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聖女×ロボット×ファンタジー! 死にたくなければモノ作れ、ものづくり魔法が世界をすくう!  作者: 卯月
第二章 お嬢様学校でスローライフ!……できるような性格じゃない

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入学手続き、ほんのり奇跡を添えて

 そんなこんながあって時は流れ、入学手続きをする日がやって来る。

 ヴァレリアは多忙のため一緒には来れないとのことで、OGであるジゼルが同伴することになった。

 今日の彼女はメイド服ではなく、いつぞやのスーツ姿である。


 クリムゾンセラフで家から学校までひとっ飛び……というのは止められてしまう。

 お嬢様学校に兵器の持ち込みは似合わないという理由だった。


 セラは勇輝と離れることを子犬のようにさみしがったが、こればっかりは仕方ない。


 勇輝とジゼルはベルモンド家の馬車で学園に向かう。

 一時間ほどで広い敷地しきち外周がいしゅうまでたどり着いた。


「ほぉん、こういうスタイルか……」


 鉄柵でかこわれた先には緑豊かな庭園が広がっている。

 そのむこうに瀟洒しょうしゃな白い建物がならぶ。あれが学舎だろうか。


「ずいぶん豪華そうだねえ」

 

 勇輝はボンヤリとつぶやいた。

 こんなところに通うのだという実感がいま一つわかないでいる。


「反対側にはお貴族様用のお城もあるんですよ~!」

 

 ジゼルがのほほんと、しかしとんでもないことを言った。


「城!?」


「はい~。

 あ、お城っていっても、お城みたいな形をした一軒家なんですけどね。

 外国からいらしたお姫様に住んでいただくための、小さなお城が用意されているんです。

 お姫様のお茶会に招待されるのが一般生徒たちの夢なんですよ~!」


 うっとりと夢みる乙女状態のジゼル。

 言ってみれば学生寮がくせいりょうの一種だが、たった一人か二人のために小城を用意するとは、気の使いかたが尋常じんじょうでない。


「貴族相手ってのは、そこまでやらないといけないのかねえ……?」


 勇輝の脳裏に浮かぶのはい〇す〇やが描いたお姫様の絵。

 ドレスを着て頭にかんむりをつけた、金髪縦ロールのいかにもなお姫様イメージ。

 笑い方は「オ~ッホッホッホッホ!」だ。


「そんなのと仲良くなれっかなあ?」

「ユウキ様なら大丈夫ですってば!」


 勇輝がヴァレリアからたくされた任務ミッションとは、この学園にかよう王侯貴族や豪商のご令嬢たちと親密になることである。

 ご令嬢と仲良くなればその親の印象も良くなる。

 印象が良くなれば財布のひももゆるくなって、教会は寄付金をもらいやすくなる……という話だった。


 まあ言わんとすることは理解できる。

 実現可能かどうかは別として。


「ユウキ様はすっごい人気者なんですから、ぜったいうまくいきますよ~!」

「うん、まあやってみる」


 会話をしているうちに、正門前まで着いた。

 乙女たちがつどう学園の門。

「聖エウフェーミア女学園」の入り口だ。


「さあ行きましょう~!

 久しぶりのエウ学です~!」

「エウ学ね……」


 二人は警備員に守られた大きなアーチをくぐった。





「ようこそお越しくださいました聖女様」

 

 ヴァレリアの友人だというエウ学の学長は、黒い僧服を身にまとった老婦人だった。

 

「さあどうぞこちらへ。

 学園を案内させていただきます」

「きょ、恐縮です」


 老齢の学長みずからの学校案内。

 最上級のあつかいである。


「わが校は三百年の歴史がある聖都でも屈指くっしまなでございます」

「三百、それはすごいですね!」


 気品と華やかさをかね備えた白亜の廊下ろうかを進む三人。

 今は授業中なのだろう。

 シンと静まりかえった廊下には、他の人影はない。


「おかげさまで、今でもこうして学問にはげんでいられます」


 学長は聖都を救ったことについて礼をのべた。

 なるほど、勇輝が魔王を浄化しなければ、この学校も無くなっていたわけだ。

 三百年も存在しているとなれば、もはや建物そのものも文化財だろう。


「あーいや、そんなにほめられると照れちゃいますよ、へへ」


 勇輝は庶民まる出しの態度で恥じらい、頭をかいた。

 こんな立派な学校に通うのだから、これからはマナーも上流階級のものを身につけなければいけないだろう。

 そういう部分は今後の課題だ。


「それにしてもホントきれいな学校ですね……あっ」


 キョロキョロ周囲をながめながら歩いていると、大きな亀裂きれつの入っているかべに出くわした。

 人が近づかぬようフェンスでふさがれており、『立ち入り禁止』の立て看板もある。


「工事中ですか」

「これはお見苦しいところを。

 はい、これはあの夜の地震で……」


 魔王ディアボロスが飛び出してきた時の大地震が原因だ。

 建物そのものが倒壊とうかいすることは無かったようだが、さすがにひび割れくらいは発生してしまったようだ。


「魔王がやったってんなら、これも俺の仕事ですね」

「えっ」


 勇輝は何でもないことのようにつぶやくと、フェンスをヒョイと飛び越えてしまう。


「あ、危のうございますよ」

「へーきですって」


 勇輝はひび割れた壁を指で突いた。


 その瞬間、壁の亀裂は消滅し、元通りに修復されていた。


 ハッ、と学長は息をのんで驚愕きょうがくした。

 地味なようだが、これも一つの奇跡である。

 これほど早く、これほど完璧に修復できる者は他にはいない。


「さすがユウキ様~!」

 慣れっこのジゼルは今さら驚かない。


「もしかして、他にも壊れたところとかあります?」

「……は、はい。欠けたり倒れたりしてしまった場所はいくつか」

「ならそこも直しちゃいましょ、大事な場所ですもんね」


 あまりにも簡単そうに言う紅瞳の聖女をたりにして、学長は天をあおいだ。


「ああ、今日はなんという日でしょう!

 人生二度目の天使様に出会えるなんて!」


(天使って、んな大げさな。

 いやこっち世界の天使なら大げさでもないのか?

 天使と俺、構造的には似たようなもんだしな)


 勇輝は心の中でそんな事を思った。

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