それでも、前へ!
グレーゲルが四本の腕で攻めつづける。
ランベルトは激しい攻めに対して防戦一方。
そんな展開がたっぷり一分はつづいた。
周囲の仲間たちは援護したくてもできない。
守護機兵の攻撃ではランベルトに当たってしまいかねないのだ。
だからといって彼に逃げろというわけにもいかない。
目の前で刃をむけている彼がいなくなれば、グレーゲルはドラゴンの頭を再生させて元通りにしてしまうだろう。
せっかく作ったチャンスを無駄にしないためには、ここで彼に決めてもらうしかなかった。
「ハッ! ヤアッ!」
鋭い突きを紙一重でよけ、ランベルトは半歩だけ間合いを詰めていく。
グレーゲルが創り出した魔法の腕は骨も関節もなく、それでいて力強く動きまわる。
たっぷり遠心力の乗った一撃は殺傷力満点。
その証拠に地面がわりのドラゴンの肉体はグレーゲルの一撃を受けるたびに砕け、飛び散っている。
それが同時に四本。
非常にきびしい猛攻であったが、《身体強化》で増した動体視力でどうにかしのいでいた。
「グガアァァァ!」
業を煮やしたグレーゲルは四本の腕を同時に突き出した。
鋭くとがった尖端がランベルトを串刺しにしようと高速でせまる!
だがランベルトはむしろ喜んだ。
(好機!)
ランベルトは横へ大きく跳んで転がりながら着地。
体勢を立て直すと思い切って前へ出る。
四本の腕はランベルトの横を素通りしてはるか遠方まで飛んでいった。
今、グレーゲル本体はガラ空きだ!
「覚悟ッ!」
「ア”マ”イ”ナ”」
グレーゲルは濁った声で笑った。
ランベルトの剣がわずかな距離までせまっているにも関わらずだ。
グレーゲルは自分自身の右手をかざし、その手から禍々しい衝撃波をはなった。
ドオォォン!!
「ウグウゥッ!」
苦痛にうめきながら後ろに吹き飛ばされるランベルト。
せっかくのチャンスであったが、これで振り出しにもどってしまう。
「ゴホッ、ゴホッ!」
胸に痛みを感じてたまらず咳き込む。
口元をおさえた手に血がにじんでいた。
今の魔法で内臓を痛めたらしい。
この魔人、いったいいくつ同時に魔法を使えるのか。
四本の腕、四本の剣、そしていまの衝撃波。
ドラゴンも形が崩れないところを見ると、これも奴が魔力で支えつづけているのだろう。
信じがたい技量だった。
だがそれでもランベルトの瞳から闘志は消えない。
勝利への道筋はすでに出来あがっていた。
(本来なら、今の一撃で自分は死んでいたはずだ)
至近距離で攻撃魔法の直撃をくらったのに、彼はまだ立てている。
魔人の技量はすさまじいのひと言だが、それでも魔力の総量は勇輝ほど理不尽ではないらしい。
その証拠に魔人をつつむオーラの輝きが目に見えて減少していた。
グレーゲルの力は強い。
しかし強いからこそ消耗も激しいのだ。
敵も限界は近い。
(次は、殺る!)
ふたたびランベルトは剣の切っ先をグレーゲルにむけ、ジリジリと間合いを詰め始めた。





