VS第三騎士団
紅の熾天使は鋼鉄の巨体にもかかわらず、ふわり、と地面に着地した。
『のってくださイ』
「ああ、もちろん!」
勇輝はさし出された片手にのり、そのまま搭乗席まで運ばれる。
「セラ」
『はい』
「ちょっと話すの上手になってきてない?」
『ガンバッテます、ユウキ様のため』
「ありがと! 俺とはえらい違いだな!」
聖エウフェーミア女学園、通称エウ学に来てから、壊すか戦うかしかしていない勇輝である。
いま愛機に乗り本領を発揮した聖女は、さらなる破壊力を得てニヤリと牙をむいた。
「さあ勝負しようぜ騎士さんたちよぉ!
力と力のぶつかり合いだ!」
クリムゾンセラフがズシン、と一歩足踏みをする。
すると敷石から機兵サイズの日本刀が生えてきた。
シャキン!
地面から引き抜き、構える。
ほぼ同時に『兵卒』の一機が槍を構えて突撃してきた。
『オオオアアアアアッ!』
「うっしゃあああっ!!」
先鋒をつとめるだけあって、強力な使い手だった。
俊敏に間合いを詰めてくる『兵卒』の槍が、クリムゾンセラフの喉を一撃で刺し貫いた。
同時に、クリムゾンセラフの刀が『兵卒』の首を切断する。
戦いを見守っていた女生徒や騎士たちは息をのんだ。
始まったばかりなのにいきなり相討ちになった。
「ぐ、う、おおおおおっ!」
刺さった槍がグニャリと形を変え、クリムゾンセラフにまきつく。
そして吸収される。
次の瞬間、まともに貫かれていた傷はきれいに消滅していた。
「あ、あぶなかった、さすがプロ集団……!」
苦悶にうめきながら勇輝は敵を称えた。
首をはねられた敵機兵は、もはや戦闘続行不能。
まずは一機撃破。
『次はこっちが相手だ!』
後ろの敵が律儀に声をかけてから仕掛けてくる。
直剣を横にかまえ、走り抜けざまに斬撃を繰り出してくる。
勇輝をのせたクリムゾンセラフも同じ技で受けて立つ。
両者の刃が真正面で激突した。
ぶつかりあい、削りあって、激しい火花がちる。
バキイイイィィィン……!!
二つの刃がけたたましい音を鳴らし、同時に砕け散った。
「残念っ!
互角ならこっちの勝ちだ!」
勇輝はすぐ地面から次の武器を用意する。
敵剣士にそんなことが出来るわけもなく、なすすべなく撃破された。
二機目撃破。
『ええい次は俺だあっ!!』
騎士らしいというか、馬鹿正直というか。
一対十でなぶり殺しにしても良いものを、漢たちは一対一で勝負を挑んでくる。
三人目は、小型騎兵には不釣り合いな大斧を振り回してきた。
「どわっ!?」
勇輝は一撃必殺間違いなしの大旋風を飛びのいて避けた。
こんなもの受け止められるわけがない。
ぶつかり合えば刀もろとも機体がまっぷたつだ。
『そらそら逃げろ逃げろお!』
ブオン、ブオン、ブオン、ブオン!!
男が操る『兵卒』は、遠心力を巧みに制御して連続回転切りでクリムゾンセラフを襲う。
横に回したと思えば次は斜め下から、かと思えば飛び上がって脳天直撃を狙ってくる。
非力な小型機兵でよくここまで、というほどの妙技だ。
「チイッ!」
クリムゾンセラフはたまらず後退していく。
翼を羽ばたかせながらピョン、ピョンと飛んで間合いをとる。
その消極さを勝機と見て、男は斧を大上段にかまえて突撃した。
「フハハ、うわさの天使の首、獲ったあ!」
「フッ、そいつはどうかな」
次の瞬間、男が操る『兵卒』は全身が動かなくなった。
「なあっ!?」
なんと地面が彼の機兵にからみつき、締め上げている。
突然地面が前後左右から盛り上がり、『兵卒』を挟み撃ちにしたのだ。
「そいつはパックンフロアー!
設置型のトラップだ!」
「ぐ、ぐあああああああっ!」
先ほど生身で戦った風使いは、身動きできない状況からでも魔法で脱出することができた。
だが斧では、振り回す空間がないと使い物にならない。
メキメキメキメキィッ……!!
相性の問題である。
彼の大斧は勇輝の刀より強かったが、すっぽり包まれてしまってはどうしようもない。
数十秒締め上げられて、彼と彼の機兵は動かなくなった。
三機目撃破。
「どうだ、あんたらもすげえが、俺も強いだろう!」
無邪気に力を誇示する勇輝。
騎士たちはゆるやかに包囲したまま、様子をうかがってくる。
「なんだよ、来いよ、休憩なんていらねえぜ?」
余裕の笑みを浮かべ、手まねきする。
「す、すごい、すごいですわあの方!」
「こんなに間近で天使様のご活躍を拝見できるなんて!」
礼拝堂からの脱出に成功したご令嬢たちは、至近距離で見る機兵同士の戦いに圧倒されていた。
闘技場での決闘劇くらいなら見たことのある娘もいるだろう。
だが自分も戦場の中にいて見上げるのとは迫力が雲泥の差だ。
「ふ、ふんっ、なかなかやるじゃありませんの、あの子」
マリアテレーズ皇女殿下は全身をブルブルふるわせながら、そんな強がりを言っていた。
「殿下、無理はお体にさわります」
専属メイドのカミラが主のやせ我慢をたしなめるが、意地っ張りの皇女殿下は胸をはって強がった。
「あっあの子が命がけで戦っているのに、わたくしがコソコソ逃げるわけにはいかなくってよ!」
勇輝からすればコソコソ逃げて欲しいところである。
勢いあまって踏みつぶしでもしたら取り返しがつかない。
だが生粋のお嬢様であるマリアテレーズ殿下には、そのへんの感覚は分からない。
ただあの子の前で恥をかきたくない、その一心である。
しかし、そのいきすぎた意地が新しい不幸をよんだ。
『大変お見事なお心がけですな、皇女殿下』
頭上から男の大声。『兵卒』の一体が、皇女殿下に狙いを定めていた。
「ヒッ!?」
『ご無礼、ひらにご容赦を』
巨人の手が皇女にせまる。
「キャアアアアアア!」
「ヤベッ!?」
悲鳴を聞いた勇輝が、助けに入ろうと翼を広げる。
だが、残りの『兵卒』たちが一斉に襲いかかってきた。
『邪魔はさせん!』
「く、くそっ、逃げてください、皇女様!」
この『兵卒』たちは、勇輝を自由にさせないためにあえて待機していたのだ。
六機もの集団に足止めされては、さしものクリムゾンセラフでも突破できない。
万事休す、と思われたその時。
上空で待機していた二羽の巨大な鷹が、急降下してきて『兵卒』から皇女殿下を守った。
鷹の正体は『銀の鷹』。
軍務省長官直属、遊撃隊の所有する飛行型機兵である。
鷹の鉤爪が『兵卒』の身体を引き裂き、押し倒す。
敵が完全に沈黙したところで『銀の鷹』は地上に降り立ち、その中から銀髪の美少女が姿をあらわした。
「突然のご無礼をお許しください皇女殿下。
私はクラリーチェ・ベルモンド。
主の命により御身をお守りいたします」





