せまり来る恐怖
港湾都市リグーリアに最低限の部隊を残し、聖騎士団は大森林へむけて出発した。
いよいよ敵の本拠地攻略である。
誰もが緊張した表情で進んでいた。
すでに複数回にわたり《銀の鷹》を偵察に飛ばし、表面的な情報は詳細に調べている。
まずラースたちが見たという巨大な白黒の天使。
そいつはいま森林の奥地で座りこみ、自身の羽で身体をつつんで眠っているらしい。
不吉なことに周辺の樹木が枯死し、虫一匹存在しない死の空間になっているのだとか。
エンリーケの魔法と同じ状況だ。
危険のにおいがプンプンする。
だが怖いからといって引き下がれる訳もなし。
戦う以外の選択肢は初めからない。
ガラガラガラガラ……。
四輪馬車がけたたましい音を鳴らしながら街道をゆく。
中には卵状態のハネエッガイがぎっしりつまっていた。
リグーリアで集めてきた魔力をギチギチに溜め込み、準備万端だ。
こいつらのパワーで目の前にひろがる大森林に風穴をあける。
その穴を一直線に進んで敵を倒す。
単純な作戦だが、これを邪魔できる戦力はもう《呪われし異端者たち》には残されていまい。
これにてチェックメイト、となってくれるはずだ。
周囲と足並みを合わせるためゆっくり飛んでいたクリムゾンセラフ。
その元に最後の偵察班が戻ってきた。
『敵に新たな動きはありません!
巨大天使は待機中、その他異常なし!』
『よし!
なら予定通りぶち抜くぞ!』
何の問題もなく予定の地点までたどり着く。
勇輝はいつもの通り大地に魔力を流し、巨大魔導大砲を作り出す。
『よし、やってくれルカ!』
『わかったよー』
ルカのネクサスⅣが砲座に着席。
ハネエッガイたちが周辺に着陸してエネルギーを魔導大砲に送り込む。
『《まどーたいほ-》、はっしゃーっ!!』
気の抜けるような黄色い声とともに、強烈な破壊光線がはなたれた。
光線はこれまで大きな障害となっていた大森林をいともたやすく貫き、道を切り拓いていく。
『はじめて来た時はあんなに苦労したのに、あっけないもんですね~』
第二騎士団長ベランジェールから勇輝へ通信。
『うん、状況が変わればこんなもんなんだなー』
勇輝もどことなく白けてしまったような口調。
まったくこの大森林ときたら、まともに侵入して攻略しようとした時は悪夢のような大迷宮であった。
それが今、一瞬で突破口が開かれようとしている。
変われば変わるものだ。
ドドオォーン!!
そんなことを話していると、はるか奥地で魔導大砲のエネルギーが大爆発した。
轟音と衝撃がここまで響いてくる。
『おっ、山にでもぶつかったか?』
『ううん、なんかちがうかもー?』
射手のルカに否定された。
撃った本人にしかわからない感覚があるのだろう。
『なんかねー《てき》にぶつかったかんじー』
『敵!』
それはうわさの巨大天使だろう。
勇輝の表情にピリッと緊張感が走った。
『やったのか?』
ルカは首を横にふった。
『ぶー。
そういうかんじじゃないよー』
『そっか』
超遠距離とはいえ、エッガイたちの一撃をくらっても倒せない敵。
やはり一筋縄ではいかないようだ。
ズズーン……! ズズーン……!
『む?』
ズズーン……! ズズーン……!
『足音、だよなこれ』
ズズーン……! ズズーン……!
とてつもなく重い振動が近づいてくる。
そういえば聖都の魔王は動けないやつだったが、リグーリアのブラックドラゴンは当たり前に空まで飛んでいた。
今度のやつもきっと空陸両用だろう。
ズズーン……! ズズーン……!
近づいてくる。
ゆっくり歩いているようだが、情報によればケタはずれの巨体である。
その歩幅なら実質的にかなりのスピードだろう。
すぐに戦闘開始となりそうだ。
腹の底に響いてくる重低音を聞いていると、じわじわ恐怖心がわき上がってくる。
『怖いね、どうも』
苦笑いする勇輝のひたいに、一筋の汗が流れた。





