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聖女×ロボット×ファンタジー! 死にたくなければモノ作れ、ものづくり魔法が世界をすくう!  作者: 卯月
第六章 聖女大戦

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大いなる海に還る

 ぼう然とするほどの大軍が生みだされたことによって、戦況はいよいよ苦しいものとなってきた。


 あらゆる生命からうばい、同時にあらゆる生命を生みだす化け物。

 ここが戦場でなかったならむしろ「神」と呼ばれたかもしれない。

 まだまだ底知れぬ力と可能性を秘めているのは必然で、もしかするとカリス本人ですら自分の能力の「そこ」というものを見極められていない可能性まであった。


 一方、聖女相沢勇輝だ。

 数えきれないほど人々を守ってきた希望の聖女は、なぜかいまだに動かずジッと敵を見つめている。

 普段は人一倍出しゃばりで、他人が活躍する機会を邪魔してしまうほどなのに。


 聖女の愛機にして代名詞、クリムゾンセラフはずっと腕組みをしたまま宙に浮いて待機したまま。

 副官リカルド・マーディアーは真剣な顔で個別通信を送った。

 周囲には聞かせられない言葉なので、個別通信でしか言えない。


『総長代理、全軍撤退するか?』


 勇輝が動かない理由は「勝ちすじが見えないから」かもしれない。

 その可能性を考えての発言だった。


『今なら十分に戦力を残したまま退却できる』


 撤退とはめずらしくも何ともない普通の行動である。

 だが勇輝は個人でも集団でも、逃げたことがほとんど無い。

「上手に逃げる」ことができない人間というのは意外と多く、勇輝もそんなタイプかもしれない。

 そう判断したからこそリカルドは自分から「全軍撤退」を口にした。

 自分の口から言えないならリカルドのせいにしてもいいぞ、という優しさだった。


 しかし勇輝は思った以上に軽いノリで撤退案を否定する。


『いや、退く必要はないっすよ。

 たぶんだけど……俺、あいつの倒しかたを知ってます』 

『マジか』

『たぶん、まあ確率でいうと90%くらい?』

『だったら早くやれよ!?

 状況見えてんだろ!?』


 技術や気合でどうにかするのも限界がある。

 そしてその限界が来るのはもう近い。

 最前線で戦いつづけているグスターヴォたちなどはいつ崩れてもおかしくないほど疲労していた。

 

『うーん……』


 なぜか勇輝は煮え切らない。


『とりあえず離れる準備をお願い』

『撤退か?』

『いや、カリスから距離をとれるようにして欲しい。

 広範囲を巻き込むことになるから』

『……そういう中途半端な指示が一番困るんだ』


 苦り切った顔でリカルドは文句を言い、通信を切った。

 副官の指示をうけて少しずつ聖騎士団がカリスの巨体から離れていく。

 白黒天使の大軍に圧倒されているのも事実で、不自然さのない動きに見えた。








『ユウキ様、味方が下がってきます』

「うん」


 クリムゾンセラフの人工知能《セラ》までもが不思議そうに話しかけてきた。


『戦わないのですか』

「実は少し迷っている」

『何を迷っているのですか?』

「……エグいやり方になっちまうんでな。

 他の方法があればって、そう思ってるんだ」


 カリスの戦いかたを見てすぐに、日本に住んでいた時のことをフッと思い出したのだった。

 ああコイツはあのパターンで終わるやつだと。

 しかし自分が実際に「それ」をやる罪深さを考えて、ついためらってしまったのだ。

 勇輝はある種、殺人より重い罪を犯そうとしている。

 その覚悟が出来ていなかった。


「フーッ」


 ため息を一つ。

 正直考えすぎている。

 こんな事いちいち気にせず、笑って終わりにしてしまえばいい。

 自分が視たり読んだりしてきた主人公たちはそうだった。


《意外とらしくない事で悩むんだな》

「えっ!?」


 突然脳裏に女の声が響いた。

 それも聞きおぼえのある声。


《私だ、ユリアナだよ。

 最後の悪あがきができたんで、お別れを言いに来た》

「ユリアナ!?」


 突然叫びだした勇輝に対し、セラが驚きの声を出した。


『ユウキ様、どうなさいました。

 ユリアナの遺体はすでに赤備あかぞなえがリグーリアに運びました』


 セラには聞こえていないのだ。

 勇輝の頭の中に直接声が響いてくる。


《命というものは海に浮かぶあわのようだな。

 海から生まれて海の上をただよい、そしていつかはじけて海にかえるんだ。

 私の魔法はその一部を切り取れるだけの存在だった》

「ユリアナ、俺は、もっとお前に何かしてやりたかった!」


 いささか傲慢ごうまんな言い方になってしまう。

 だがこれが本音ほんねだ。

 ありのままの言葉を聞いて、ユリアナは遠慮なく笑った。


《ハハハ!

 それがお前の欲なのか?

 そうだな、その願いをかなえてやりたかったよ》


 ユリアナはカリスの存在を指さした――ような気がした。


《じゃあせっかくだから一つ頼むよ。

 あれを何とかしてくれないか。

 あれは嫌いだ。

 私と兄の嫌なところが合体したやつなんだ。

 お前にあれをやっつけて欲しい》


 スーッとユリアナの気配が薄れていくのを感じた。


「ユリアナ、行っちまうのか!?」

《とっくに割れた泡なんだよ。

 声をかける事ができただけでも奇跡なんだぞ?》

「ユリアナ!」

《海を見ろ、山を見ろ、それが私だ。

 おまえもいつか……おおきなながれのなかに……》

 

 声は聞こえなくなった。


『ユウキ様! ユウキ様!』


 セラが大声で呼びかけている。

 えらく緊張感のある声だった。


「ん、ああ、もういいよセラ」

『良かった、誤作動はおさまりましたか』


 誤作動あつかいされてしまった。

 まあデカい声でひとり言を叫んでいるように見えたのなら、さぞ気持ち悪かったことだろう。


「動くぞ、セラ」

『はい』

「しかし最後にカリスと話がしたいな、ムダだとは思うが」


 勇輝からのラストチャンス。

 まあ99%無駄なのは承知しているが。

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