天空に咲く火花
騎士にとって騎馬突撃こそ戦場の華である。
聖騎士団の場合、『半人半馬』部隊による集団突撃がそれだ。
走れば疾風のごとく。
戦えば鬼神のごとし。
最も危険な戦地へ我、先にと突撃していくさまは、まさに騎士の鑑である。
その騎士の鑑に翼をつけたらどうなるか?
意外とそんな安直な発想から生まれた機兵なのかもしれない。
一切の雑味を廃した純白の鎧姿は、騎士とは斯くも純粋であれとの自己主張だ。
威風堂々。
もったいぶって現れた天馬騎士は、見るものすべてに圧倒的な強者の風格をしめす。
相対する勇輝は、興奮と恐怖で血液が逆流するような熱さを感じた。
「それがあんたの切り札か!」
「いかにも! いざ勝負!」
お互いに飛行タイプである。
どちらから言いだすまでもなく、両者空へと舞い上がった。
十分な高度に上がりきるまでの間、セラが話しかけてくる。
『ユウキ様』
「どうしたセラ」
『怖いです』
意外なひと言に驚かされる。
まだセラを作ってから日も浅いというのに、ものすごいスピードで心が成長している。
「俺も怖いよ。
だから戦うんだ」
『怖いから? わかりません』
「うーん、どう言ったらいいのかな」
視線を地上におろすと、巨大な聖都の街並みが広がっていた。
「俺たちが逃げたら、他の誰かがこの怖さを相手にしなくちゃいけなくなる。
そんなわけにいかないだろ?
聖女は人の前に立って戦うんだ。後ろに隠れちゃいけないのさ」
『不惜身命の決意ですね』
「……俺そんな言葉、知らないんだけど」
『頑張ってますから』
……将来的にはすごいことになりそうである。
さあ高度は十分。
まずは小手調べに武器での白兵戦をはじめる。
クリムゾンセラフは日本刀。
天馬騎士は手槍で戦う。
『ぬおりゃあああ!』
老将が吼える。
手槍の穂先がうなりを上げて紅い天使にせまった。
勇輝はその強烈な叩きつけを刀でまともに受け止める。
バギイィン!!
「うおわあああ!?」
すさまじい重量感にクリムゾンセラフは吹っ飛んだ。
受け止めた刀にヒビが入っている。これはすぐ魔法で直した。
「やるなっ!」
基本的な出力は向こうが上のようだ。
だがそれでもあえて、クリムゾンセラフは突っ込む。
「だりゃっ! うりゃーっ!」
みずから作り出した刀で次々と打ち込む。
何度も、何度も。
ガッ! ギン! ガン!
だが熟練の槍さばきの前には通用しない。
『軽いわ小娘!』
天馬騎士は十分に勢いをのせて手槍を横に薙いだ。
ドガアアッッ!
勇輝をのせたクリムゾンセラフはまたも吹き飛ばされる。
「ぐうううっ!」
だがしかし勇輝は再度突撃し、しつこく同じことを繰り返す。
ガツッ! ゴッ! ギィン!
『間抜けがァ、死ぬまで繰り返すつもりか!』
老将の罵倒。
勇輝も負けじと言い返す。
「間抜けはテメエのほうだ!
敵の能力無視してんじゃねぇーよッ!」
ガキンッ!
槍に妙な感触をうけて、老将は顔色を変えた。
『なにい?』
何度も敵の攻撃をうけて、手槍は多数の傷をおっていた。
一方、同じ回数ぶつかっているはずの敵の武器は傷一つない。
「ウウオオオオオオオッ!!」
勇輝はこれまでで最大の力をこめて斬り込んだ。
強烈な斬撃を受け止めて、手槍が嫌な音を立てる。
バキイイイィィィン……!!
槍の穂先が宙を舞い、地上へ落ちていった。
「はあっ、はあっ、はあっ!」
息を荒くしながら、勇輝は不敵に笑う。
勇輝の武器は魔法で何度でも直せる。
しかしグスターヴォの武器はそうもいかない。ぶつかればぶつかるほどダメージを負い、劣化していく。
ぶつけ合いの先にあるのは、一方的な勇輝の勝利だ。
『なるほど……。
これは容易ならざる相手だ』
天馬騎士はただの棒と化した残骸をすて、予備の剣を抜いた。
『お互い身体も温まってきたころだ。
本気を出そうか』
「ああ、いいぜ」
強がってみせた勇輝だが、背筋に鳥肌がたつのを感じた。
ヤバいのが来る。





