暴れ出す正義の心
「動くな!
動くとケガするぞ!」
下級騎士は声と刃物で脅かしながら間合いを詰めてくる。
問答無用とか言っていたが、命までとる気はないようだ。
なら、こちらも手加減しないといけない。
勇輝はちょうど良いくらいの攻撃手段を考えて数秒。
足元に魔力を流して地面を変化させた。
ゴゴゴゴ……!
小さな地響きが周囲を振動させる。
地面から等身大の鉄球があらわれた。
「そら、こいつをくれてやる!」
勇輝はその鉄球を男にむかって押した。
ゴロ、ゴロ、ゴロ、ゴロ……。
「当たるかそんなもの!」
ゆっくりとせまる鉄球を、男は当然のように横へ跳躍して、最小限の動きでかわす。
直後、鉄球の側面から何かが飛び出して男を捕らえた!
「うおおっ!?」
鎖でできた投網だった。
網はまるで生き物のようにうごめき、彼の肉体に、剣に、鎧にからみつく。
男は動けなくなった。
「二段仕掛けとは思わなかったろ?」
勇輝は勝ち誇り、そしてかたわらの鉄球を今度は集団の方へと転がした。
ゴロ、ゴロ、ゴロ、ゴロ……。
「ち、近づくな、間合いを取れ!」
隊長格の男が叫ぶと、鳥籠によって守られていた皇女殿下のまわりから、一斉に男たちが離れる。
勇輝は鉄球を盾にして走り、その鳥籠までたどりつく。
グニャリ、と鳥籠の一部がひらいて勇輝を中に招き入れた。
中にいるマリアテレーズ殿下に軽くあいさつ。
「おじゃまします」
「え、ええ……!?」
殿下は目まぐるしい展開にとてもついていけない様子だ。
へたに騒がないでいてくれるのは非常に助かる。
「おい、うまく身を守ったつもりかもしれんが逃げられんぞ!」
男たちは素早く、しかし用心深く遠巻きに勇輝たちのいる鳥籠を包囲した。
だが勇輝は不敵に笑う。
「そうでもない」
足からさらに魔力を流し、勇輝は鳥籠を変形させる。
「お前ら、生で見るのは初めてだろう。
聖女の魔法は、面白いんだぜ!」
鳥籠の天辺から、前後左右、四枚の羽根がはえた。
そして勇輝たちの背中側にも風車のような部品が追加される。
「すげえだろ、ヘリコプターっていうんだ!」
羽根が高速で回転をはじめる。
これが何かわからぬ男たちは、次なる攻撃の前触れだと考えてしまった。
「クッ、総員油断するな!」
周囲の男たちはいつ何が飛んできてもいいよう、つま先に重心をおいた防御姿勢で戦況を見守る。
この時、何も考えずに飛びかかって押さえつけていれば、次に発生する事態はふせげた。
しかしそれを要求するのは結果論にすぎるだろう。
聖女が作り出した「へりこぷたー」とかいう珍妙な物体は、男たちの予想をはるかに超える動きを見せた。
かなりの強風と轟音をまき散らしながら、二人の美女をのせた鳥籠が空中に浮かび上がる。
男たちは目を丸くして言葉を失った。
「わあー浮いた浮いた、ちゃんと浮いたよ!」
「ちゃんとってどういう意味!?」
皇女殿下がツッコミを入れる。
まあ高貴な身のお方がツッコミなんて言葉は知らないだろうけども。
「これ、生まれて初めて作ったもんで」
ケロッとした顔でそんなことを言われて、殿下の顔からサーっと血の気が失せた。
鳥籠コプターは、すでに落ちたら死ぬ高さまで上昇している。
「イ、イヤーッ!
今すぐここから出して!
誰か助けてーっ!」
「アハハ、そんな大げさな。
大丈夫ですよ、セラだってよく分かんないけど空飛ぶし」
「イヤー!」
奇妙奇天烈な物体にのせられて、さらわれていく皇女。
男たちは走って追おうとしたが空と陸で追いかけっこは無理がある。
一分もしないうちに姿を見失ってしまった。
「姿を見失っただと、この馬鹿者が!」
老人は部下の失態を容赦なく罵った。
「赤眼の小娘が皇女のそばにいただと……?
なぜだ、ことが露見していたにしても行動に一貫性がない」
イライラしながらつぶやいているのは、神聖騎士団第三軍騎士団長、グスターヴォ・バルバーリである。
騎士団長が居るのは学園の学長室。
彼はいま、第三騎士団の兵力をもってこの「聖エウフェーミア女学園」を武力占拠したところであった。
兵数500。
機兵30。
それらの戦力をもって、有名貴族や豪商たちのご令嬢たちを拘束、監禁し終えたところであった。
いや正確にはまだ終えていない。
よりにもよって一番身分の高いジェルマーニア帝国の皇女、マリアテレーズを捕らえそこなっているからだ。
今、寮住まいの子女たちは部屋から出ることを固く禁じ、外部から通学している生徒はすべて礼拝堂に閉じ込めている。
現役バリバリの実戦部隊によるこの信じがたい暴挙。
どう取り繕っても言い逃れようのない武力テロ行為である。
テロリズムとは暴力や恐怖によって政治活動をおこなうことだ。
別に高貴な家柄の女たちが欲しいからこんな行為におよんだのではない。
彼らはもっと政治的な決断を政庁にせまるため、こんなことを始めたのだ。
その目的とは先日ヴァレリアに提出して却下された、世界各地の悪魔を討伐するための大遠征計画を実現させること。
こんな大罪を犯した以上、自分たちは遠征どころか聖都から出られず死刑になるだろう。
それでも良い、と彼らは考えている。
世界平和のためならば命も惜しくないと、そこまで思い詰めているのだ。
「お爺さま」
緑色の髪をした男装の美少女が、グスターヴォ団長をそう呼んだ。
「おおダリア、どうした」
朝から晩まで厳めしい顔をしている老将がわずかに顔をほころばせる。
騎士道一筋数十年の老将でも、さすがに孫娘は可愛いらしい。
しかしその孫娘が重大な情報を伝えてくれたので、老将はやはり厳しい顔になった。
「マリアテレーズ様の居所に心当たりがあります」
「まことか!」
「はい、しかし……」
ダリアと呼ばれた少女は、不安そうに祖父を見上げる。
「本当に、みなさんには危害を加えないと約束してくれるのですね?」
「ああ、もちろんだ。
神に誓ってこれ以上のことはせぬ」
ダリアはうなずき、マリアテレーズが隠れていると予想される場所を教えた。
「すまぬな。
おまえも生徒たちの中に戻りなさい。
これ以上わしらのそばにいると、おまえにも後で害がおよぶ」
「いいえ、私も最後までお供します」
「ダリア!」
祖父は叱ったが、孫娘はまっすぐ祖父の目を見つめ、そらさなかった。
「私も騎士の娘。
平和のためにこの身をささげる覚悟はできております。
お爺さまと、今は亡きお父さまと共に、私も戦いたいのです」
濁りのない澄んだ瞳で乙女は決意をのべる。
いま第三騎士団がやっていることは、まぎれもなく重大な犯罪行為である。
だがそれでも、彼らは彼らなりの正義の心に従って行動していた。





