クリムゾンセラフ大勝利、希望の未来へ レ(自主規制)
勇輝はすばやくワープしてきた先の空間を確認する。
ざっと見たところ星々の存在すら確認できない。
光と呼べるものは勇輝とカリスが跳んできた《門》からあふれる光と、あとは両者の魔力の輝きのみ。
どうやら星すらまだ存在しないほどの、宇宙の果ての果てまで来てしまったらしい。
『いよいよ運が無いな、お前』
クリムゾンセラフはカリスを突き飛ばし、視線をカリスにむけたまま《門》へむかう。
『お前はこの宇宙の果てを孤独にさまようんだ。
死ぬことすらできず、永遠に』
カリスは突き飛ばされた勢いを制御できない様子で、クルクルと無様に回転していた。
どうやら初めての宇宙らしい。
『馬鹿な……!』
これまでずっと感情を表にあらわさなかったカリスの顔に、とうとう焦りが浮かぶ。
『我は不死身、我は無敵、我は地上を統べるもの……!
汝がごときに敗れようはずがない……!』
『確かにお前は強いよ。
強すぎた。
だから俺は、こんな方法をとるしかなかった』
敵が不死身の化け物という展開は、日本の漫画・アニメ・特撮などを調べればいくつか出てくる。
だいたい封印するとか、宇宙に追放するなどの悲惨な結末になる。
仮に勇輝とカリスの戦闘力が逆であれば、「西遊記」の孫悟空のように岩の下敷きにして反省をうながすということも出来たかもしれない。
しかし勇輝はお釈迦様のように偉大ではなかった。
こんな手は二度と通用しない、一回こっきりの騙し討ちだ。
だからこうして取り返しのつかない結末にするしかなかった。
『じゃあな』
『逃がさぬ!』
去ろうとするクリムゾンセラフにむかって、カリスは手をのばした。
実際に十倍にも二十倍にも腕がグングンのびる。
そして赤い装甲に護られた足を捕まえた。
絶対に離さないという意思を感じさせる、すさまじい力で握りしめてくる。
しかし勇輝はちっとも動揺しない。
『甘いぜ』
なんとクリムゾンセラフの足がボロッ、とあっけなく崩れ落ちてしまう。
カリスは「あっ」と口を開いた。
超巨大クリムゾンセラフはただ単に土を寄せ集めただけの、ハリボテ同然の代物だったのを今さら思い出す。
千切れた足は爆発し、カリスをさらに遠のかせた。
『《羽根爆弾》!』
超巨大クリムゾンセラフの身体が末端から無数の白い羽根へと変化して宇宙空間にバラまかれる。
今なお《門》からは大量の空気が吐き出されており、純白の破壊兵器はクリムゾンセラフからカリスにむかって飛んでいった。
ズドドドドドドオォンン……!!
『おお、おおおおおおお!!!』
爆発によってカリスの巨体はさらに遠くへ、遠くへと吹き飛ばされていく。
羽根爆弾によるダメージはすぐさま元通りになっていくが、今さら何の意味もなかった。
反対にクリムゾンセラフとハネエッガイたちは爆発を推進力とし、さらに残りのエネルギーでロケットブースターを作った。
『うおおおお、いっけえええ!!』
《門》からの逆風は強力なものであったが無事突破に成功。
『よっしゃあああー!!』
勇輝たちは元の世界へと生還したのであった。
「……信じられぬ」
戦いのすべてを見ていたイグナティウスは、宇宙空間でぼう然とつぶやいた。
絶対的な魔力と知識量をほこる彼がこんな態度を見せるのは実に珍しいことである。
「カリスは、一度人間たちに裏切られ殺された経緯があったので不死身の力をあたえたのだ。
完全無欠となったはずのあやつが、なぜ敗れた」
「完全無欠ではなかったからでしょう、お師匠様」
イグナティウスの隣には金髪紅瞳の美女、聖女エウフェーミアが座っている。
「正直わたしもすごく驚きました。
ユウキはわたし達が知らないことを知っている。
それはあの子の魂を他の世界から連れてきたからです」
「…………」
「これから、どうなさいます?」
エウフェーミアは師に今後のことをたずねた。
自棄をおこして暴れ出すような師匠ではない。
数百年つきあってきた弟子として、そこは信頼している。
だが理解しそこねている部分があったからこそ今回のような深刻すぎる大事件がおこってしまった。
なので油断はできない。
「あのユウキに聞かねばならない」
「何を聞くのです」
「この世界をどう支配するつもりなのかを、だ」
「えっ」
イグナティウスは音もなく地上へ降下しはじめた。
エウフェーミアもそのあとに続く。
「お師匠様、ユウキにそんなことをたずねても、ちょっと……。
聞いてますかお師匠様、お師匠様!」
ボロを着た聖人は、大気圏内に猛スピードで垂直落下していく。
勇輝は地上にあいた《門》を塞ぎ、仲間たちから祝福されている最中だった。





