聖女のざまぁは爆発オチ
『ユウキ様』
「うん」
敵とにらみ合いの中、セラが話しかけてくる、
『近づくのは危険だと思います』
「たしかに」
ゴーレムを簡単に破壊してしまう強力な触手。しかもタコだけに吸盤がついているから捕まったら離れるのは難しい。
そんな武器を敵は八本も持っている。
接近戦で勝ち目はないだろう。
「なら空だな!」
クリムゾンセラフは飛び上がった。
『逃げられると思うな!』
巨大タコの触手がのびる。
予想以上に長くのびてきて、天使の足を捕まえた。
「チッ!?」
強力な腕力で引っ張られ、地面に叩けつけられそうになる。
「こなくそっ!」
瞬間的に勇輝はつかまれた天使の足を刃物に変化させた。
ブシューッ!!
力いっぱいつかんでいた触手が刃にくいこんで、黒い霧を噴きだした。
『ぐわあぁっ』
王子は痛みに悲鳴をあげ、触手をはなす。
「おっと、とっ」
クリムゾンセラフはよろけながら地面に着地した。足はすぐに元通りになる。
『おのれ、なんて可愛げのない女だ!』
タコ王子があいかわらず身勝手な持論を展開する。
『私がせっかく一人前の淑女にしてやろうというのに、どうしてそんなに聞き分けのない!』
「ぬかせゲス野郎。
お前は俺の処女膜が欲しいだけだろ、分かってんだよクズ」
『なっ、なんて言い草だ! 頭がおかしいのかお前は!』
「おかしいのはお前だ」
クリムゾンセラフの周囲が盛り上がりだした。
砂浜から木と金属でできた射撃武器が続々とわき出てくる。
大型クロスボウ『バリスタ』だ。
鏃(矢の先端部分)には爆発魔法がしかけてある。対悪魔用の本格的な兵器だ。
「自分のことばかり考えやがって、痛みを知れゴミクズ」
バリスタが一斉に矢をはなつ。
巨大タコに全弾命中した。
海の中ならタコはそうとう素早く動ける、だがここは陸の上。
ズルズルと這いまわることしかできない巨大な的など格好の餌食だ。
神などと気取ってうぬぼれている王子の思い上がりが裏目に出た。
『ギャアアアアッ!』
タコが全身から黒い血を噴く。
次の瞬間、突き刺さった鏃が内側から爆発した。
ズドドドドオオオオンン……!!
「………………」
派手な大爆発。
煙幕があたりを埋め尽くす。
念のため、勇輝はとある細工をほどこしてから空へ飛びあがった。
さきほどの経験をいかし、かなり余分に高度をとる。
『ユウキ様?』
「しっ」
話しかけてくるセラを黙らせる。
数十秒たって、潮風が煙をすべて流し去る。
タコの姿はどこにもなかった。
『我々の勝利です』
「いや、もうちょっと待とう」
勇輝とセラは空中から戦場を見下ろす。
海。
砂浜。
波打ちぎわ。
そして砂浜には、クリムゾンセラフが立っていた。
ズズッ、ズズズッ。
何か大きなものを引きずるような音がする。
しかし闇夜の中、音を出している正体は見当たらない。
地上のクリムゾンセラフの真横から、砂が突然襲いかかった!
『フハハハハハッ!
油断したな愚か者め!』
砂が正体をあらわす。
それは傷ついた巨大タコであった。
多くのタコにはカメレオンのように身体の色を変化させる擬態能力がある。
王子は爆発の煙にまぎれて身体を砂に変化させ、逆転の機会を狙っていたのだ。
『さあもう逃げられんぞ!
ほじくり出して嬲りものにしてやる!』
バキバキバキバキ、メキィッ!!
地上のクリムゾンセラフはタコ足の凄まじい怪力の前にグチャグチャに破壊されていく。
とうとう搭乗席までえぐりだされ、フタがこじ開けられた。
『とうとうこの時が来たな、お前はもう私のものだ!』
上機嫌で勝利宣言するマルティン王子。
だが。
『……んん?』
搭乗席はカラッポだった。
それもそのはず。
地上に立たせていたクリムゾンセラフは、即席で作った偽物だったのだ。
「アホが」
勇輝がつぶやいた瞬間、偽物のクリムゾンセラフから無数のトゲがのびて、タコの全身を貫通した。
『ギャアアアアアアア!!」
「相手のことを調べもせずにケンカ売るからこうなる。
お前もしかして騎士団長より自分のほうが強いとでも思ったのか?」
勇輝はとどめを刺そうとする。
『ま、待ってくれ、わかった、私が悪かった』
命ごいをする王子。
だが勇輝は冷淡にあしらった。
「お前に捨てられた女たちも、待ってくれといったんじゃねえの?
それをお前はどうしたんだ?」
本物のクリムゾンセラフが翼をはばたかせ、大きな羽根を大量に降らせる。
月を背景に羽ばたく天使は、皮肉にも美しかった。
「羽根爆弾」
白い羽根は串刺し状態の巨大タコの上に降りそそぎ、そして順番に大爆発をおこす。
今度こそ巨大タコは完全消滅した。





