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聖女×ロボット×ファンタジー! 死にたくなければモノ作れ、ものづくり魔法が世界をすくう!  作者: 卯月
第二章 お嬢様学校でスローライフ!……できるような性格じゃない

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老将の焔(ほのお)

「ク、クラリーチェ・ベルモンド様?」

「はい。

 ヴァレリア・ベルモンド枢機卿すうききょうの養女にございます、殿下」


 巨大な鷹から出てきた銀髪の少女は、皇女殿下の前にひざまずいた。


窮屈きゅうくつではございますが、私の機兵にお入りください。

 安全なところまでお連れします」

「こ、このハトで助けてくださいますの?」

「……はい」


 タカなんですけど。

 小さな、本当に小さな声で、クラリーチェはそうつぶやいた。

 ハトタカの違いなんて、深窓のご令嬢にはわかるまい。


「ですが、わたくし一人が助かるわけには」

「ご心配にはおよびません、まもなく他の救援部隊が到着いたします」


 遠くのほうから、


 ガッシャガッシャガッシャガッシャ……! 


 とけたたましい足音が接近してくる。

 見ればいま戦っていたのとおなじ、『兵卒ソルダート』の群れではないか。


「ヒッ!」


 マリアテレーズ皇女は悲鳴を上げ、カミラは刀を構える。


「ご安心を、あれは我々遊撃隊員の者です」

「お、お味方ですのね」


 側面の勝手口かってぐちから突入してきた救助部隊であった。

兵卒ソルダート』部隊の到着にあわせて、上空で待機していたもう一羽の『銀の鷹アルジェント』が地上に舞い降りる。


 中から出てきたのが聖騎士団でも一、二をあらそう美形の若者だったので、お嬢様がたは一瞬ここが戦場であることを忘れた。


 長い金髪を風になびかせて優雅に礼をするランベルト・ベルモンド。

 彼もまたヴァレリアの養子であり、側近中の側近である。


「お迎えに上がりました、ご令嬢の皆様方」


 お嬢様がたの中から黄色い歓声があがる。


「キャッ、もしかしてランベルト様ではありませんの!?」

「はい、なぜ私の名をご存じで?」

「なぜって先日の『さっかー大会』の時、わたくし観客席におりましたの!」

「ああそれはそれは、応援ありがとうございました」


 魔王ディアボロスがあけた大穴を埋めるためにおこなったサッカー大会。

 優勝した遊撃隊チームの面々はちょっとした有名人である。

 ランベルトはその有名人たちの中でも、エースストライカーだった男。

 名が売れたことが、意外な場面で役に立ってくれた。


「さあお話は別の場所でいたしましょう。

 みなさんこちらへどうぞ」


 ランベルトに引率いんそつされて、お嬢様たちはゾロゾロと歩きはじめる。

 その左右を『兵卒ソルダート』部隊が護衛する。

 第三騎士団の戦力はまだ残っていたが、こうなっては手出しできずに傍観ぼうかんするしかなかった。

 白兵戦を挑めばご令嬢がたを踏みつぶすことになる。

 射撃戦でも巻き添えで殺すことになる。

 どちらも取り返しのつかない不名誉になってしまう。できることではない。


 さっきまで泣いたり叫んだり悲惨ひさんな目にあっていたお嬢様がただが、ランベルトの周りを囲んでいる女子たちはどこか浮かれていて、まるでピクニック気分だ。

 ポッと顔を赤くしながらランベルトに話しかけるご令嬢がた。

 笑顔で受け答えをするランベルト。


 そんな様子を、クラリーチェは不機嫌そうににらんでいた。

 モテ男に恋をするとだいたいどこでも、こんな展開が待っている。 


「……さあ私たちも参りましょう」


 ピリピリした空気を発しながら、皇女殿下とカミラを乗せて『銀の鷹アルジェント』は飛び立った。

  





 人質を失ったことにより、第三騎士団の敗北は確定した。

 残された道は降伏するか、全滅するまで戦い続けるかのどちらかである。

 だが結果は同じだ。

 時間稼ぎをしても何にもならない。

 相手の損害を増やしてもまったく得はない。


 負けた。

 なぜこうなった。

 あの聖女の実力をあなどっていたせいだ。


 グスターヴォ団長は己のあやまちを認めるしかなかった。

 聖女が使う見たこともない魔法の数々。

 あんな超人が学園の内側にいた時点で、作戦の実行は見送るしかなかったのだ。

 あるいは居ると知れた時点でどうにか暗殺すれば、もしかしたら。


「フン」


 グスターヴォは内心の後悔こうかいを鼻で笑った。

 今さら済んだことをグダグダ悩んでもしかたがない。

 もう負けたのだ、負けたからには死ぬしかない。

 

 ではどう死ぬか。

 騎士の家に生まれ、騎士として生きた六十年。

 戦いで死ぬ以外の結末など、あるわけがない。


 覚悟を決めた老将は、生身でクリムゾンセラフに近づいていく。

 天使と目が合った。


「まず、貴殿を軽視していたことをびよう。

 ひとつ頼みたいことがある」


「なんです?」


「我が全力をもってお相手したい。

 だが不覚にも準備をおこたってしまった。

 多少の時間をいただきたいのだ」


 とてつもなく虫のいい、異常な要求だった。

 意訳すると、


 アンタのことナメてたわ。

 マジで戦いて―んだけど、なんも準備してなくってさ。

 ちょっと待っててくんねえ?


 こういう要求である。

 当然だが戦術的にはまったく聞き入れる必要はない。

 現状のまま、包囲している全軍で攻撃を続ければ良い。

 それだけで、まるで水が高い所から低い所へ流れるように、確実な勝利が得られる。


「決して失望はさせぬ!

 我らが騎士道の結晶をご覧に入れよう!」


 老人の瞳が炎のような情熱でたぎっていた。

 まだ見せていない力がある。

 出し尽くしていない想いがある。


 この想いを燃やしつくさぬままでは、死んでも死にきれぬ!


「…………」


 紅い熾天使は返答に迷っていた。

 グスターヴォ団長はいつでも踏みつぶせるような間合いから見上げている。

 このまま踏みつぶしてしまえば、とりあえずこの戦いは終わる。


 だが、そんな終わり方をしてしまっては、生き残った者たちにとって心の毒となるだろう。


「分かった、待とう!」


 聖女のこころよい決断に、老将は最後の闘志をたかぶらせた。


「かたじけない!」


 グスターヴォはきびすをかえし、語気ごきあらく部下たちに命じた。


「あれを使うぞ、大至急用意せい!」


 いよいよ大詰め。

 ボス敵は第三騎士団団長、グスターヴォ・バルバーリ!

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