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聖女×ロボット×ファンタジー! 死にたくなければモノ作れ、ものづくり魔法が世界をすくう!  作者: 卯月
第二章 お嬢様学校でスローライフ!……できるような性格じゃない

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緑髪の女騎士

 入学手続きは小一時間ほどで終わり、勇輝は宣言せんげん通り学園内の壊れた箇所かしょを直してまわった。

 さすがに老人の体力でこれ以上歩き回るのは無理なので女の職員さんに案内してもらう。

 勇輝が倒れた柱を立て直したり、砕けた石像を元通りにするのを見て、職員さんも感激してくれた。


 そんなこんなで予定以上に時間を使い、じゃあ家に帰ろうかという話になったのはやや日がかたむきかけたころだった。


「ユウキ様、最後にお祈りしていきましょう!

 それがここのお約束事なんです!」


 ジゼルが満面の笑みを浮かべて言う。

 というかテンション上がりすぎて叫ぶというレベル。


「お祈り? マリア像でもあんの?」

「マリアって?」

「ああいや、それ地球での話だった」

「もう、決まっているじゃありませんか~!

 エウフェーミア様の像ですよ!」


「……は?」


「この学園のシンボル、そしてこのラツィオの国宝!

『平和を祈る聖エウフェーミア立像りつぞう』ですってば!」

「お、おい!」


 ジゼルは勇輝の手を引いて、早足でズンズン進む。

 彼女はハイテンションであったが、勇輝はあからさまなローテンションになった。



(祈る?

 エウフェーミアに?

 何を?

 後輩に力の差を見せつけてニヤニヤ笑ってるような女に、何を祈るって?

 マルツォを壊したことでも懺悔ざんげしようか。

 でももう謝らなくていいって言われてるしなあ)


 つらつらそんなことを考えながら歩き進んでいくうちに、周囲に十代の少女たちが増えてくる。

 それぞれ華美なドレスや女性用スーツなど、高級そうな服装をしている。アクセサリーの細工も見事なものばかり。

 学校指定の学制服などは無いようだ。


(こりゃあ、貧乏人は参加できねえな)

 

 誰もかれもが競うようにおのれ着飾きかざっている。

 これは生まれた家の財力や権勢を誇示こじしているようなもので、自然と身分差のフィルターにかけられているような圧迫プレッシャーを感じる。


 ちなみに勇輝が来ているものはジゼルやクラリーチェが選んだ市販の婦人服である。

 街中まちなかで売っている物の中ではそれなりの高級品だ。

 しかし特注品オーダーメイドのドレスを着ているお嬢様たちの中では、ものすごくおとって見えてしまう。



(ベアータ、お前はこういう光景が許せなかったのか?)



 貧困がゆえにカルト宗教にはまってしまった殺人集団と殺し合いになった時のことを思い出す。

 ここのお嬢様たちが着ているドレス一着で何人分のパンが買えるのだろう。

 しかし彼女たちがドレスを買わなくなったら、服屋さんが倒産することになってしまう。

 複雑な心境だ。


「さあ、ユウキ様!」

「うん」


 けっきょくいのる内容も何も決まらないまま、勇輝は国宝の像とやらの前に立たされた。

 

 ……しかし。


「はあ……?」


 居並ぶお嬢様たちが祈ったり、あるいは跪礼きれいをして去っていく中、勇輝は腕を組み、あきれ顔でその像を見つめていた。


 顔が全然エウフェーミアに似ていない。

 頭からフードのようなものをかぶっているのだが、その隙間すきまからのぞく髪の毛はウェーブがかかっている。毛質がちがう。

 これ、完全に別人だ。


「居なくなってから想像で作ったヤツかあ……」


 これはまったく祈る価値はない。

 勇輝はそう判断してしまった。


 まあイワシの頭も信心という言葉が日本にはあった。

 こんな像でも信仰の対象となれば人々の愛や正義を生みだす力となる。

 それはいつか昇華して天使へと変化し、世界を守る力になるのだ。


「けど、俺はいいや……」


 ほとけさまを知っているのに、わざわざイワシをおがむことはない。

 しらけ切った顔で石像をながめていると、横から見知らぬ女生徒がキツイ声色で話しかけてきた。


「そこの貴女、さっきからあんまりな口のききかたではないですか!?」

「え?」


 緑色の髪の毛をのばした、男装の麗人であった。

 軍服のようなデザインだがクラリーチェが着ているような聖騎士のものとは違う。

 これも特注品オーダーメイドの一点ものだ。


「聞いているのですか!」

「え、うん、聞いてるけど、なに?」


 勇輝のとぼけた態度に、麗人はさらにヒートアップ。


「あなた聖女様の像に向かって、さんざん悪口を言っていたでしょう!」

「いや別に」

「嘘おっしゃい、聞いていたんですよ!

 俺はいいやとか、ブツブツ文句を言っていたのを!」

「ああ……」


 参ったな。という顔で勇輝は返答をためらった。

 彼女の感情をなだめながら自分の意志を伝える方法がわからない。


 仕方がない。ストレートに言ってしまおう。

 勇輝は決断した。


「だって全然似てねえんだもの」

「なにがです」

「顔、エウフェーミアはこんな顔してないんだよ」

「はあっ!?」


 いよいよ彼女は顔を真っ赤にして激怒してしまう。

 緑色の髪と真っ赤な顔のコラボ。

 なんだかトマトを連想してしまう。


「い、言うに事欠ことかいて顔が違う!?

 いったいいつの時代の御方おかただと思ってるんです!

 じゃあどんな顔してるって言うんですか!?」


 勇輝は自分の顔を指さした。


「こんな顔」


 男装の彼女と、まわりでこのさわぎを傍観ぼうかんしていたお嬢様がたは、あらためて勇輝の顔を凝視ぎょうしした。


 ガサツな態度と表情で気づかなかったが、とてつもないレベルの美少女である。

 そして何より、ルビーのような紅い瞳。


「ヒッ!」


 ギャラリーの誰かが悲鳴をあげた。


「せ、聖女様!

 紅瞳の聖女様、ほ、本物よ!」


 遠巻きに騒動を見ているだけだった周囲の人たちが、一斉に騒ぎ出した。

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