手作りハーレムエンド
『諸君、まずはいつもの通りにいこう。
ジェンナが先頭、フェブとジュノが続くんだ。
本日は大事な観客がいることを忘れてはいかんぞ』
第七天使『ユリウス』が気取った態度で指示を下す。
『さあショータイムだ!
我らがエフィのために!』
『我らがエフィのために!』
全員が一斉にエウフェーミアの愛称を叫び、世界最高の戦士たちはそれぞれのグループに分かれて散開する。
「お、俺はどうすれば?」
どうしていいかわからず、オロオロするクリムゾンセラフと相沢勇輝。
『君はエフィのそばを離れてはいけない』
ユリウスが強すぎず、弱すぎず、そして反論を許さぬという口調で勇輝にも指示を出してきた。
『いざというとき、エフィの盾となるのが君の役目だ』
「り、了解!」
不思議なものでオロオロしていた精神が役割を与えられたとたんに、ストンと気持ちが落ち着いた。
ほぼ補欠あつかいだが、それでもやるべきことが与えられると、それに集中できる。
「まったくユリウスったら。
ごめんなさいねユウキ」
隣に立っていたエウフェーミアが、ユリウスのフォローを口にした。
勇輝にとっては悪くない気分だったが、彼女にとっては厳しいもの言いだったようだ。
「あの子は人一倍キッチリしていないと気がすまない子だから……」
「うん、気にしてないよ。あれでいいと思う」
どうやらあの赤い機体、『ユリウス』が指揮官らしい。
仲間たちに次々と指示を飛ばしているが、腕を組んだまま本人は動こうとしない。
「大丈夫よ。これまでずっと続けてきた相手だから。
今日もおかしなことはおこったりしないわ」
エウフェーミアの横顔は確信にみちている。
仲間の勝利を信じているのだ。
最前線では、悪竜と天使たちの激突が始まろうとしていた。
悪竜の首が数体群れをなして、大きく口を開く。
口の奥が禍々(まがまが)しく光り出した。
竜の吐息だ!
『何度来たって無駄だ!
お前にエフィを傷つけさせない!』
最前線の機体、第一天使『ジェンナイオ』が目の前に巨大な障壁を発生させた。
直後、障壁と竜の吐息が衝突する!
「うわーっ!」
ものすごい閃光に、勇輝は目がくらむ。
しかし宇宙空間には空気がないので、無音。
まともにくらえばどんな機兵でも破壊、あるいはもしかしたら跡形もなく蒸発してしまうかもしれない超威力を予感させる破壊光線なのに、何の音もしない。
地球という惑星のなかに生まれた身としては、ひどく異様な出来事だった。
『無駄だッ!
俺は聖女の盾、誰も傷つけさせない!』
まるで人間の勇者みたいなことを言っている、第一天使『ジェンナイオ』。
通称ジェンナ。
彼の能力は《絶対不可侵の障壁》。
「すげえ、今のが無傷かよ……」
ジェンナの障壁を前面に押し立てて、他の天使たちが側面から魔法でダメージを与えていく。
それで決着がつくほど弱い敵ではないが、それでも明らかに戦況は優勢をたもっている。
「さすが……、って言えばさすがだけど……」
勇輝は十二天使たちの強さに圧倒されつつも、なんとも言えない違和感を味わわされていた。
なにが気になるかというと、彼らがいちいち口にするセリフである。
もしかして喋りながらでないと行動できないのか?
お前らはスパ〇ボのユニットか?
ってほどうるさい。
それが謎の魔法理論による謎の魔法通信でエンドレス配信されてくるわけだ。
一切ショートカットできない長ったらしい戦闘シーン。
……しんどい。
『この身は、聖女の剣…………』
『エフィ! 頭を一個落としたわ! ホメてホメて!』
『俺は聖女の盾だーッ!』
『聖女の光……エフィの愛……光よあれ、滅びよ邪悪よ!』
『わたくしたちの絆、エフィとの絆、だれにも断ち切れない!』
『諸君、少々はりきりすぎだぞ、エフィの負担になっている』
『オレ、ガンバル、えふぃダイスキ……!』
『聖女の盾はァ、誰にもォ、砕けないッ!!』
『愛するみんなに、聖女のご加護を……!』
『エフィ! 俺は、絶対にお前を、守りぬいて見せる!』
いちいちうるせえよお前ら!
特に盾! 頑丈なのは分かったから静かに守れ!
どいつもこいつも聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ……。
聞いてるこっちは気が狂うわ!!
お前ら頭の中エウフェーミアのことしかねえのかよ!
勇輝はストレスで暴れそうになる。
なんかわかった。
何となくわかった。
十二天使から匂ってくる違和感の正体。
「ねえエウフェーミア」
「なあに?」
「エウフェーミアってさ、乙女ゲームとか好きでしょ?」
「なあにそれ?」
この元祖聖女、天然のヒロイン主義者なのだ。
十二天使に搭載されている人工知能のすべてが、エウフェーミア中心に物事を考えるようにできている。
男性タイプの機体でも、女性タイプの機体でも、一番大切なのはエウフェーミア。
戦う理由もエウフェーミアのため。
存在理由もエウフェーミアのため。
まるで乙女ゲームのハーレムエンドだ。
まあ、仕方のない側面もある。
こんな娯楽も何もない世界の果てで、何百年も孤独に戦い続けるなんて耐えられるわけがない。
だからせめて話し相手だけでも欲しい。
そう思ったから、戦闘ロボットにすぎなかった十二天使たちに言葉と心をあたえた。
せっかくだから自分に都合の良いように作った。
こうして辛い孤独からは救われたが、しかしはたから見ればかなりお寒い状況になってしまっていたのだ……。
……うろ覚えだが、勇輝が生まれ育った日本でも、大昔に似たような話があったように思う。
とてもえらいお坊さんが山での孤独な修行に耐えかねて、死体を生き返らせ話し相手にするってお話。
まあ聖女とか聖人とかでも、人間には違いないということで。
……みたいなことをボンヤリと考えているうちに、熾烈だが気の抜けるような戦闘は終了していたようだ。
おぞましい赤竜の融合体が宇宙の彼方に逃げていく。
味方の被害はゼロだ。
『よし、諸君、ご苦労であった。
やつもかなり消耗してきたようだ。
完璧なる勝利の日は近いぞ』
第七天使ユリウスがあいかわらず偉そうな態度で皆の戦いぶりを労っている。
彼らの前にエウフェーミアが進み出た。
「みんなありがとう。ケガはしてない? だいじょうぶ?」
わざとらしいくらいのキラキラな笑顔で皆に話しかける伝説の聖女。
『大丈夫だ、お前のためならこれくらい苦にならない』
そう言っている黒い奴は、はて、何という名前だったか。
まあ何でもいいか。
すごいやつらだとは思う。
この聖女と天使たちがいなければ、世界はとっくの昔に滅びている。
だけど、この輪の中には加われそうにない。
そう思う勇輝だった。





