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聖女×ロボット×ファンタジー! 死にたくなければモノ作れ、ものづくり魔法が世界をすくう!  作者: 卯月
第二章 お嬢様学校でスローライフ!……できるような性格じゃない

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乙女の種火

 勇輝は発見した通信機を持ち運べるように加工し、白い城ヴァイス・シュロスの隠し部屋に持ち帰った。


「な、なによ、ふん!

 さんざん思わせぶりなことを言っておいて、ずいぶん早かったじゃない!」


 マリアテレーズ殿下は金髪ドリルをかきわけて、ふて腐れたようにそう言った。


「はい、でも一回戦闘はあったんですよ」


 何でもないことのように勇輝が言うので、皇女殿下とそのメイドは言葉を失ってしまう。


 勇輝は持ち帰った通信機をガチャガチャいじくりながら話を続ける。


「風魔法の使い手でした。

 女だからってなめてたから勝てたけど、相手が本気だったらマズかったかも」 

 

 なにせ目に見えない風である。防御は難しい。

 お約束の真空波とか衝撃波とかでのどや心臓をやられたら、その一撃だけで命を落としていただろう。


「ほら、こんな男です」

 

 自作のタブレットにイメージ画像をうつして見せた。

 緑色のマント。右手に手杖ワンドをかまえている。


「まあ、よく無事でしたわね」

「慣れてますんでね」


 心配そうな皇女にむかって、勇輝は軽く笑ってみせた。

 

「まあ怖くないと言ったらウソですけど、しかたないんです。

 俺がちゃんとやらないといけないんで」

「どうして?

 あなたは騎士でも警官でもありませんのに?」


「うん、でも……、聖女だからです」


「……!」


 ゴチャゴチャと機械をいじくりながら返事をする勇輝。

 皇女にたいしてありえない無礼であったが、マリアテレーズ殿下はとがめなかった。

 それどころか、どこか感銘かんめいを受けたような表情になっている。


「貴女の心には、『ノブレス・オブリージュ』の精神が宿っているのね」

「……はい?」


 勇輝の目は点になった。


「知らないの?」

「……ぜんぜん聞いたことない言葉っす」

「高貴なものには果たすべき責任がある、という意味の言葉よ」


 へえ、と言ったまま勇輝はだまってしまう。

 機械いじりの作業をガチャガチャと再開する。


「そう、知らなかったのね。

 言葉なんて知らなくても貴女は実行できている。

 わたくしは知っていてもなお、ここに座っているだけ……」


 皇女殿下はうつむき、おのれの現状をじた。


 いま学園全体がテロリストに占拠せんきょされ、大変な事態におちいっている。

 それなのに彼女は我が身可愛さに自分だけ閉じこもり、あまつさえ偶然居合いあわせただけの聖女を独占し、自分を守ることだけに専念させようとしている。

 それは『ノブレス・オブリージュ』にはんする卑劣ひれつな行いではないだろうか。

 そう思えてならない。


 誰か身分ある大人がこの場にいたとしたら、

『それは思い違いですよ』

 と言ってたしなめることだろう。


 貴族令嬢のはたすべき役割とは、はっきり言って政略結婚である。

 そして結婚後いかにして婚家と実家に貢献するかである。

 こんな異常事態で出しゃばって、肌に傷でもついたらそれこそ一生ものの大問題だ。

 だから自分一人だけでもこうして無事に隠れている。


 それで大正解なのですよと、貴族社会を知る大人なら誰だってそう言うだろう。


 マリアテレーズ皇女殿下とて、それは理解している。

 理解しているが、それでも、自分だけが安穏あんのんと引きこもっている現状にやましさを抱かずにいられない。


 人まかせではだめだ。

 自分も貢献こうけんするべきだ。

 自分たちを守るために戦っているこの聖女のように。

 そういう方向性の想いが、どうにも熱く、美しいものに思えてならない。

 この皇女殿下もまた、青春を謳歌おうかする一人の若者。

 時にはさだめられたレールを外れ、情熱に身を焦がしてみたくなるのだ。


 皇女殿下は、はしたなくもウズウズと身を動かしはじめた。

 何かしたい。

 何も出来ないけれど、それでも何か。


 そんな風に悶々もんもんとしているうちに、勇輝の工作のほうが完了した。


「よしっ。

 これで多分ジャミングも盗聴もされずに通信できますよ」


 勇輝は手作りのタブレットをガスッ! と機械に突き刺した。

 刺さった画面は下の機械から部品を吸収して、ひと回り大きくなる。


 この光景はかなりの異常事態なのだが、そろそろ誰も驚かなくなっている。

 勇輝は聖女。

 聖女は特別。

 特別だから何でもあり。

 そんな風に、理屈ではなく感覚で理解させられてしまうのだ。


 ジジ……ジジジ……。


 数秒の砂嵐画像ののち、ようやく目的の人物と連絡コンタクトをとることに成功した。

 勇輝の保護者、軍務省長官ヴァレリア・ベルモンド枢機卿。

 

「ヴァレリア様!」

「ユウキ、怪我はしていませんか?」

「まだ大丈夫です」


 まだ。

 自分があばものであることを隠そうともしない態度に、ヴァレリアは苦笑する。


「そんなことよりも皇女殿下です。

 無事に仲直りすることができました」

 

 妙な紹介のされかたをして、皇女殿下は小首をかしげた。


「無事、無事なのかしら、今の状況は?」

「ほかのみんなよりはマシです」

「……まあ、そうね」


 画面の前に皇女殿下があらわれたので、ヴァレリアは優雅に礼をした。


「お初にお目にかかりますマリアテレーズ皇女殿下。

 先日はその者がとんでもない無礼を働きましたこと、心よりおび申し上げます」


「お顔をお上げくださいベルモンド枢機卿。

 お会いできて光栄ですわ」


 上流階級同士の会話となると、勇輝には出番がない。

 ボケーッとした表情で美女二人の、良くいえば上品な、悪くいえばまだるっこしい会話を聞いていた。


 数分後、勇輝はドローンで上空から調査した映像の数々を報告する。

 なにせ自由自在に空を飛ぶカメラなど、こちらの世界には存在しない。

 貴重な情報すぎてあちら側の騎士たちからいくつもため息があふれ出た。


 軍司令部からすれば地図と、あとは卒業生であるジゼルの知識くらいしか情報源がなかったのである。

 文字通り天から降ってきたかのような情報の嵐に、司令部は興奮の坩堝るつぼと化した。

 

「ヴァレリア様、セラは、クリムゾンセラフはどうなっていますか」

「遊撃隊に運ばせましたよ。

 学園の付近に到着しているはずです」

「よっしゃ!

 そろそろ本番開始だな!」


 歯を見せてけもののように笑う勇輝を見て、マリアテレーズ殿下はたしなめた。


「貴女、せっかく素敵なお顔をしているのだから、もっと上品になさいな」

「いや、俺は平民ですんで、これでいいんですよ」

「何を言うの」


 マリアテレーズ殿下は厳しい表情になった。


「身分の上下など関係ありません。

 貴女は聖女なのだから、人々の模範もはんであるべきなのです」

「は、はあ……」


 しつけをおこなうマリアテレーズ殿下と、しぶしぶうなずく勇輝。

 二人の姿を見て、画面の向こうとこちらに居た大人二人は同時に微笑んだ。

 一人はヴァレリア、もう一人は皇女付きのメイドさんである。


「なあに?」

「い、いえ」


 皇女殿下の視線をうけて、恐縮するメイドさん。


「いいからおっしゃいなさいな。

 いま何を笑ったの?」


「はあ、その」


 メイドさんは、皇女殿下が思いもよらぬことを言った。


「ごくわずかな間に、お二人はまるで姉妹のようになられた、と」

「えっ」


 ポッ、と皇女殿下の顔がわずかに赤くなった。


「な、何を言い出すのよ、もう」


 まんざらでもなさそうな表情だった。

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