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聖女×ロボット×ファンタジー! 死にたくなければモノ作れ、ものづくり魔法が世界をすくう!  作者: 卯月
第二章 お嬢様学校でスローライフ!……できるような性格じゃない

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白い城(ヴァイス・シュロス)で紅茶をひとつ

 謎の騎士たちから逃げ切った勇輝とマリアテレーズ皇女は、ひとまず皇女が寝泊まりしている専用の館で休憩をとる事にした。

 多少の樹木で目隠しされた白い館は土地面積こそせまいものの、精一杯の高貴さを出そうという努力がそこかしこに垣間かいま見れる。


 今、この館はジェルマーニアのマリアテレーズ皇女殿下が住まいとしている。

 彼女にちなんでジェルマーニアの言葉を使い、現在この館は白い城ヴァイス・シュロスと呼ばれていた。

 時が流れ館の主が別の人物に変われば、また違った名前で呼ばれることになるだろう。


「ああもう本当に、なんというひどい日なのかしら!」


 鳥籠とりかごコプターで飛んでいる時はガタガタふるえていたマリアテレーズ殿下であったが、自分の『領地』に戻ってくると、とたんに態度が大きくなった。


「なんなのあの暴漢たちは!

 いったいわたくしたちの学園をどうするつもりなの!」


 やいやい文句を言いながら、皇女殿下は館内で働いている専属メイドに紅茶を持ってくるよう命じた。


「貴女もお座りなさい!」

 いちおう礼くらいはしますわ!」


 荒っぽい口調で勇輝に着席をうながしてくる。

 ジゼルの話ではここのお茶会に誘われることが非常な名誉ステータスだという話だったが、今日にかぎってはあまりそういう空気でもない。


「はあ、でものんびりしている時間はありませんよ」

「なぜかしら!」

「あなたの言う暴漢たちが、やたら大軍だからです。

 あれは間違いなくごろつきのたぐいじゃない。

 プロの集団だ」


 鳥籠コプターでここまで飛んでくる間、勇輝は上空から学園内の様子をうかがった。

 見えた範囲内でも鎧を着た武装集団が数百人。

 小型の機兵が二、三十体。


 伊達だて酔狂すいきょうで用意できるような数ではなく、民衆を守るはずの聖騎士団が襲いかかってきているように見えた。

 まさかと思いたいが、あの数と装備の質、聖騎士団以外に考えられない。


「こんな目立つ場所にいたんじゃ絶対に追手がきますよ。

 対策をたてないと」

「そ、そんなこと言われたって。

 わたくしはもうどこへも行きたくありませんわ!」


 ヒステリックにわめくお姫様を前に、勇輝はあきれてしまった。


「のん気な人だなあ。連中はあなたをさらおうとしてるんですよ?」

「それは、あ、貴女が撃退すればいいじゃありませんの!」

「……簡単に言ってくれる」


 勇輝の魔力とて無限ではない。

 あんな大人数を撃退するにはそうとうガッツリと罠にはめる必要があり、途方とほうもない神算鬼謀しんさんきぼうが要求される。

 かつておかをまるごと爆弾に変えて悪魔ディアブルを消し飛ばしたことがあるが、敵以外の人間が入り混じっているこの学園内で同じ手は使えない。


 今のところ、画期的なアイデアなんて想像もつかなかった。


 うーんとうなっていると、皇女殿下が勇輝の顔をジーっと見つめてきた。


「貴女って、本当に聖女様ですのね?」

「はあ、そうです」

「あの魔王の夜に天使様を呼んだのは、本当に貴女?」

「そうっすよ?」

 

 皇女殿下はガックリと肩を落とした。


「まさか、こんな方だったなんて……」


 勇輝の功績や外見の美しさだけにとらわれて、勝手な妄想をいだいている人間は多い。

 そして実物を知って、勝手に落胆らくたんするのだ。

 正直もうれっこだが、不愉快ふゆかいなものではある。


 勇輝は聞こえなかったフリをして、自分なりの行動をはじめた。

 着席しているテーブルをコンコン、と二回指でつつく。

 つついたその場から、台座つきの人工水晶玉が現れた。この世界の携帯電話みたいなものである。


 あっ、と驚いているマリアテレーズ殿下を無視して、勇輝はヴァレリアに連絡を取ろうとした。


「………………」

 

 つながらない。

 今度はランベルトにつなごうとする。 

 だが結果は同じ。

 次にクラリーチェに。

 つながらない。

 リカルド隊長に。

 つながらない。

 軍司令部に。

 つながらない。


 どこにもつながらない。


「こいつは……妨害ジャミングされてんのか?」


 勇輝の手作りだからダメ、ということはありえない。

 クリムゾンセラフの内部にはられている水晶スクリーンも同じものである。

 あちらのほうはまったく問題なく軍用機と通信できるのだ。


 だから問題があるとしたら、外部の環境。

 通信妨害をされている可能性がある。


「いよいよまずいな、これは」


 勇輝は水晶玉をテーブルに同化しなおして、今度は鉄板を作り出した。 

 その鉄板に、勇輝はたどたどしい文字で手紙を刻む。


『コウジョ ブジ テキキヘイ 30 クリムゾンセラフ ホシイ ユウキヨリ』 


「よし、これを……」


 勇輝は文章をきざんだ鉄板を今度は紙飛行機の要領ようりょうで折りたたみ、飛行機に仕立てた。

 そしてたっぷり魔力をこめ、窓から飛ばす。


「行けっ、ベルモンド邸だ!」


 高速で飛んでいく紙飛行機ならぬ『鉄』飛行機を、勇輝は祈るような気分で見つめた。

 これすら妨害されてしまうようだと、さすがに手詰まりかも知れない。

 

「さてあとは……」

 

 ぽかんとした顔で勇輝のやることを見ていた皇女殿下に、聞いておかなければいけないことがある。


「ここ、一応お城なんですよね。

 秘密のかくし部屋とか、かくし通路とかあるんじゃないですか」


 マリアテレーズ殿下はハッと顔色を変えた。


「あっ、ありますわ!

 有事にそなえた地下室が!」

「よし、じゃあそっちに移動しましょう

 さっきのメイドさんもいっしょに」


 メイドさんがつかまって拷問ごうもんされたら、隠し部屋の事がバレてしまうかもしれない。

 人数が増えるのは面倒が増えることに直結するが、しかたないことだ。


「あ、一つ良いことを思いついた」


 勇輝はまたもテーブルをつかって道具をポコポコ作り出した。


「ヒッ、な、なにこれは!」


 皇女殿下が悲鳴をあげたそれは、二人をここまで運んできた鳥籠とりかごのヘリコプターに似た道具だった。

 四枚羽根のついた黒い物体は、お姫様にとって気持ち悪く見えたらしい。


「これはドローンっていいます。

 こいつで外の様子を偵察させましょう。

 敵を知り己を知れば百戦危うからず、です」


 コンビニに置いてあった孫子の兵法の言葉を引用して、勇輝はちょっと得意顔。

 兵法書とか引用したくなるお年頃なのである。


 作ったドローンを全部外に飛ばしたあたりで、メイドさんがティーセットの乗ったワゴンを持って来てくれた。

 せっかく作ってくれたものを手つかずにするのは申し訳ないので、地下のかくし部屋に持っていって飲むことにする。


 地下への階段は一階の衣装部屋ウォークインクロゼットの奥にかくされていた。

 薄暗いクロゼットの側面に小さなひっかかりがあって、そこを横にひくと秘密の入り口がでてくるのだ。

 三人が地下にもぐり、入り口を閉めてしまうと館はすっかり静寂せいじゃくにつつまれた。

 





 さてその館、白い城ヴァイス・シュロスに二十人ほどの騎士たちがせまっていた。


「あれが白い城ヴァイス・シュロスか。

 お姫様はいいところに住んでやがるな」


 男たちはまず館を包囲する者と、突入する者たちの二手ふたてに分かれる。

 

「分かっているな、この館には地下の隠し部屋がある。

 入り口は衣装部屋ウォークインクロゼットの奥だ」


 緑髪の少女ダリアの密告によって、隠し部屋の存在はすでに露見ろけんしていたのだ。

 男たちの魔の手が、聖女と皇女の身にせまっていた。

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