デデッデッデデッデッデッ♪
男は手杖をかまえながら、ゆっくりと近づいてくる。
(遠距離戦か……面倒だな……)
すこし悩む勇輝。
攻撃したり、されたりするのはまあ良い。
こちらの正体がバレて連絡されるほうがまずい。
このエリアに紅瞳の聖女がいた。
ということがバレると、どうしても敵の警戒が厳しくなってくる。
そうなればもう一度白い城を調べに来てしまうだろうし、周辺に見張りが立つようになるかもしれない。
悪影響のオンパレードだ。
どうにか目の前の男に何もさせないままで、勝ちたい。
男がさらに近づいてくる。
おなじ歩数ぶん、勇輝は下がった。
「大人しくこっちに来い。
そうすれば何もしない」
男の警告を無視して、勇輝は背をむけ走り出した。
これ以上近づかれると瞳の色を見られる。
「おい!」
怒声とともに、後ろから疾風が飛んでくる。
バキバキバキィィッ!
真横にあった細めの木が薙ぎ倒された。
ドドオォォン……!
(うげっ!?)
砕かれ倒れた木を見て、勇輝は心の中で叫んだ。
本気で当てはしないとはじめから予想していた。
あくまで威嚇射撃だと。
だが予想以上のこの威力。
しかも飛ばしてくるのは風魔法なので目に見えない。
どうやら運悪く強敵に出会ってしまったようだ。
「あんまり『おいた』がすぎると、ちょっとくらい痛い目にあってもらうぞ」
まだ正体はバレていない。
今ならまだ、騙し討ちにできる……!
勇輝はおびえたふりをして、後ろに下がった。
下がりながら足元に魔力を流す。
「あっ!」
木の根に足をとられ、あお向けに倒れてみせた。
足を痛めたふりをして手でかばい、顔をうつむかせる。
これで瞳は見えない。
「鬼ごっこはもう終わりだ、立てるかい」
男は無造作に近づいてきて、勇輝を見下ろす。
その瞬間だった。
男の左右から『地面』が襲いかかってきた!
まるでハエトリグサという食虫植物のように、男を挟んで拘束する!
バクッ!
「なあっ!?」
左右からの叩きつけ、さらに締め上げのコンボに男は悲鳴をあげる。
ギリギリギリギリ……!
「ぐわああっ!」
ダメージはなかなか良いようだ。
だがそれでも念のため、勇輝は数歩間合いをとる。
「アアアアッ!!
ふざけやがってエエエエ!!」
怒りの叫びとともに、小型の竜巻が発生した。
竜巻は勇輝が作った地面の罠を引き裂き、吹き飛ばす。
この強者をやっつけるには、少々手加減のしすぎだったようだ。
殺すつもりなら挟みこむ内側をするどい刃物で満たしておかなければならない。
あえてそうしなかったのは、なんとなく正義に反すると思えたから。
「ハア、ハア、この、ガキっ……!」
力を使い果たしたのか、すぐに竜巻は消える。
男は短時間のうちにひどく疲労していた。
挟まれ、締め上げられた肉体的ダメージ。
土の中に閉じ込められて呼吸もできなかっただろう。
そんな状態で大技を使わされたのだ、あっという間に魔力も体力も尽きる。
待ってましたとばかりに勇輝は飛びかかった。
「おりゃーっ!
俺の新技バージョンⅡ!」
魔力をこめた右拳を叩き込む。
肌ではなくあえて革鎧を殴った。
ボゴッ!
厚重ねの皮鎧は、想像より十倍ほど硬かった。
痛みで勇輝は飛び上がる。
「いってええええ!?」
間抜けな悲鳴をあげて跳ね回る。
だが男はそんな姿を見ている余裕はなかった。
「な、何だ、うわあ!
これ、なにしやがったウワアー!!」
彼の装備品であった革鎧やマントがまるで生き物のようにうごめき、持ち主の身体にからみついていく。
手足をしばり、口をふさぎ、完全に身動き取れなくしてしまった。
十二天使の一人、マルツォを粉々に破壊した『新技』のアレンジである。
敵が装備している防具をこちらの武器に変えてしまう、回避不可能の恐怖技。
本来の使いかたをすると血みどろの残虐処刑になってしまうので、これぐらいがちょうど良い落としどころだろう。
「悪いね。正々堂々と戦ってる余裕はないんだ」
「フーッ! フーッ!」
激しい憎悪の目でにらんでくる男から手杖を取り上げ、手近な木の上にのせる勇輝。
ここなら縛っているかぎり取り戻せないだろう。
「じゃあね」
男を放置してふたたび目的地を目指す。
「にしても、さっきの罠はなかなかだったなー。
殴り合いしながら足でこう……」
軽くシャドーボクシングをしながら、先ほどの『地面が襲いかかってくる罠』の使いかたを考えている。
「よし、『パックンフロアー』と名付けよう!」
オリジナル魔法の新たな使いかたに目覚めてウキウキしながら、勇輝は目的の物にたどり着く。
ドラム缶サイズの円筒形物質だ。
「とりあえず一個目は壊してみるか……?」
何気なく手で触れてみた瞬間、脳裏に男と女の声が流れてきた。
女のほうは聞きなれた大人の声だった。
「これ、ヴァレリア様の声じゃん!」
この機械の正体は思っていたよりもワンランク上の品。
特定の通信以外をすべて遮断し、それでいて目的の通信はできるという優れものだった。
「じゃあ、相手の方はひょっとして第三騎士団長なのか……?」
思いもよらず、敵味方のトップ対談を聞ける機会を得たようだ。





