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聖女×ロボット×ファンタジー! 死にたくなければモノ作れ、ものづくり魔法が世界をすくう!  作者: 卯月
第二章 お嬢様学校でスローライフ!……できるような性格じゃない

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勇輝、動く

 ドローンを飛ばし外周部の探索をおこなう。

 

 出入口である正門と裏門には、それぞれ百人ほどの騎士と十機の小型騎兵が配置されていた。

 あと外壁の北西部分に閉ざされた小さな鉄扉がある。そこには人間のみ二十人。

 それ以外に正規の出入口はないようだ。

 

 他の部分は高い鉄柵で囲われている。

 梯子はしごでもかければ登ることは可能だが、大軍の移動にはむいていない。

 だが特殊部隊を潜入させることくらいは充分にできるだろう。


 しょせんは学校施設であり、軍事要塞ぐんじようさいとしての機能などありはしない。

 すきだらけである。


 

 結局のところ大きな問題は人質。

 特に外国から留学に来ている貴族令嬢たちの無事をなんとかしなくてはいけない。

 

 ……最悪の場合、ご令嬢たちさえ無事なら、平民は犠牲ぎせいになってもかまわないと。

 そういう非情な決断もありえるかもしれない。





「ヴァレリア様はどう動いてんだろ」


 勇輝はドローンが撮影する画像をながめながら、自分の保護者である軍務省長官の行動に思いをはせていた。

 しかし情報が足りなさすぎて何を考えても妄想もうそうにしかならない。


 まさかこの件がヴァレリアの陰謀いんぼうだという話は無いだろうけど……。


「はあ……」


 勇輝はため息をつきながらテーブルの上に手作りのタブレットを置いた。

 家族を疑わなければならないというのは、苦しいものである。


「ねえ貴女」


 皇女殿下が話しかけてくる。


「なんです?」

「ヴァレリア様というのは、ヴァレリア・ベルモンド枢機卿すうききょう猊下げいかのこと?」

「そうですけど」

 

 こんな状況なのでずっと浮かない顔をしていた殿下であったが、この時ばかりはパアっと表情を明るくした。


「ベルモンド枢機卿は今や全女性のあこがれの御方おかたなのよ。

 女の身で騎士たちをしたがえ、聖女様と力をあわせて世界を救った御方!

 ……あっ」


 マリアテレーズ殿下はそこまで言って複雑そうな表情になる。


「聖女って、貴女のことだったわね」

「……何が言いたいんです」

「きっと、ご苦労なさったのでしょうね」


 うるせえよ。

 と勇輝は思った。

 たしかに昨日は心労でノックアウトさせてしまったけれども。


「本人が聞いたら喜びますよ。

 あっちもあなた方と仲良くなりたがってますから」


「ほんとう?

 ならあとで紹介していただける? 

 きっとよ?」

「はい」


 そもそもが貴族や富豪と仲良くなって寄付金を集めろって話だった。

 ヴァレリアも嫌とは言わないだろう。

 




 まあそれはさておき。

 複数のドローンによる画像を検証した結果、どうもこれが疑わしい、という道具を見つけた。

 正門で待機している騎士たちの横にも、裏門の方にも、そして誰もいない四方の壁際にも、とある不審物が置かれている。

 

 ドラム缶サイズの、銀色に輝く円筒状の物体。


「こんなもの、この学園で見たことがありませんわ」

 

 生徒である皇女殿下からも情報がもらえた。

 どうやらこれが通信妨害に関連した装置。

 通信状態さえ回復すれば、外部と連携れんけいした有効な作戦がたてられる。


「よし、ちょっと行ってきます」


 勇輝が立ち上がったので、マリアテレーズ殿下はあわてた。


「ちょっとどういうこと、貴女もここに居なさい!」


 勇輝は首を横にふる。


「こんなところじゃ何日もいられませんよ。

 こっちから動いて状況を変えていかないと」


 そう言うとあごに手をあて、少し考える。


「あの機械を壊したら、どういう結果であっても一度かならず戻ってきます。

 それでももし、あしたの朝までに俺が帰ってこなかったら、投降してください。

 殺されはしないはずです」


 マリアテレーズ殿下は顔色を変えた。


「貴女、そんなことを言って自分だけ逃げるつもりでしょう!」

「違いますよ」

「ではどういうことなの!」


 勇輝は顔色一つ変えず、戦士にとっては当然の、そして貴婦人にとっては刺激の強い発言をした。


「俺が死ぬかもしれないってことです。

 命がけですから、そういう事もあるんです」

「なっ……」


 皇女殿下は言葉を失った。

 演技ではなく、本当に驚いたようすだった。


 生きる場所が違うのだ。

 だから命にたいする価値観も大きく違う。

 皇女という身分も、さぞかし苦労の多い生き方だろうとは思う。

 だが聖女も、少なくともこの相沢勇輝という聖女の生き方も、皇女とは違う意味で苦労が多い。


 他人のために命をかける。


 そのために勇輝は新しい身体をあたえられたのだ。


「大丈夫、たぶんすぐ戻ってきますよ

 俺の強さは見せたでしょ」


 皇女殿下がそれ以上なにも言わなくなったので、次にメイドさんに話しかける。


「ここの守りは、お願いしてもいいですよね」

「は、はい、まあ」


 メイドさんは困ったような顔で小首をかしげる。


「必要なものはありますか、武器とか、鎧とか、なんだったら機兵だって作りますよ」

「いいえ、いいえ、機兵なんて操れません」


 ついには笑いだしてしまった。

 彼女はジェルマーニア帝国から選ばれ連れてこられた、メイド兼護衛なのだ。

 マリアテレーズ皇女殿下版のクラリーチェといったところであろう。

 そのへんの空気感を、勇輝は先ほどからの会話で感じ取っていた。


「それではせっかくですので小剣を、短剣より少し長いくらいの剣が良いのですが、よろしいでしょうか」

「オッケー」


 勇輝は石壁にズボっと手を突っ込む。

 数秒してから手を引き抜くと、さやにおさまった脇差わきざしを握りしめていた。

 簡単にいうと短い日本刀である。


「俺の生まれた国の武器なんですけど、どうですか」

  

 メイドさんは慎重な手つきで鞘から抜きはなつ。

 やはり刃物のあつかいを熟知している手つきだった。

 標準より短いとはいえ、あつかい方を理解していないとなかなかスラリとは抜けないものだ。


「これは……、異風ですが素晴らしい剣です……!」


 薄暗い地下室に冷たい白刃がきらめく。

 皇女殿下が怖がって身をこわばらせてしまったので、メイドさんは鞘におさめた。

 

「気に入ってもらえたようで良かったです。

 じゃあ、行ってきます」


 勇輝は隠し部屋をあとにした。




 

「さて……」


 勇輝は手作りタブレットを手に、目的地周辺の画像を確認する。

 距離は直線でおよそ百メートル。

 大した距離ではない。

 白い城ヴァイス・シュロスの周辺は木々が配置されているため、そのかげに隠れてすすむ。


 先ほど朝までには帰る、みたいな言いかたをしたが、何事もなければ十分くらいで戻れるだろう。

 そう、何事もなければ。


 目標の円筒形物体が肉眼で見えてきたころだった。


「待ちなさい、そこの君」


 若い男の声が勇輝を呼び止めた。

 

 見つかった!

 勇輝の心臓は恐怖と緊張でギュッと痛くなったが、なんとか平静をたもとうと努力する。


「どうやって抜け出してきたのかな、それとも隠れていたのかな?

 こんな所にいてはいけないよ。

 さあ私と一緒にいこう」


 男はあまり騎士らしくない服装をしていた。

 金属製ではなく、革の鎧を上半身にだけ身につけている。

 その上から深緑色のマント。

 腰におびているのは短剣だけ。

 そのかわり手には木製の手杖ワンドをにぎっている。


「こんな所にいてはいけないの、アンタの方だろ。

 ここは女子校だぜ?」


 言い返した勇輝の態度が気に入らなかったのか、男は手杖ワンドに魔力をこめて勇輝めがけてかざした。


 ブオォォォォッ!

 ベキベキバキィィッ!


 杖から疾風がはなたれ、勇輝のすぐ横にあった木の枝をへし折った。


「ケガはしたくないだろう可愛いお嬢さん。

 大人しくこっちに来るんだ」

「風魔法……か!」


 勇輝は身構えた。

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