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聖女×ロボット×ファンタジー! 死にたくなければモノ作れ、ものづくり魔法が世界をすくう!  作者: 卯月
第六章 聖女大戦

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それだけが、闇の中の光だった

 後方で待機している第二騎士団に勇輝は連絡。

《ネクサスⅣ》と《フーフー》の出撃を命じる。

 一方目の前では、ランベルトの乗る神鳥カラドリウスが陣頭に立って戦闘をおこなっていた。


『《呪われし異端者たち(アナテマ)》!

 貴様らの野望はもはや風前ふうぜん灯火ともしびだぞ!』

『ほざけ、偽善の都の住人どもが!』


 疾風をまとい、高速でドラゴンの至近距離を飛びまわる神鳥カラドリウス

 白兵戦もさることながら、舌戦ぜっせんのほうも火花散る激しさであった。


『偽善だと!?

 ならば貴様らのやっていることは何だ!

 力なき民を巻き込む卑劣漢ぞろいではないか!』


 今なお地上から《呪われし異端者たち(アナテマ)》の弓兵たちから射撃は飛んできている。

 大きな損害は出ていないもののやはり危険ではある。

 しかし、だからといって排除しようとすると街に被害が出てしまう。

 政治家でも《呪われし異端者たち(アナテマ)》でもない民衆にとって、今回の戦争は本当に迷惑なだけの事件だった。

 こんな場所を戦場にえらんでおいて相手を偽善者呼ばわりとは、よく言えたものだ。


 しかしグレーゲルは何度となく同じ言葉をくりかえす。


『どうせすべては無意味なのだ。

 人類の魂は漂白され、過去は忘れさられる。

 全人類の九割が死のうとも、そもそも居たことを知らなければ存在しなかったのと同じだ』

『なんというぐさだ貴様っ!』


 神鳥カラドリウス鉤爪かぎづめから真空の刃がはなたれ、ブラックドラゴンの皮膚を切り裂く。

 だがグレーゲルはうめき声ひとつ上げない。


『どうせ人間などという生き物は、意識内の存在しか把握はあくできぬのだ。

 金髪の色男よ、貴様は手を洗い、歯をみがくたびに途方もない数の生命を虐殺しているという事実を知っておるか?』

『なに?』

『我ら《呪われし異端者たち(アナテマ)》は独自に毒や薬の開発もおこなってきた。

 その過程で目に見えぬ極小の生命が存在していることを突き止めたのだ。

 その極小の者どもは森羅万象しんらばんしょう、あらゆる場所にいる。

 我々の体内にもな』

『いったい何の話をしている!』

『知っているぞ、貴様、戦災孤児だったのだろう?』


 まさか自分のそんな情報まで調べてあるとは思わず、ランベルトは動揺した。


『そ、それがどうした』

『私はどうもせぬ。

 だが貴様が守っている者どもは、なかなか辛辣しんらつに貴様の生まれを責めているな』

『貴様には関係ないだろう!』

『そうか。

 ではヴァレリア・ベルモンドは、女だからというだけの理由でどれほど理不尽な目にあってきたのだ?』

『だ、黙れーッ!!』


 この世でもっとも敬愛する主君の名を出されて、ランベルトは逆上した。

 全身を竜巻がおおい、巨大な風の矢となってドラゴンにせまる。

 ドラゴンは右手でそれを受け止めた、だが激怒したランベルトの一撃は竜鱗でおおわれた手を打ち砕く!


『貴様にヴァレリア様の何がわかる!』

『分かるさ。

 ラツィオの愚物どもよりむしろくわしいつもりだが?

 あの女狐めぎつねは剣ではなく知恵で戦う強敵だ。

 さっさと暗殺したかったが、とうとうその機会はこなかった。

 だから今、面倒なことになっている。

 口惜くちおしいことだ』


 グレーゲルは語りながら破壊されたドラゴンの腕をブン! と一度振る。

 すると失われた部分が新しくはえてしまった。


 一方ランベルトは、敵側からの高評価に妙な感覚を味わわされてしまう。


『結局、何が言いたいのだ、貴様は』

『金髪の色男よ。

 貴様が思っているほど貴様が住む都は正義の都ではない、ということだ。

 浮浪者の子供が浮浪者の身分からはい上がるのは並大抵なみたいていではない。

 犯罪者の子供はなぜか子供のほうまで犯罪者あつかいされる。

 こういう連中から我ら《呪われし異端者たち(アナテマ)》の信徒が生まれると知っていながら、貴様らは何の手も打てなかった。

 生まれながらに絶望的な人間の気持ちが、貴様なら半分くらいは理解できるだろう?』

『……お前』


 グレーゲルの言葉には、ただの一般論をこえた感情がこめられているように思えた。

 人の身を捨て異形の魔人となったのには、彼なりの理由と意思があったのだ。


『今さら貴様らに救ってもらおうとは思わぬ。

 我々は我々自身の手でみずからを救う。

 その結果貴様らが全員死んだところで、仕方のないことではないか?

 我々は聖イグナティウスに従い、この世界を《漂白》する。

 汚れた経歴と傷ついた魂を救済するには、それしかないのだ。

 先ほど言ったように、この身を洗い歯を磨くのは必要なこと。

 必要なことのせいで死ぬ命があるのは分かるが、だからといって自分を犠牲になどできるものか。

 我々を迫害した者たちのために我々が犠牲となるいわれはないのだ、分かるだろう?』


呪われし異端者たち(アナテマ)》がこうも手強い敵として立ちはだかり続ける理由を、ランベルトはようやく理解できた気がした。


『……だがこちらも、はいそうですかと殺されてやるわけにはいかん』

『貴様らに救ってもらおうとは思わぬと、先ほど言った』


 両者はそれぞれの立場にしたがって相手とむき合い、戦いの構えをとった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今までのアナテマの中で、イグナティウス以外で初めて一定の道理と正義感でアナテマやってる奴が出てきた 前からそれっぽいと思ってたけど共産主義者だこれ
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