」


 子猫の小さな身体が少し揺れている。

 心なしか、項垂れているようにも見える子猫。


「ちょっと待っててにゃー。むむむッ! んッー!」


 眉間に皺がより、端正な顔立ちが歪む。

 何かしら念じるように、指先を額に当てている。


 百面相にコロコロ変わる女性の表情。

 それを眺めているだけでも面白い、と感じたら不謹慎だろうか。


「あの、オレにできる事ありますか?」


 と、手持ち無沙汰な挙句、問いかける。


「ん? ああ、大丈夫だと思うなー。今、探してもらってるからー!」

「……探して、もらってる……?」


 怪訝そうな若葉に、頬がさらに緩む女性。


「ごめんね、勝手に引き止めちゃってー? 時間、大丈夫ぅ?」


「……え? あ、すみません。すぐにこの後、バイトなので……」


 繰り返すが、今日は初めての出勤だ。

 遅刻しては、相手の心象も悪くなる。

 

「気にしないでいいよー。私がこの子の面倒見てるからー」

「本当にすみません。では、失礼します」


 後ろ髪ひかれながら、軽く頭を下げる若葉。

 足早にその場を後にしつつ、どうにも後味が悪い別れとなった。



××××× ××××× ×××××



 若葉が立ち去った後。

 広場に、1匹のカラスが青空から降り立つ。


 数度、羽ばたき。

 無駄のない動きで、女性の肩に着地する。


「どう? 見つかった?」

 

 女性の独り言。

 いや、それは会話だったのか。


 返答の、カラスの鳴き声。

 身づくろいしながら、抑揚をつけて甲高い声を続ける。


「うん、ありがとー!」


 と、満足した顔でカラスの頭を撫でる。

 

「じゃあ案内してくれる?」

 

 かすかに、カラスが頷いた気がする。


 だが、それは羽ばたく前動作だったのか。

 そのつぶらな瞳からは察しがつかない。


 飛び立ち、北へ舞うカラス。


「ほら、行くよー。お母さんのトコまで我慢してにゃー」


 足元の子猫を抱きながら、青空を見上げる。

 透き通った空や雲に浮かび上がる、黒い鳥。

 それを目印に、歩き始める女性。


 仰いだ時、ふと人影を見つける。


「ん? ああ、そこにいたのねー。まぁなんとも壱号あのひとらしいというか」


 視野に入った、校舎の屋上。

 網上のフェンス、その上に弐号の人影。

 刹那、視界に入るや否や消える弐号のそれ。


「過保護っていうか、頑固っていうか。本当に……」


 変わってないわね、と胸元の子猫に顔をうずめた。

 

 


3/ハツラツな救世主


●喫茶店


「三枝君、今日は満足に教えられなくてごめんね! もう上がっていいよ、お疲れ様!」

「……店長、なんなら手伝いますよ?」


「いいよいいよ。初日なんだから、疲れたでしょ?」

「それは……そうですが……」


 上がりなさい、と笑顔のまま告げる店主の男性。

 

 これ以上いると迷惑か。

 そう悟った三枝若葉さえぐさわかばは、渋々頷く。

 

「お疲れ様でした。また明日、よろしくお願いします!」

「うん、よろしくね!」


 と、いいながらカウンターで動き回る。

 彼に促され、裏の更衣室で着替える三枝若葉さえぐさわかば


 これでアルバイト初日はつつがなく終了。

 あとは自宅へ帰って、壱号や弐号との夕食が待っている。


 時間はすでに8時過ぎ。

 先に食べててもいいと伝えたが、彼女達の事だ。

 きっと何も食事に手をつけず、待っているに違いない。


「……予定より遅くなっちゃったしな……」


 本来、アルバイトはもう1人いるそうだった。

 だが、出勤時間になっても訪れなかった。

 

 加えて連絡もつかないらしく、始末も悪いときた。

 仕方なく、新人ながらも戦力に入れられる若葉。


 店主の指示に従いながら、洗い物や皿運びと必死にこなした。

 

 普段は時間の流れがゆっくりに感じる店内も。

 今日は団体客がきたり、妙にいちゃもんをつけたりする客が多かった。


 ピークタイムという名の濁流の中。

 必死に息継ぎをしているかのような感覚。

 溺れないようにするだけで精一杯だった。


「とりあえず、帰ろう……うん……」


 重たい足を引きずって、更衣室を出る。

 右か左か、朧気な記憶を頼りに裏口へ歩いていく。

 

 若葉、スタッフ専用の裏口を開けて、帰路についた。

 


××××× ××××× ×××××



 数分後。

 若葉と入れ替わるように、とある女性が入ってくる。


「店長ー、ごめんなさーい! 七海、ただいま出勤しまーす!」


 さきほどの、子猫といた女性だ。

 しかし、ブラウスやスカートは泥だらけ。

 その恰好のまま、店内へ入る。

 

 狭い厨房を通り越し、カウンターまで声が響いたのか。

 店主の首だけ、扉から飛び出る。


「あ、待ってたよナナちゃん! 遅刻の理由は後で聞くから、早く着替えてフロア入ってくれる!?」

「はーい!」


 と、手を振って更衣室に入っていく。



 母親を探して三千里。

 そうまではいかないが、店主には悪い事をしてしまった。


 子猫の母親の居場所は突き止めただが。

 その後、散々のものだったのだ。


 発見したのは、大学の裏にある雑木林。

 その中で、まん丸と太った親猫を見つけるのは容易い事だった。


 しかし、その親猫は手足に傷を負っていたのだ。

 

 血が滴る怪我を放ってはおけず。

 七海という女性は親猫を捕獲しようとした。


 親猫も子供を取られたと勘違いしたのか。

 怪我を負い、興奮していたのか。


 ずっと七海と親猫の追いかけっこになってしまった。


 高ぶり、威嚇する親猫。

 始めから”彼女の能力”を使ったが、あまり効果がなかった。

 

 だが徐々に体力が奪われていく親猫も。

 ”彼女の能力”が通じるようになり、捕獲される。


 その親猫や子猫ともども、さきほど動物病院で診てもらったところだ。

 


××××× ××××× ×××××



 汚れた上着やスカートも、誇らしい勲章と思いたい。


「あーもおーシャワー浴びたいわー」


 と、バッテリーが切れた携帯をロッカーに放り投げる。

 服を脱ぎ捨て、制服の黒シャツに着替える。


 一瞬、下着姿で垣間見えるソレ。

 背中の肩甲骨辺りに沿って畳んでいるソレ。

 

 ソレとは――細かい毛細を集めた、触角のような羽。

 左右に生えた、虫羽のような空洞のソレだ。


 七海、制服に身を包んで鏡をチェックする。

 手早く崩れてしまった化粧と髪型を直す。


「ナナちゃーん」


 フロアからの、間延びした男の声。


「まぁなんとかなったしー! いっか!!」


 化粧道具と、手荷物を全てロッカーに突っ込む。


「はーい! ななご――じゃなかった、七海! 今いきまーす!」



 

4/水と油と、隷属婦


●大学/屋上


 ――つくづく伍号お姉様とは縁がありますね。


 弐号、伍号を見据えながらそう思った。


 あの戦闘から早くも2週間。

 主人が引っ越してきて24日目になる。

 

「性懲りもなく、まだご主人様を狙ってるんですか?」

「アホ、そんなんじゃねぇよ。別件だ、別件」


 身構える弐号。

 しかし伍号には、いつもの覇気がない。

 退屈そうに欠伸をしながら、目元をこすっている。


 それは、まるで屋敷に住んでいた頃のような態度。

 面倒臭がりで、仕事をサボって昼寝をしていた。

 かつての怠惰な伍号に、重なる物があった。


「……別件、ですか?」

「ああ。オマエらと関わると余計な面倒になるからな」


 と、視線の先に研究室が連なる棟がある。


 ちなみに、弐号の主人である三枝若葉さえぐさわかば

 現在、講義中で屋内にいる。


 だが、それは講義室が集まる講義棟。

 彼女達が立っている建物の事だ。


「今回、オマエらとコトを構える気はねぇよ」

「……わかりました」


 確かに、若葉を攫うにしても堂々としすぎている。

 あまり頭を使うのは得意ではないが、伍号の言葉を信じるとしよう。 


「じゃあなぜ、ここに来たんですか?」

「オマエをからかうため」


「ふざけてます?」

「おお怖い怖い。毒虫婦さんも、仏頂面と一緒で冗談が通じないようで」


 と、外国人よろしく大げさに手を振る。

 

「なんかよ、この大学に”外道”を研究しているヤツがいるらしいんだわ」

「”外道”を……つまり先代様のお弟子様達が……?」


 かもな、と鼻で笑い飛ばす伍号。


「アタシの依頼主は、もしかしたらソイツらに”外道の書”がこっそり渡されてるんじゃねぇかって読んでる」


 ”外道の書”。

 人外の知識、その集大成といっても過言ではない法外の書物。

 三枝屋敷の先代当主が生前、隠してしまった人外秘蔵のそれ。

 

 その場所のヒントが、この大学にあるというのか。


「それは大学の先生なんですか? それとも生徒ですか?」

「いんや、そこまでわかんね……ん、だ……?」


 一瞬、言葉がつまる伍号。


「つーか、なんでオマエに教えなきゃいけねぇんだよ!」

「いいじゃないですかー。別に邪魔しませんから!」


「そういう問題じゃねぇ! あの失敗して逃げ帰った後、こってり依頼主から絞られたんだ! オマエらとは関わりたくないね!」


 

××××× ××××× ×××××

 


 紆余曲折あり、一発触発状態になる水と油。


 水は、弐号。

 油は、伍号。


 売り言葉に。

 買い言葉だ。

 

 数十年前、まだ屋敷で共に暮らしていた時。

 同じような喧嘩の景色が流れていた。


 この場に壱号がいれば『いつまで経っても』と頭を抱えたに違いない。


 要するに、とりとめがない姉妹喧嘩である。


「はいはーい。人様のテリトリーでなにしてるのかなー?」


 そこに一石を投じるは、陽気な女性の声。

 振り向けば、屋上の入口に佇む七海の姿。


 黒いブラウスと灰色のスカート。

 組んだ腕の中には、ブランドの小物入れ。

 

 艶めく口元、ナチュラルメイク。

 他の家政婦メイドにはない、垢ぬけた風貌。


「困るんだよ、喧嘩も障害沙汰も他所でやってよねー。あれでしょ”こないだの騒ぎ”も君達でしょ?」

「……七号……オマエかよ」


「おひさぁー伍号ちゃん、元気してたー? 今は七海って名乗ってるからよろしくね!」

 

「……七号、お姉様……」

「弐号ちゃーん? 七号じゃなく七海! そんなダサい名前じゃ人間じゃないってバレちゃうでしょ!?」


「バレる? まさかオマエ……」


 訝しむ伍号の顔先に、人差し指を指す七海。

 正解、とばかりに笑いかける。


「そう、ここは七海とパパの研究所。だから邪魔しないで欲しいし、見ない事にして金輪際、立ち入って欲しくないのよね」


「パパって七号お姉様、ご結婚されたんですか?」

「いや、なんでそうなるよ」


「え、だって人間の旦那さんと結婚して、旦那さんの父親が義理のパパで……」

「ややこしいわ。普通、援助的な事を思い浮かべるだろ」


「え、援助ですか?」


 しまった、と頭を抱える伍号。


 弐号は純粋に屋敷の外を知らない。

 人間の世界を知る伍号や七号――いや、今は七海か――と違う。


 だから壊れたラジオや捨てられた雑誌などをよく読んでいた。


「パパ? 援助?」


 だから時たま、世間知らずな所が出るのだ。


「まぁいいわ。とりあえず七海やパパの研究の邪魔になるから帰ってくれる?」


 七海の言葉とは裏腹に。

 場の雰囲気が、どんよりと重みを増す。


 視線を、感じる。

 それも1つや2つではない。


 獰猛なそれ。

 鋭利なそれ。

 憤怒のそれ。

 

 動物の鳴き声が、静かに屋上を占めていく。


 気づけば屋上のフェンスに、羽休みをする数十羽の鳥類。

 カラスを始め、ハトやスズメ、ムクドリやシジュウカラ。

 小鳥や大型の鳥も様々。


 屋上の扉から、足音をたてずゆっくりと現れる獣。

 こちらもレトリバーやシェパード、柴犬など。

 体躯の良い大型犬が、犬歯をむき出しに威嚇してくる。


 加えて、白目をむいた男子学生が3人ほど。

 金髪の頭部をふらつかせて、互いに肩をぶつかり合っている。

 粘り強い涎が口元から垂れる様は、犬畜生と変わらない。


「七海も争うの嫌いだから、早く帰ってよ。今日のバイトは午後からだから、この調子だと遅れちゃう!」


 同時にブラウスの背中が破け、畳んでいた触角の覚子を広げる。

 虫羽を連想させるそれが、風を受けてそよぐ。


「知ってるでしょ? 七海は”隷属婦”! フェロモンによる神経掌握で、男も動物も皆、七海の友達なんだからー!」

読了ありがとうございました!!


個人的に楽しく書いていた部分や、

皆さまの評価やブックマークで元気をたくさんもらえました!!


次回作は、上手くテーマを伝える方法や文章力を工面していきます!!




ちなみに、この作品や前作もスマフォでも見やすいように……

短文を連ねたり、セリフも長くないようにテンポよく書いたつもりです。


もし、それでも見にくかったり改善点があったりしたらコメントいただけると幸いです!!

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