探索、ひみつのお部屋
「最優先は皇女を捕らえることだ、最悪の場合それ以外は殺してもかまわん」
騎士の小隊長は部下たちにそう告げる。
特に腕の立つものを五人選抜し、白い城の内部に突入した。
さほど広さのない館内だ。
一階部分はすぐにしらべ終えた。
……誰もいない。
次に一行は階段をのぼって二階部分にむかう。
万が一、一階のどこかに隠れてやり過ごしていたとしても、外へ出れば包囲して待ちかまえている部下たちが捕まえてくれる。
だから突入班は安心して集団行動ができる。
二階も入念にしらべたが、やはり誰もいない。
……となるとやはり、地下のかくし部屋か。
いよいよ本命の探索となり、騎士たちの顔に緊張がはしる。
(いけ)
小隊長が衣装部屋を指さし、無言で部下に命令する。
部下の一人がうなずき、クロゼットのドアの横にはりつく。
無造作にいきなり開けたりはしない。
開けた拍子に例の小娘が襲いかかってくる危険があるからだ。
そおっと、ドアノブに手をかける。
小隊長とアイコンタクトをかわし、上司が身構えながらうなずくのを見てドアを開けた。
……何も起こらなかった。
「よし、邪魔くさい服をどけろ!
気をつけろ、赤眼の小娘が罠をしかけているかもしれん」
五人の部下たちが豪華なドレスの数々を引っぱり出し、遠慮なく床に投げ捨てていく。
この一着一着が、彼らの月収と変わらぬくらいの値段になるだろう。もしかしたら世界一豪華な目くらましかも知れない。
その豪華な目くらましをすべて取り除くと、ガランとしたただの空間となる。
「探せ、地下への入り口が隠されているはずだ」
小隊長をふくめると六人。
全員がいっせいに入るのは無理なので、二人に探させる。
やることが無くなった騎士たちは、床にちらばる数々のドレスに気をとられた。
「しっかし、すごいもんですね。
こんなのを着る貴婦人ってやつはもっとすごいんですかね。
それともドレスで飾らなきゃ案外しょぼいんですかね」
一人の男が気の抜けたような態度でそんなことを言いだした。
「おい、任務中だぞ」
「いいじゃないっすか、ちょっとくらい」
男は言う事を聞かず、ドレスの手触りを楽しんでいる。
「おれ、妹が居るんです。
こんなドレスを、あいつにも着させてやりたかったな」
その言葉を聞いて、周りの者は文句を言えなくなった。
自分たちは大罪人として死をむかえる運命にある。
こうして仲間うちで軽口を言い合うのも、きっと今日明日の間だけだ。
「……逃げたいなら、いいぞ」
ギリギリ聞こえるかどうかという声で、小隊長がつぶやいた。
「よしてくださいよ、ちょっと遊んだだけっす」
男はドレスを手放して、顔をひきしめた。
「ありました!」
クロゼットの中から声が飛んできた。
「ここが引き戸になっているようです!」
「おい待て、うかつに開けるな!」
小隊長の指示を待たず、かくし扉を発見した男はガラッと開けてしまった。
刹那。
ドガアアアアンン!!
強烈な爆発音が、白い城の内外に響き渡った。
ドアを開けた男はショックで気絶している。
音響手榴弾がしかけられていたのだ。
「チッ、馬鹿が!」
小隊長が駆け寄り、倒れた男の状態を確認する。
派手な音が鳴ったわりに外傷はないようだ。
あの赤眼の小娘は好きなように道具を作り出せる。
手加減されたのは明白だ。
「ナメやがって……!」
頭に血がのぼりそうになるのを、辛うじておさえる。
今ので自分たちの接近をさとられてしまった。
「突入するぞ、罠の類に気をつけろ!」
気絶した男を一人の隊員ににまかせて、館から退去させる。
残り四人で地下への階段を下った。
「いないです、ね……」
秘密の地下室は一階よりもさらに狭い個室であった。
小さなテーブルの上に二つ、真新しいティーカップがある。
小隊長は二つのカップに触れた。
「まだ温もりが残っている
ここに居たことは間違いない」
四方を観察すると、北側に金属製のドアがあった。
「これは……、まずいな……」
罠の有無を念入りに確認してから開けると、扉の先は細長い石造りの通路となっていた。
脱出するための通路だ。
こんなものがあるとは聞いていない。
「馬鹿のせいで音を聞かれてしまったな、追いつけるか?」
念のため、通路に入る前に室内をぐるっと見回した。
武骨な石造りの部屋。
隠れる場所はない。
「よし、急ぐぞ」
小隊長が先頭となって、細長い脱出路を進んでいった……。
「ふうーーっ」
勇輝はホッと胸をなでおろした。
そして小声で皇女殿下とメイドさんに話しかける。
「いざとなると緊張しますね」
マリアテレーズ皇女殿下は両手で顔をおおって首を横にふる。
「もうイヤ、どうしてこんな目にあうの……」
三人は、勇輝が追加で作った隠し部屋に隠れていた。
場所は脱出用通路に入ってすぐ、ドアの裏側に位置する部分である。
隠し部屋のさらに隠し部屋。
しかも通路を使って逃げた、早く追わないと。と思わせた上でのひっかけ技である。
こんなの絶対見破れねえよ!
と、作ったその時はそう思ったものの、実際に敵が近づいてくると怖い怖い。
自分の呼吸音ですらうるさく聞こえてしまうほどの、とてつもない緊張感に苦しめられた。
「念には念をいれといて良かったですねー。
ちょっと出入口がテンプレすぎるなって思ったんですよ」
高貴な身分の女性が住む家。
隠し部屋の入り口は衣装部屋の中。
これはさすがにやり方がお約束すぎる。
そこでもう一つ隠し部屋を作っておこうと、地下に入った瞬間に実行したわけだ。
やっておいて正解だった。





