魔人狂闘
全身から黒いオーラをあふれさせるグレーゲルに対し、ランベルトは剣を構える。
二人の距離が近すぎて誰も援護に入れない。
一騎打ちだ。
「ギ……」
「ぎ?」
「ギゲガアアアオ!!」
グレーゲルの顔つきが凶悪な魔物のそれに変わった。
形容しがたい奇声を上げて右手をランベルトに向ける。
五本の指から禍々しいオーラをまとった黒い矢が大量に放たれた!
「甘い!」
ランベルトの全身が白いオーラで包まれる。
《全身強化》の魔法だ。
白いオーラは彼の剣まで包み、襲いかかる矢を打ち払った。
「風よ! 敵を討ちたまえ!」
「グギッ!」
吹きおろしの強風が魔人の全身をたたく。
そのまま吹き飛んでしまえば仲間たちが守護機兵でとどめを刺してくれるだろう。
だがさすがにそんな楽な敵ではなく、グレーゲルは身をこわばらせてドラゴンの上に居座りつづけた。
「ハアーッ!」
動きを止めざるをえなかったグレーゲルにむかって突進し、ランベルトは大上段からの斬撃を叩きつける。
しかし黒いオーラが盾に変化し、その斬撃は受け止められた。
バチバチバチ!
「くっ」
盾をあいだに挟んでにらみ合う両者。
グレーゲルの金色の瞳がすさまじい殺意に満ちているのを感じて、ランベルトは背筋が寒くなった。
(いけない!)
単なる勘でランベルトは後ろへ跳んだ。
直後、黒い斬撃が横から飛んできて彼が立っていた場所をなぎ払う。
「ギギギ……!」
仕留めそこなったことを悔しがるグレーゲル。
すこし間合いをとったことでランベルトは敵の全体像を見ることができた。
黒いオーラが長い腕となり、さらにその先端が大剣と化している。
あのまま同じ場所にとどまっていたら、上半身と下半身が真っ二つになるところだった。
「強敵だな、まったく」
オーラを剣にする魔法くらいなら聖都にも使い手がゴロゴロいる。
だが、盾・腕・剣と三つ同時に生みだしてあやつるとなれば話はまったく別。
そしてまだまだ増える可能性も……?
そんな風に敵の力量を考えていると、さらに三本腕がはえて襲いかかって来た!
「そら来た!」
大正解だがうれしくはない。
ランベルトは横へ跳んで回避する。
「ギイイ、アアアアアアッ!!」
四本の腕が次々と襲いかかってくるのを、ランベルトはジリジリ後退しながら防御しつづける。
長い腕で振られた一撃一撃は重く、《身体強化》で強靭になった肉体ですら軋んで悲鳴をあげてしまう。
このままではズタズタに切り刻まれてしまいそうだ。
ふと、クラリーチェの言葉が脳裏に浮かぶ。
――貴方は八つ裂きにされて死ぬんだわ!
「冗談じゃない! まったくロクなことを言わないなアイツは!」
グチを言いながらランベルトは横へ横へと逃げる。
後ろへ行くのは楽だがダメだ、いずれ退路がなくなって終わる。
隙をついて前へ出るその一瞬のために、ここはあえて危険な位置で耐え忍ぶ。
「グゲエエェェッ!」
思うように殺せないことをストレスに感じたのかグレーゲルがより興奮して怒りをあらわにする。
先ほどはずいぶんと理性的に言葉を話していたものだが、えらい変わりようだ。
魔に染まるというのがこういうことならば、哀れなことだと思った。
白髪妖眼の魔人は狂態をさらしながら猛攻をつづける。
少しづつ黒いオーラの量が減少していっていることを、本人は気づいていない様子だった。





