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聖女×ロボット×ファンタジー! 死にたくなければモノ作れ、ものづくり魔法が世界をすくう!  作者: 卯月
第六章 聖女大戦

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すべては風となって散った

『部下が裏切りやがったか』


 深読みしすぎなフォルトゥナートの発言に、マキシミリアンはまゆをひそめた。


『何だと?』

『オレの策がお前なんぞに読めるわけがねえ、そっちへ行った伏兵が裏切ったんだろ』


 頭のキレすぎる人間はとかく余計なことまで考えがちだ。

 武骨なマキシミリアンは面倒くさそうな顔で否定する。


『あきれた男だ。

 自分の部下すら信用できんのか』


 マキシミリアンは武器をにぎり直し、油断なく間合いを詰めていく。

 

『確かに俺には貴様の動きを予想するような頭はない。

 だから策ではなく《ひと》を読んだ』

『人、だぁ……?』


 彼の部下である第五騎士団員たちも同様にゆっくり近づいていく。

 仇敵きゅうてきに復讐する時が来たのだ。


『お前はどちらの戦場にも姿を見せなかった。

 いま参加しなければ戦況が悪化するのは火を見るよりもあきらかなのにだ。

 だから俺は、お前がいつものようにやる気をなくしたのだ、と考えた』


 今は敵味方に分かれたとはいえ長年戦場で顔を突き合わせてきた同僚である。

 しかも第四騎士団は南部の守護、第五騎士団は西部の守護。

 南西方面の仕事となれば共同戦線を張ることもめずらしくなかったのだ。

 おたがいの能力、思考パターンなどは知り尽くしているといっていい。


『フォルトゥナート、貴様には主義主張というものがない。

 むしろだからこそ、どうでもいいような感情論で動くかもしれないと、俺はそう考えただけなのだ』


 せっかくの挟撃作戦をまさかのベランジェールに妨害されたあの日のこと。フォルトゥナートも忘れていないはずだ。 

 電波女と呼んで馬鹿にしていた相手に一杯食わされたことを根に持って、襲撃しに来るかもしれない。


 だからリグーリアの攻防が決着した時点で持ち場を部下にまかせ、ベランジェールの元で待っていようと考え行動した。

 それが結果として異様なほど速すぎる救援活動となった。

 

 なんの事はない、ほとんど偶然の産物である。

 たまたま両者の思惑と行動のタイミングが合致がっちした、ただそれだけ。

 しかし同じ戦場の空気を吸って長年生活してきた者同士である。

 タイミングが合致したのはひょっとすると宿命的な部分もあったかもしれない。


 なにはともあれ両者はこうして再会した。

 狩る側と、狩られる側として。


『ハハッ、ハッハッハ……』


 フォルトゥナートはあきらめたように笑う。


『クソ寒いなぁ、オレって』


 戦闘が開始された。


 人数はやや第五騎士団のほうが多いようだ。

 だが決定的な差ではない、十分に戦える範囲内だ。

 にもかかわらず、第四騎士団は早くもおよごしになっている。


 騎士団ごとの気質によるものだった。

 第五騎士団がマキシミリアンに似て剛直であるように、第四騎士団員たちはフォルトゥナートの策を忠実に実行してきた技巧派集団だ。

 今、フォルトゥナートは策におぼれ、敵と正面衝突するしかない状況。

 ベランジェールを挟撃するために部隊を三つに分けたのが完全に裏目だった。 

 そして作戦が失敗だったことを部下たちも正確に理解してしまっている。


 武と魂の第五騎士団相手にこの劣勢をくつがえすだけの根性が、第四騎士団には無かった。


 一機、また一機と第四騎士団の機兵が討たれていく。

 フォルトゥナートはさすがに良く戦ったが、多勢に無勢となってはなすすべもない。

 機体はズタズタに切りきざまれ、からくも本人が地上に脱出してきた。





「ハア……ハア……」


 大きく息をきらせて苦しむ長身の色男。

 もはや味方は一人もおらず、身を守るものは腰にびた剣一本だけだ。


「終わりだ、おろか者」


 マキシミリアンが剣を構えて近づいてくる。

 なんとわざわざ守護機兵から降りてきて、生身で一騎打ちをするつもりらしい。


「……いちいちそこまでするかよお前?」

「貴様はこの手で倒すと、先にった戦友たちに誓ったのだ」


 有無を言わさぬ態度でマキシミリアンが剣をむける。

 フォルトゥナートもさそわれるがまま剣を抜いた。

 二人の剣がはげしくぶつかり合い、お互いの魔力がはじけて火花が舞う。


 しかしすでに結果の見えている勝負だった。

 フォルトゥナートにはもはや戦意がない。


「なあおい」


 鍔迫つばぜいをしながら、フォルトゥナートがマキシミリアンに問う。

 最期に聞いてみたいと思ったのだ。

 自分を負かしたこの男は、どんなことを言うのだろうか。


「オレの人生は、どうすれば良かったと思う?」


 マキシミリアンは渾身こんしんの力をこめて敵の剣をはじき飛ばし、そして相手の左肩から右わき腹まで深々と切り裂いた。

 鮮血が宙に舞う。

 フォルトゥナートは力なくあお向けに倒れた。


『オオオオオオオー!!』


 第五騎士団の部下たちが一斉に歓声をあげる。

 その歓声にまぎれるように、マキシミリアンは小さく答えた。


「貴様は、酒を飲んでいる時だけは楽しそうにしていた。

 普通に働きかせいだ金で、らしに酒を飲んでいれば良かったのだ」

「……それだけかよ?」

「そんな男は世の中にいくらでもいる。

 飲み仲間には困らん」

「は、はは、は……」


 フォルトゥナートはうつろな表情で最期に笑う。


「お前らしいや……、つまんねえ答え……」


 笑顔のまま静かになった元・飲み仲間にむけて、マキシミリアンは再度つぶやいた。


「馬鹿者が」


 戦場に風が吹く。

 誰かの泣き声のように草花がざわめいていた。

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