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聖女×ロボット×ファンタジー! 死にたくなければモノ作れ、ものづくり魔法が世界をすくう!  作者: 卯月
第二章 お嬢様学校でスローライフ!……できるような性格じゃない

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命の代償、そして新展開

 リカルド隊長はさっそく仕事にとりかかるために退出した。

 室内には同じ屋根の下で暮らす三人だけが残る。


 黙っていたランベルトが口を開いた。


「それにしてもまたお金の問題ですね、ヴァレリア様」


 肩を落とすランベルトをみて、ヴァレリアも苦笑する。


「こればっかりは仕方がありませんね」


 義親子がいわくありげに落胆らくたんしているので、内情を知らぬ勇輝は首をひねった。


「そんなにいつもいつも金が無いんですか?

 そういのって税金でやっているんでしょ?」


 ヴァレリアが質問に答える。


「ええ確かに。

 ただ、なんといいますか、さけられない出費があまりに高すぎるせいで自由になるお金がとても少なくて、困ってしまっているのです」

「出費?」


 はい。と残念そうにうなずくヴァレリア。

 こんなに憂鬱ゆううつそうな顔を見せるのは、初めてのことかもしれない。


「現在、国費の二割がこの軍務省に割り当てられています」


 かなり高い割合だ。地球に住んでいた頃なら軍事国家と呼ばれるレベル。

 だが、続く説明が衝撃的だった。


「……そのうち三分の二が、戦死者遺族に与えられる年金として渡されています」

 

「…………は?

 さんぶんのに、って……?」


 勇輝はざっと暗算した。


 二割は0.2。

 三分の二は0.6666666……。

 お互いをかけると0.133333333……。


「国家予算の十三パーセント!?

 ンな大金が死人のために消えてるってんですか!?」


 ヴァレリアは乾いた笑みを浮かべた。


「計算が早いですね」

「いやいやいや、ンなこと言ってる場合じゃ!」


 ひどい、ひどすぎる。

 国家予算のニ十パーセントなんていう高額をもらっておいて、実際に使えるのは半分以下の七パーセント。

 それじゃあ今回のように急な出費が発生したとき、金庫が空になるのも当然だ。


「あの、その遺族年金って、減額するわけには……?」

「クスッ」


 ヴァレリアは笑った。

 勇輝はさっしの悪い性格をしているが、その異様な笑顔をみて目の前の貴婦人が何を言いたいか察した。心の声が聞こえた。


――それができるくらいなら、わたくしはこんなに苦労していませんよ……!


 あっ、これ地雷になる話題だと、勇輝は気づいた。


 ランベルトが横から口をはさむ。


「命の価値を値切るような組織では、忠誠を得ることはできないだろう。

 上の世代がどうあつかわれているかを見て、次の世代は自分の将来を予想するわけだから」

「う、うん、なるほど!」


「ヴァレリア様は、本当は内政のほうでご活躍することを望まれていたんだよ。

 私がベルモンド家に引き取られたばかりのころ、猊下はずっと財務、つまり金銭管理の勉強をなさっておられた」

「ああ、そうだったんですねー!」


「だけれどなかなか身分ポストに空きができなくってね。

 五年ほど前、先代の軍務省長官様が天に召されたとき、財務に明るいヴァレリア様が適任として選ばれたんだ!」

「わあ、すごいやあ!」


 ランベルトはいつも以上に饒舌じょうぜつで、勇輝の受け答えはしらじらしい。

 二人とも地雷となる話題から逃げたいのだ。


「先代の長官てどんな人だったの?」

「ああ、非常に勇敢ゆうかんで、みずから甲冑かっちゅうを着て騎士たちを鼓舞する、立派な御方おかただったよ。

 名前はカルロ・アレッシィ枢機卿といったかな」


「そのアレッシィ長官が、軍の財務状況を悪化させたのですよ」


 二人の会話をだまって聞いていたヴァレリアが、話を元に戻してきた。


 勇輝たちは地雷原から逃げようとした。

 だがお金の話ラスボスからは逃げられない!


 ヴァレリアは右手の人指し指をクルっと回転させた。

 すると壁際にあった書棚しょだなから厚紙で出来た箱が飛び出してくる。

 箱はゆっくりと宙を飛び、勇輝の両手におさまった。


「これは……?」

「アレッシィ枢機卿の肖像画です」


 長官室にもともと飾られていた物を、目障めざわりだからという理由で片づけていたのだ。

 

「へ、へえ」


 開けてみると、中には小さめの絵画がおさまっていた。

 銀色に輝く鎧をみにつけた、達磨ダルマみたいなギョロ眼ハゲ頭の老人。

 杖がわりに大剣グレートソードを右手に握り、大地に突き刺している。


「おお……!?」


 美男ではない。

 だがちょっと男心をくすぐる、カッコイイと思わせる雄姿だった。

 全身からみなぎる気迫。武人の気配。

 聖職者というよりベテランの騎士そのものに見える。


「当時は『聖書よりも剣を持つほうがにあう男性』と評価されていた人物です」

「へえー、なるほどねー!」


 こういう人が陣頭に立ってはげませば、たしかに騎士たちもやる気が出るだろう。

 勇輝の脳裏にイメージ映像が浮かんだ。




 広場に整列する騎士たち。

 壇上だんじょうで演説するのは、鎧をきたいかめしい聖職者。

 彼、カルロ・アレッシィ枢機卿が大きなギョロ眼に炎を燃やして、騎士たちに叫ぶ。


『勇敢なる聖騎士たちよ!

 邪悪なる悪魔ディアブルたちに今こそ正義の鉄槌てっついを下すのだ!

 死を恐れてはならぬ、なんじらが向かう先は、永遠の楽土らくどであるぞ!』


『オオ―ッ!!』


『いざ突き進め、勇者たちよ!』


『オオ―ッ!!』


 ……こんな感じか?



 

 妄想にふける勇輝に、ヴァレリアは話を続ける。


「彼の指導によって、聖騎士団は見違えるほど強くなりました。

 文字通もじどおり本当に命をしまず戦うように成長したのです」

「すごいですね」


 おそらく軍人の教育指導としては最高に近いのではないか。

 命がけで頑張る、などと言う人はいくらでもいるが、本当に死ぬまでやり通す人なんてほとんどいない。

 しかしアレッシィ枢機卿がきたえた聖騎士団は、本当に死ぬまで戦うようになったのだ。

 こういう軍は強い。

 逆境にもくっせず、敵の大軍にも逃げずに立ち向かう。


「反面、死傷者の数は激増し、未亡人や父親のいない子供たちがたくさんいるようになってしまったのですよ」

「あっ、そこに戻ってくるんですね……」


 国庫を圧迫する莫大な額の遺族年金の正体。

 軍の長官みずからが戦って死ねと言い続けていた以上、のこされた人々に約束通りの金を支払い続けるのは当然のことだ。


 もし年金の額を減らすとか、いっそのこと打ち切るなどの決定をしてしまったとしたら、周囲の人間たちはどう思うか?

 そんな人でなし連中のために命をけるなんて嫌に決まっている。

 聖騎士たちはあっという間に仕事する気を無くしてしまう事だろう。


「もしかして終ってませんか、状況」


 勇輝の若者らしい短絡的な解釈かいしゃくに、ヴァレリアは首をふる。


「いいえ、あきらめる段階にはありませんよ。

 ようは戦死者を減らせばよいのです。

 そうすれば五十年ほどの年月で財務状況は改善されます」

「ごじゅ……っ!」


 遺族がいなくなれば、遺族年金は支払わずにすむ。

 なるほど、道理ではある。

 悪魔ディアブルとの戦争そのものは無くならないのだから戦死者遺族がゼロになることは無いと思うが、減らすことによって負担を軽くすることはできる。

 なるほどなるほど。

 しかしあまりに気の長い話だ……。


「そういう意味でも、今、悪魔ディアブル討伐の大遠征などできないのですよ」

「あーはい、そうですね……」


 地理もよく分からない外国で戦い続けるなど、無謀むぼうきわみだ。

 いったい何人の死者が出るか予想もできず、それらの遺族に払う金は無い。

 いかに平和のためとはいえ、無茶をして国が破滅したのでは何にもならない。


「グスターヴォ騎士団長は」


 ヴァレリアの話はこの大遠征計画を持ってきた人物のことにうつった。


「あの方は、アレッシィ前長官の片腕と呼ばれていた人です」

「ああ時代の流れ的に、そうなりますよね」


 同じ世代の、しかも同じような強面こわもて同士、気が合う戦友であっただろう。


「彼も色々と思うところがあるのでしょうけれど」

 ヴァレリアはそこで言葉を切った。


 時代は変わったのだ。

 ただ戦場をかけて悪魔を倒す。それだけではやっていけない時代になったのだ。

 その時代の流れに合わせられないなら、歳も歳なのだから引退するべきだろう。


 ……そんな風にキレイサッパリ気持ちを割り切れるなら、人はもっと苦しまずに生きられるのだが。




「いけませんね、暗い話ばかりになってしまいました」


 ヴァレリアは手をポンとたたいた。


「ユウキ、あなたに一つ提案があります」

「なんでしょう?」


 執務机から薄い冊子さっしを取り出す彼女。


「あなたのご活躍によっては、聖都の財政赤字が改善されるかもしれません」

「本当ですか! 何でもしますよ!」


 乗り気の勇輝をみて、ヴァレリアはニコリと笑った。


「あなたがこの世界に来てからもう数か月です。

 こちらの文字を読み書きできるようにもなってきたようですし、そろそろ学校に通ってみる気はありませんか」

「学校?」

「はい、昔からの友人がこの学校の学長をつとめているのですが、今回あなたを誘ってくださったのですよ」


 薄い冊子は、学校案内のパンフレットだった。

 学校の名は『聖エウフェーミア女学園』


「え、エウフェーミア!?」

 

 こんなところで知人の名が出てくるとは思いもよらず、勇輝は大声を出した

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