汚名を挽回するんだ!(まちがい)
墜落していくクリムゾンセラフを見て、ダリアは大きく息を吐いた。
「大丈夫か、ダリア」
「は、はい、何ともありません」
強気に彼女はそう言ったが額には玉の汗が浮かび、肩で息をしている。
かなりの負担を強いているのは確実だ。
天馬騎士は圧倒的パワーでクリムゾンセラフを凌駕しているように見えるが、そのパワーの源は核担当の魔力である。
大重量で空を飛ぶ。
剛腕で薙ぎ倒す。
風をまとい蹴散らす。
いずれも多くの魔力を使う行為だ。操縦者一人で同時にこれらを実行し続けるのは完全に不可能。
だからこそエネルギー担当の核役が必要になる。
肉体的にはただ座っていただけのダリアだったが、あるいは操っているグスターヴォ以上に過酷な役割を担っているかもしれない。
「お疲れ様ですダリア様、おかげさまで我らの勝利です」
同席している風使いの男がダリアを称えた。
この男は勇輝にしてやられた恨みがあるので、心底うれしそうにしている。
「見てください、小娘の最期です」
今まさにクリムゾンセラフは学園内の庭園に墜落するところであった。
錐揉みしながら落下していった紅い天使は、地面に衝突し四散五裂……………………しなかった。
地表すれすれで姿勢を立て直し、不完全ながら羽ばたいて減速に成功する。
ドドオォォォン……!
大量の砂煙が地上付近に巻きあがった。
空まで聞こえる大音を響かせたが、それでも辛うじて着地。
まだ戦いは終わっていないようだ。
「しぶとい奴よ、あれも戦役の生き残りだものなあ」
どこか納得したように老将はつぶやいた。
「まだいけるか二人とも」
老将の問いに、部下と孫娘は同時にこたえた。
『もちろんです!』
グスターヴォは満足げにうなずいた。
「よし、ならば間髪を入れずにとどめを刺す!」
天馬騎士は決着をつけるべく地上に降下しはじめる。
『ユウキ様! ユウキ様!』
人工知能セラが勇輝の名を呼び続けている。
クリムゾンセラフを大破することなく着陸させたのは、勇輝ではなくセラだったのだ。
だが完全に無事なのは搭乗席だけ。
四肢はいずれも落下のダメージで損傷し、翼も自分でおこなった羽根吹雪の影響で減少している。
聖女の魔力で回復させなくては、とても戦えない。
しかし勇輝は完全に失神していた。
『ユウキ様!』
「うう……」
かすかに目を開いた。
だがまだ意識が朦朧としている。
勇輝たちがモタモタしているうちに、敵が急降下してきた。
『トドメだー!!』
左右の前脚を揃えて、上空から踏みつけてくる。
セラはギリギリで横に倒れ込み、回転しながらどうにか回避した。
ズドオオォン!
激しい砂塵を上げながら、天馬の蹄は地面に突き刺さる。
危ない所だった。相手は本気で勇輝を殺しに来ている。
『ユウキ様』
「うう、ん……?」
苦しそうな表情で顔をなでる勇輝。ようやく意識が戻ってきたようだ。
「俺、生きてる?
お前が守ってくれたのかセラ?」
『はい。でもピンチです』
目の前では天馬騎士が前脚を引っこ抜き、姿勢を整えているところだ。
「悪りぃ、お前がいなけりゃ死んでたな」
『いいのです私は聖女のヨロイ。
あなたは私が守ります、それが私の役目』
勇輝はクリムゾンセラフを修復しながら、ちょっとだけ笑う。
「セリフが十二天使みたいになってんぞお前」
『はい。お兄様がたは私の目標です。が』
「が?」
『私の聖女はエウフェーミア様ではなく、あなたですユウキ様』
思わず胸の奥に温かいものがこみ上げてきた。
まだまだ生まれたての赤ん坊みたいな存在だと思っていたが、もうすでにセラは大事な相棒になっていたらしい。
「そうか、ならお前の聖女として、汚名を挽回しないとな!」
クリムゾンセラフはダメージを完全に癒し、完全復活した。
しかし、セラのツッコミで機兵はガクッと腰砕けになる。
『ユウキ様、汚名は返上するものです。
挽回するのは名誉です』
「ち、地球にはそういうセリフもあったんだよ!」
『そうですか』
この語彙力はどこからどうやって学んでいるのだろう。
まあいい。
首をひねりながら、勇輝は紅の天使を天馬騎士の前まで羽ばたかせた。
グスターヴォ団長はすっかり元通りになってしまったクリムゾンセラフを見ても、少しも動揺していない。
『ちょっと目を離したすきに元通りか。
良かろう、何度でも叩き潰してくれる』
天馬騎士は剣をクリムゾンセラフに向けた。
剣先から強烈な突風が発生しておそいかかる。





