魂は死なず
「我らはダリア様を騙して、利用していたのです。
この方に罪はありません、どうか!」
男はすでに拘束されている。
騎士によって力づくで連行されていくなか、必死に助命嘆願を続けた。
「先の戦役でダリア様はお父上を亡くされました!
その悲しみにつけ込んで!
お父上のためだと!
それが正義だと吹き込んで!
強引に巻き込んだだけなのです!」
聞きようによってはひどくダリアを馬鹿にした言い様だった。
彼女を『自分で考える頭を持たない大馬鹿娘だ』と言っているようなものだ。
だが今となってはもうそういう理屈でかばうしか道がない。
「だからどうか、どうかお慈悲を!」
正当な裁判になればもはや助からない。
有罪にできるだけの素材は余るほどだ。
だから今。聖女と皇女に直訴できる今、この瞬間が、助命できる最後の機会。
この絶好の機会を自分の命乞いに使わない潔さには、勇輝も心打たれた。
「そこの人、待ってくれ!」
風使いを連行しようとする騎士を勇輝は呼び止めた。
「その娘のお父さんも、魔王戦役で死んだのか」
「はい、騎士の鑑のような方でした!
あちらの団長のように!」
話を聞きながら、担架で運ばれていくグスターヴォ団長とダリアの姿を見た。
息子を失った父と、父を失った娘の姿を。
「そうか、いっぱい死んだものなあ」
あの夜、勇輝は上空からこの世の地獄ともいえる光景を見た。
本当にひどい一日だった。
正確な死者の数は今でも分かっていない。
とにかく何もかもメチャクチャになった。
「もう死人はいらないよな。あれでもう十分だ」
勇輝は天にむかって手をのばす。
最後にもう一つだけやれることが残っていた。
どのていど意味のあることか分からないが、やるだけやってみよう。
きっと『あちら側』でも気になって仕方がないはずだから。
手の先から魔力を飛ばすと、天から一条の光がさした。
陽光とは違う、だが天から降りそそぐ聖なる光。
この聖都に住むものは全員一度、この光を目撃したことがあった。
天使を召喚した天空の門。そこからあふれ出る光。
小さなものを開くだけなら学園内に存在するエネルギーだけでも足りる。
呼び出されたものは、戦死した騎士たちの魂であった。
夢であって夢でない場所にダリアは立っていた。
すぐそばに祖父のグスターヴォもいる。
おたがいの目を見た瞬間、相手が幻ではなく本人だと察した。
「父上、ダリア」
二人を呼ぶ声。
聞き覚えのある、懐かしい声。
「ジャン!」
「お父様!?」
戦死した二人の家族、ジャン・バルバーリだった。
生前と何も変わらぬ姿で彼は立ち、変わらぬ顔で微笑んでいる。
「まったく、やりすぎでしょう二人とも」
ジャンはゆっくり二人のもとに近づいてくる。





