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聖女×ロボット×ファンタジー! 死にたくなければモノ作れ、ものづくり魔法が世界をすくう!  作者: 卯月
第二章 お嬢様学校でスローライフ!……できるような性格じゃない

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不安との闘い

 さて敵の襲撃をひとまずかわした勇輝たち。

 いつ敵が引き返してくるかも知れず、ふたつめの隠し部屋に閉じこもっているしかなかった。


 勇輝は偵察用ドローンで情報収集に専念。

 通路に人の気配が来ないかどうかはメイドさんにチェックをお願いすることにした。


「多分ですけど、校内に共犯者がいると思うんですよね」


 ドローンから送られてくる画像をチェックしながら勇輝がぼやく。


「何でもかんでも敵のやることが速すぎるんですよ。

 学校側がなんにも対応できないうちに征圧してしまうなんて、あらかじめ建物の配置を知ったうえで訓練でもしてきたとしか……」


 学園内の主要施設を征圧しきるまでの迅速さ。

 生徒を監禁する場所を一切迷わなかった手際のよさ。

 そしてこの白い城ヴァイス・シュロスの地下室に入る方法を知っていたこと。


 敵のやり口はあまりにも優秀すぎて不自然なのだ。

 学園で生活している誰かが情報を流しているに違いない。

 そのあたりをちゃんと把握はあくしておかないと、ひどいミスにつながる恐れがある。


「そんな、ありえませんわ。

 栄光ある我が校の生徒が、犯罪者に加担かたんするなんて!」


 つい興奮して声を荒げてしまい、あわてて口をつぐむマリアテレーズ殿下。


「そりゃね。

 気持ちはわかりますよ。

 俺だって聖騎士がこんな事してるなんて信じたくない」


 騎士の一人一人が自分をどう思っているかなんて知るよしもないが、少なくとも勇輝は彼らのことを戦友だと思っている。あの地獄のような魔王戦役を共に戦った仲だと。


 その想いと今の状況は、あきらかに正面衝突している。

 心の中でうまく処理できない。軽くないストレスを感じる。

 

 まさか首謀者しゅぼうしゃはヴァレリアやリカルドなのでは……などとも考えてしまう。

 理論的にはあり得ない。


 だったら何も知らない状態の勇輝を送り込むわけがないからだ。


 でも理論的というのなら、そもそも民衆を守るべき聖騎士団がこんな暴挙ぼうきょに出たのも理論的ではないのだ……。


「だから、とにかくたくさんのことを知りたいんですよ。

 知らなきゃどうすりゃいいのか分からない」

 

 ドローンは外を歩かされている女生徒たちの集団を発見した。

 りょうで待機させられていた生徒たちも、礼拝堂に移動させられるらしい。


「この人質たちを何とかしねえと……」


 何とかしたいと心から思うが、しかしそんな方法があるのだろうか。

 戦闘のプロ集団である聖騎士と、暴力的な事にまったく免疫めんえきの無さそうなお嬢様がた。

 どう考えても聖騎士側が有利である。

 うまいこと引きはがす方法なんて無さそうに思えてしまう。





「……そうよ、騎士といえば、あの子に違いないわ」


 マリアテレーズ殿下が共犯者の可能性がある人物に気づいたようだ。


「ダリアよ。

 ダリア・バルバーリ。

 あの子、第三騎士団長の孫娘なの」


「団長の孫、なるほど。

 第三、っていうとあのグスタフとかいう爺さんか」


「……グスターヴォじゃなかったかしら」

「そうですか、じゃあそっちで」


 あいかわらず、勇輝は人の名前をおぼえるのが苦手である。


「貴女も昨日会っているわ。

 緑色の髪をした、軍服のよく似合う子よ」

「ああ、あの」


 国宝ぶっ壊すきっかけになった子である。


「そうですかー、直接話を聞いてみたいですが、今は難しいですよね」

「そうねえ」


 顔を出した瞬間に騎士が駆けつけてくるだろう。

 だが覚えておいて損はない。

 




「あの」


 ずっと直立不動ちょくりつふどうの姿勢で立っていたメイドさんが、おそるおそる口を開いた。

 名前はまだ知らない。

 勇輝はちゃんと彼女のぶんもイスを用意したのだが、彼女はおそれおおいと言ってかたくなに座ろうとしない。


「恐れながら、申し上げたいことが」


「なんです?」


 メイドさんは勇輝ではなく、マリアテレーズ殿下の顔を遠慮がちに見る。

 主君の許可なしに発言はできないらしい。

 

「言ってごらんなさい」


 許可を得て、ようやくメイドさんは自分の意見を語りだした。


「聖女様は外と連絡がつかないのに、その『どろーん』という物は離れていても操ることができています。

 それはなぜでしょうか」


「えっ?」


 言われてみれば確かにおかしい。


「わたくし思いますに、相手の通信妨害というのは『面』ではなく、『線』で行われているのではないでしょうか」

「線?」

「はい」


 彼女はポケットから紙ナプキンを取りだし、ペンで大きな四角を書いた。

 学園の大ざっぱな見取みとである。

 

「相手はおそらく、学園の外壁がいへき近くに術師や魔道具をいくつもいて、内と外を遮断しゃだんする結界を作っているのだと思います」


 四角形の線上にいくつか丸が記入される。


「術師のほうはわかりかねますが、魔道具に関してはさほど大がかりなものは持ち込めていないはずです。

 出力の弱い小型のものを十個、あるいは二十個も設置しているかもしれません」

「は、はあ」


 立て板に水のいきおいでスラスラと意見をのべるメイドさん。

 勇輝は意見をはさむ余地もなく、ただ聞くのみだ。

 いったい何者なのだろうこの人は。


「必然的に一つ一つの場所を厳重に管理するというのは不可能なはずです。

 聖女様の『どろーん』で手薄な場所を見つけ、破壊できれば、外部と接触できるようになるのではありませんでしょうか」


「…………」


 勇輝はポカンと口をあけ、メイドさんの顔を見つめた。


「し、失礼いたしました。差し出がましいことを」

「いやすごい、すごいですよあなた!

 それで行きましょう!」


 思わずはしゃぐ勇輝を、メイドさんはたしなめた。


「お、お静かになさいませ。お声が響いてしまいます」

「おっと」


 あわてて口をふさぐ。

 そして言われた通りドローンを散開させ、外壁部分を探索させる。


 まだなにも解決はしていない。

 今は少しずつ、少しずつ、情報を集めて逆転の糸口いとぐちを探す時だ。

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