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聖女×ロボット×ファンタジー! 死にたくなければモノ作れ、ものづくり魔法が世界をすくう!  作者: 卯月
第三章 聖女の弱点

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夜の帳(とばり)の中で

 あのままなし崩し的に視察は終了となり、各自(かくじ)解散となった。

 夕食後、勇輝はランベルトに頼んでダンス練習のパートナーになってもらう。


 が、やっぱりダメだった。

 どうしても男と接触すると表情がひきつる。腰が引ける。


 はじめは我慢してくれていたランベルトも、さすがに不機嫌になった。


「正直けっこうストレスを感じるね。

 不幸な目にあう紳士(しんし)たちのためにも、あきらめたほうが良いんじゃないのかい」


「出来ればそうしたいよ」


 ランベルトと勇輝は同時にため息をついた。


 なまじ勇輝の身体が絶世の美少女なのが良くない。

 男と触れ合うのが苦手、と伝えてもどれほど納得してもらえるか。

 相手をしてしまった男性は勇輝の嫌がる様子を見て、自尊心(プライド)を大きく傷つけられることとなるだろう。


 もっと練習をつづければいずれは慣(な)れて自然に笑えるようになるはずだけれども。

 だが今回ばかりは時間が無さすぎる。あと数日しかないのだ。


「できないことをさせようなんて、貴族の相手も大変ね」


 横で見ていたクラリーチェにも同情されてしまう。


「もうねえ、悪魔(ディアブル)相手にしてたほうが楽だよ!

 殺せば終わるんだもん!」


「すごいこと言うわね」


 クラリーチェは笑いながら前に出て、ランベルトと踊りはじめた。

 二人の息はぴったり合っていて、意外なほど様(さま)になっている。


「二人ともうまいね」


「まあ任務でダンスパーティーに参加することもあるから。仕方なく、ね?」


「フッ」


 クラリーチェにお道化(どけ)た視線をむけられて、ランベルトも微笑む。


 ランベルト・ベルモンド。

 クラリーチェ・ベルモンド。


 二人ともヴァレリア・ベルモンドの養子だ。

 兄妹のあいだに血縁関係はない。

 こうして手を取りあって踊る姿を見ていると、お似合いの二人であった。


 勇輝もどこかの誰かとこのようになれと、そういうのが皇女殿下の考えなのだろうけれど。

 いやはや、どうにも。

 やっぱり自分には出来そうにないなあと思う勇輝であった。






「あの悪魔め……!」


 マルティン王子はベッドの上で芸術的な裸体をさらしながら、毒々しくつぶやいた。


「そうだあの女は悪魔に憑りつかれているのだ。

 だからあんな非道な真似を!」


 非道な真似をしたのは天使なのだが、伝えてもおそらくおそらく彼は信じない。


「ここままでは済(す)まされない、罰(ばつ)をあたえてやらねば」


 王子は隣で寝ている男に話しかけた。彼もまた裸だった。


「そうは思わないか、フェルディナンド」


 褐色(かっしょく)の肌の美青年は、背を向けて寝たたまま返事をしない。

 だが起きているのは知っている。

 すねているだけだ、王子はそう解釈した。


「いいかげんに機嫌を直せ、あの女が言っていたことは真実ではない」


 もちろん嘘だ。

 だが真実が人を幸せにするとは限らない。


「私にはお前が必要なんだ、そのお前を裏切るような真似をするはずがないだろう?」


 顔とスタイルに恵まれた王子は声もまた美しかった。

 耳元で甘くささやかれた者は、魂の奥が侵略されるような快感を得る。


「……いっそ殺して楽にしてくれ」


 フェルディナンドは苦しそうにそうつぶやくと、身を起こしベッドから出た。


「今さらどこへも行けないさ。俺はもう……」


 自分の上着をつかみ袖(そで)を通す。

 シャツ一枚の姿で部屋を出ていってしまった。


「…………」


 去り行く後ろ姿をジッと見つめるマルティン王子。

 そして口を開いた。


「ちょろいな、あいつ」


 ああいうことを言っているうちは大丈夫だ。これ以上のフォローは必要ない。


「さて」


 王子の関心はすでにフェルディナンドから離れている。

 今はあの赤眼の悪魔のことだ。

 いったいどうやって躾(しつ)けてくれよう。


「フーム」


 躾(しつけ)とはいっても鞭(むち)や手で叩くといった行為は考えていない。

 そういう性癖ではないのだ。

 精神的に服従させてやりたい。

 無礼な赤眼の悪魔を屈服させ、従順な淑女(しゅくじょ)に教育してやる。

 あの恵まれた肢体を思うままに蹂躙(じゅうりん)し、そして飽きたら捨ててやるのだ。

 その時、あの小娘はどんな泣き顔ですがってくるのだろう。

 それを想像しただけで獣欲がざわめいた。

 

 コンコンコン、寝所のドアがノックされた。

 瞬間、王子は脳を切り替える。

 一流の男は二人きりの時に他の女の話などしないものだ。


「フェルディナンド、ノックなどせずに入ってこい。

 私とお前の仲ではないか」


 シャツ一枚で出ていったのだ。すぐ戻ってくることは分かっていた。

 だがしかし、来たのはフェルディナンドではなかった。


「グレーゲルにございます、殿下」


 しゃがれた中年男の声。

 最近出入りを許した、北の辺境国から来た流れ者である。

 魔王戦役後のいわゆる『復興バブル』に便乗するために、武装商隊にまぎれてやってきたタイプの男だ。


「こんな夜更(よふ)けに何用か」

 

 グレーゲルはグッグッグッ、とくぐもった笑い声を出した。


「夜更けならばこそ、できるお話もあるかと。

 少々お困りとうかがいまして」


 意味深な言いかたをする。

 どうやら昼間の騒動を聞きつけていたらしい。

 

「……入れ」


 どことなく不気味なものを感じつつも、マルテイン王子は入室を許可した。

 夜だというのに目深(まぶか)にフードをかぶった男が入ってくる。


 この男は肌が弱いのだそうで、強い日光を長時間あびると火傷してしまうのだ。

 だからいつも全身をおおうような格好ばかりしている。

 こんな冴えない男を出入りさせるようになった理由は、特殊な能力を持っているからだった。


「どうぞ、ご学友の方々」


 グレーゲルの後から、マルティン王子の取りまきたちが入ってくる。

 昼間ダンスホールでエウ学の女生徒たちを迎えたメンバーだ。

 男たちは妙にうつろな表情、フラフラした足どりで入室してきた。


「この方々には勇気がでるお呪(まじな)いをさせて頂きました」


 フードの奥で男が笑う。

 歯の白さだけが浮かび上がるようで、見るものに不吉なおぞましさを抱かせる。

 

「我々にお任せくださいませんか。

 かの『魔女』を、とらえてごらんにいれます」


 王子は背筋に寒気を感じ、反射的にうなずいていた。

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