金色の妖眼
ほうっておくわけにもいかないだろう。
勇輝は連中のところへ行ってみることにした。
だが正面から行っては敵の作戦をまともに受けてしまう。
まわりこんで後ろから接近する。
場所は駐車場だ。
馬車がいくつも止められているため死角は多く、隠れるのはたやすい。
勇輝は男たちから約二十メートルまで接近した。
まだ気づかれている様子はない。
遠くから見張っている者でもいるのかと探ってみたがそういう様子もない。
(なんなんだこいつら?)
覆面をつけた男たち四人は一つにかたまって勇輝の馬車をにらみ続けている。
二手に分かれるとか四方を囲むとか、そういう発想もないらしい。
一網打尽ではないか、こんなもの。
勇輝は足から地面に魔力を通し、仕掛けを終えた。
相手はまだ気づかない。
というか後ろも左右も目に入らないようだ。
周囲の人間たちなどは覆面四人組と勇輝を交互に見て、ヒソヒソ内緒話をしているほどだというのに。
……まあ色々考えるのも面倒なので、やってしまうことにした。
「パックンフロアー」
四人組の地面が前後左右すべての方向から盛り上がってきて、まるで食虫植物のように捕獲した。
バクッ!
捕獲成功。
実に簡単だ。
あまりに簡単すぎて気が抜けてしまうが、それでもあえて油断はしない。
パックンフロアーの周囲を鉄格子に作り替える。
次にパックンフロアーの中身を鎖に変えて男たちを個別に拘束する。
あとは余った部分を地面に戻せば完成。
即席の牢屋と拘束具のできあがりだ。
「なんなんだよ、お前ら」
男たちを見下ろしながら話しかける。
意外にも男たちはこんな状態なのに騒ぎもしなければ驚きもしない。
落ち着いているというより、ボンヤリ寝ぼけているような顔をしていた。
「僕は」「俺は」「オレは」「ニコラはね」
四人の男たちはボンヤリした顔でそれぞれ答える。一人は二コラという名らしい、まあどうでもいいが。
『暴漢だ(よ)』
四人の声がきれいにハモった。
「……ほ、ほう」
どうリアクションしたものか困ってしまう。
「普通、暴漢は自分のことを暴漢とはいわねえと思うんだがな」
『…………』
男たちは返事をしない。
虚ろな瞳で勇輝の顔をジーっと見つめている。
どうにも様子がおかしすぎる。正気とは思えない。
「シャブ中……? いや催眠術とか……?」
勇輝は鉄格子の中に小型のゴーレムを作り、男たちの覆面を取らせた。
何となく見おぼえがあるような美男子ばかりだった。
たぶんあのクソ王子の後ろにいた連中。
「おい、お前らあの王子になにをされたんだ」
『…………』
返事がない。ただのシャブ中のようだ。
「……警察呼ぶか」
勇輝は警備員さんに頼んで警察に通報することにした。
しばらくたって駆けつけた警察官たちは、四人組の身分ありげな服装をみて関わりたくなさそうな顔をする。
上級国民あいてだと後で上司からなに言われるか分かったもんじゃないから。
だが他ならぬ本人たちが『暴漢だ……』と自供するので、仕方なく、という雰囲気で連行していった。
ちなみに全員、小さなナイフを懐に隠し持っていた。
殺人未遂ということになるのだろうか。
これらの一部始終を、水晶玉でのぞいている男がいた。
「おやおやおや……」
あきれ顔で四人組を見つめるフード姿の男、グレーゲル。
「この呪いはどうも匙加減がむずかしい。
ただの木偶の棒になってしまったか」
口からよだれをたらしてボケーっとしている四人組を嘲笑するグレーゲル。
悪いことをしたとはまったく思っていないようだ。
「それにしても噂以上の魔力だ」
水晶玉はため息をつく勇輝の顔を映し出していた。
「魔女め。仇はかならず討たせてもらうぞ」
フードの奥で金色の目が妖しく光っていた。





