大義なき炎
神鳥は巨大な黒竜に対し、力の限りを尽くして戦いつづける。
まるでどこかの国の神話か、ファンタジー映画のような光景だ。
グレーゲルのあやつるブラックドラゴンが翼を羽ばたかせるたびに暴風が荒れ狂う。
彩りゆたかなレンガ造りの建物が次々となぎ倒され、隠れていた住民たちが無造作に犠牲となってゆく。
まさに破壊の化身だった。
人間の作ったものなど、ちょっと巨体を動かすだけで壊れてしまう。
着地をすれば地響きをたてて敷石が砕け、馬車や屋台が横転した。
敵を追うために後ろへ振り向けば、手足や尻尾が左右の建物にかすって砕け散る。
翼をひろげて軽く羽ばたけば風圧で逃げまどう人々はあっけなく吹き飛び。
いきおい良く飛び上がれば、その衝撃波で街の区画が丸ごと甚大な被害をうけた。
瓦礫の下からあふれ出ている鮮血をみて、勇輝はたまらない気持ちになる。
顔も名前も知らない人々が恐ろしい速さで次々と死んでいく。
この場が戦場に選ばれたというだけの理由で。
『この、バカが!』
勇輝はクリムゾンセラフを急上昇させ、ドラゴンの上から羽根爆弾を降らせた。
街の破壊を恐れて、量は少なめだ。
ドドドンッ!!
ドラゴンの上半身を浅く破壊し、焼き焦がす。
ダメージはほとんどないようだが、意識をむけさせることは出来た。
『お前らはいつもそうだ!
頭でっかちな事ばかり言いやがって!
今お前のせいで人が死んだぞ。
どんな名前のどんな人たちだったか、どうせわかりゃしねえんだろ!?』
グレーゲルはフーッとため息をついた。
『実にくだらんな。「いつもそうだ」は貴様のほうだ』
ドラゴンの口がガバッと開く。
『ユウキ様、ブレスです!』
『わかってる!』
セラに返事をしながら勇輝は全速力で方向転換する。
吐き出される汚濁は空の彼方まで飛んでいく。
『貴様のほうこそ、いつまで目先のことばかりに囚われているつもりだ。
大義を知らぬ小娘め』
グレーゲルの声が聞こえるが、ドラゴンは変わらずブレスの残りをわずかに吐きつづけた。
ビチャビチャと汚泥が汚いラインを描いて美しい街並みを汚らしく破壊していく。
『世界そのものを変える変えないという時に、百やそこらの命にこだわるとは』
『一人一人を守りたかったから、俺は今ここにいるんだ』
クリムゾンセラフの指が、空のむこうを指さす。
ちょうど二機の援軍が戦場に到着するところだった。
『俺が頭のいい人間だったら、アイツは今ここにいない!』
ルカの乗っている《ネクサスⅣ》だ。
後ろに《フーフー》も一緒に来ている。
『おねえちゃん!』
『おうっ、待ってたぜ!』
この子との出会いが戦いの始まりだった。
あれから色々な経験があって何もかもが変ってしまったようだが、しかし変わらずに抱き続けているものがある。
――人として正しく生きれ。 誰に対してもまっすぐ顔向けできるように、素直に正直に生きれ。
(素直に生きつづけたら、なんか知らんけど世界滅亡の危機に立ち向うはめになっちまったよばあちゃん)
フッ、と自嘲気味に笑う。
異世界転生したのにスローライフのスの字もない。
だいたい自分のせいだ。
『決めるぜ、みんな!
ここが勝負所だ!』
『オオー!!』
勇輝が剣を振り上げて戦場に叫ぶ。
仲間たちも気迫のこもった雄叫びでこたえてくれた。





