太陽の一撃
第二天使フェブライオ。
第四天使アプリーレ。
第六天使ジュノーネ。
第十一天使ファウスティナ。
このうち、アプリとジュノの戦い方は知っていた。
見たままなので分かりやすいのだ。
アプリーレの武器は長い鞭。
ジュノーネの武器は全身を飾る孔雀の羽だ。
この二人はフェブライオとファウスティナの護衛としてつけられている。
しかし残りの二人はまだ見たことがない。
ユリウスがまた語り出した。
『ファウスティナは単独では強力な機兵とはいえない。
彼女の特性は『加護』。
味方の能力を増幅させる力だ』
透明感のある黄色い熾天使、第十一天使ファウスティナ。
かの機兵が仲間にむけて手をかざし、黄金色の魔力を送りはじめる。
『フェブライオ、責任は重大よ。ちゃんと理解していて?』
落ち着いた印象の女性の声だった。
いっぽう、魔力を送られている第二天使フェブライオは若い男の声だ。
紫色の全身をふるわせ、フェブライオは嬉々として語る。
『勿論ですとも!!
我が力は天の裁き!!
たとえ天魔鬼神と雖も恐れおののき三千世界の彼方へ退く、無辺無尽なる天上の極光!!
いかな彼奴めが宇宙の彼方より飛来せし暗黒の邪神とて!!
我が聖女より賜りし神の恩寵の前にはただ風の前の塵にも等しきものと心得られよ!!
嗚呼見ているか我が聖女よ!!
そして新しき我らが妹よ!!
今これより神聖なる神の裁きが邪悪の化身を討ち祓い天上に栄光を、地上に安寧をもたらし、我が名には千載の名誉が与えられ……』
「……ウザっ!!!」
勇輝は遠慮なくバッサリ言い切った。
なんだこのとてつもないハイテンション自己陶酔ヤローは。
先日半殺しにしたクソ王子がかすむほどの悪酔いぶりだ。
見かねてユリウスがフォローになっていないフォローをした。
『こんな男だが、フェブは我々の中でもっとも強力な一撃を持っているのだ。
まあ鳥や獣の鳴き声だとでも思ってやり過ごすことだ』
「くそウゼエ……」
そんなこんなやっているうちにもファウスティナの加護はどんどんフェブライオの中に溜まっていく。
紫色のボディが黄金色に染まり、まるで小さな太陽のように輝きだす。
真上が急にまぶしくなったのに気付いて、赤竜の一部がフェブライオに狙いを定めた。
『来た来た来たァ! アンタの好きにはさせないわよッ!』
オカマ口調の鞭使い、第四天使アプリーレ。
『……兄さんたちは、僕らが守るよ』
陰気な弟キャラ、第十二天使エクスペラトリス。
二体が前に出てハイパーモード状態のフェブライオを守る。
色物キャラばかりのようではあるが、みな一騎当千の強者ばかりだ。
しかしその強者を九体、しかも三方向から同時に攻撃させているのに、巨大な赤竜は倒れない。
確実にダメージは与えているものの決定打に欠けた。
『そろそろいいだろうフェブ。始めたまえ』
『いいとも、感動のフィナーレとしよう!!』
十分に加護を与えられ、はちきれんばかりの力に満ちたフェブライオ。
黄金色に輝く機体が両手を赤竜に向ける。
十本の指から光がはなたれ、機体よりも大きな魔法円を描いた。
『神の恵みは計り知れない、これ無量なり。
神の庭は永遠に踏破できぬ、これ無辺なり。
神の御業はすべてを担う、これ無数なり。
神の愛は不滅にして不変、これ無尽なり。
神の怒りを代行し執行する、これ無敵なり!!』
フェブライオが呪文を一節唱えるごとに、彼を染めていた黄金の光が段階的に魔法円に吸収されていく。
円はじょじょにまぶしく、熱く輝きを増していく。
そして呪文を五節まで唱え終えたとき、円はまるで太陽そのものと化していた。
『総員退避ーッ!』
ユリウスの命令を受けて十二天使たちが一斉に赤竜から退く。
同時に、フェブライオが最後の一節を唱えた。
『機械仕掛けの神――!!』
高速ではなたれた太陽が赤竜を襲う。
太陽は受け止めようと伸びてきた赤竜の頭を次々と蒸発させていく。防御すら許さない。
そして胴体まで到達した瞬間、すべての竜頭がもだえ苦しみ死のダンスを踊った。
燃える。
のたうち回りながら全身が燃えている。
どことも知れぬ果てからやってきた邪竜の最期だ。
焼きつくされた部分は黒い霧となって宇宙に散ってゆく。
『終った……』
天使の誰かが感慨深げに言う。
『ええ、長い戦いだったわ……』
答えた天使もまた熱い思いがこみ上げてくるのをおさえきれないようだ。
「フーッ」
エウフェーミアも珍しく息を切らせて苦しそうにしている。
「だ、大丈夫、エウフェーミア?」
「ええ、何ともないわよ」
勇輝の言葉にいつもの笑顔を見せる伝説の聖女。
今の戦いは実質的に彼女一人で行われたものだ。
すさまじい力である。
守護機兵九体同時にあの化け物と全力で戦わせ、一体からもう一体へ力を送り、最後の一体で最強の攻撃魔法をはなつ。
勇輝にはとうてい真似できると思えない。
なんやかんや聖人らしからぬ部分はあるものの、やはりこの人は偉大だ。
『見たまえ、我らの宿敵が消滅するぞ』
燃え盛る竜は小さく、小さくしぼんでいた。
そして限界までしぼんだところで、音もなく爆発する。音が聞こえないのは宇宙空間だからだ。
弾け飛んだ竜の破片は次々と霧散していく。
だがひとつだけ霧散せず、一直線に突き進む竜の頭があった。
勝ったと思って油断していた天使たちはうっかり竜の進行を許してしまう。
竜のむかう先に居たものは、天使たちの主人公。
『エフィ!?』
天使たちの笑い声が悲鳴に変わった。
普段のエウフェーミアならばこのていどの敵はなんでもない。
だが今は疲労の極致にあった。
聖女はもう戦えない。十二天使は全員はなれた場所にいる。
助けが間に合わない。
エウフェーミアも、十二天使も、襲いかかろうとする竜を絶望的な表情で見つめた。
「いやいやいやいや!
なんでお前ら俺のこと忘れてんだよ!」
勇輝はクリムゾンセラフの両手でエウフェーミアを抱きかかえ、そのまま全速力で飛ぶ。
すぐ後に、竜の頭はむなしく通り過ぎていった。
「おらっ!」
クリムゾンセラフが装備品の日本刀を竜の後頭部に投げつける。
刀は正確に後頭部をとらえ、往生際の悪い竜を消滅させた。
十二天使たちから安堵のため息がもれる。
「あ、ありがとうねユウキ。あなたに助けられちゃったわ」
「どーいたしまして」
何百年もヒロイン+十二天使というスタイルで戦い続けていた彼女たちである。
いざという時、新キャラである勇輝とクリムゾンセラフはすっかり忘れ去られてしまうのであった。
「俺だってやる時はやるだろ?」
「はいはい、優秀な妹がいてくれて幸せよ」
笑顔をかわす聖女二人。
しかし彼女たちはさらに見落としがあったことを、まだ気付いていない。
爆散霧消した竜の頭のうち、もう一匹だけ生き残りがいた。
正真正銘最後の一匹。
それはよりにもよって地上に落ちていった……!





