妖眼の策
『目の前のことしか考えられぬ愚物が!』
『うおっ!』
ドラゴンは翼を大きく羽ばたかせた。
暴風が巻き起こり、クリムゾンセラフは大きく吹き飛ばされてしまう。
『悪魔どもに喰われてしまえ!』
先ほどからリグーリアに集まってきている飛行型悪魔の群れ。
その真っ只中に勇輝はほうり込まれてしまう。
悪魔たちの殺気立った視線が、あきらかに場違いな紅の天使にむけられた。
『チッ!』
一瞬の判断ミスが死につながる。
そう感じた勇輝は左右の手に武器をかまえ、翼に大量の魔力をこめた。
次の瞬間、悪魔の群れが一斉に襲いかかってくる!
勇輝は翼を羽ばたかせ急降下。
白い羽根を大量にばらまきながら真下にいる敵を斬り捨てて突破する。
『羽根爆弾ッ!!』
悪魔たちの中にまき散らされた白い羽が、同時に大爆発をおこした。
ッドドオオオン……!!
市街地に爆炎と衝撃波が降りそそぐ。
大量の黒い霧が周辺に広がり、空の悪魔たちはクリムゾンセラフの姿を見失った。
『ふぃ~、あぶなかったぜ……』
前後左右上下すべて敵。
ゾッとするようなピンチだったが、うまく切り抜けることができた。
勇輝は消耗してしまった羽根を補充するためにクリムゾンセラフをしゃがませ、地面に手をついた。
両手両足から地面を吸収し、新しい羽根に作り変えていく。
『ユウキ様!』
『うん?』
クリムゾンセラフの人工知能《セラ》が警告を発する。
ドォン!
小さな爆発が機体に襲いかかった。
『なんだ!?』
『敵襲です! 人間の弓兵!
背中を射られました!
損傷軽微!』
『人間!?』
立ちあがって後ろをふり返る。
たしかに路上で弓矢をかまえている人間が立っていた。
「滅びよ魔女め!」
呪いの言葉を叫びながら矢を放ってくる。
クリムゾンセラフは腕で矢を防いだ。
ゴォォン!
小さな爆発が腕を傷つける。
守護機兵の腕を粉砕するほど火力はないようだが、それなりに痛みはあった。
『《呪われし異端者たち》め……!』
勇輝はクリムゾンセラフの足を上げ、敵を踏みつぶそうとする。
だが。
「うわあああ!」
弓兵が恐怖におびえ悲鳴をあげるのを聞いて、足の動きが止まった。
『……チッ!』
人間。
こいつらも人間。
そう思うとどうにもやりづらくて、勇輝は空へ逃げた。
だが空へ行くと今度は悪魔の大群が襲いかかってくる。
翼が不完全なままなので思うように動けず、勇輝は瞬く間に苦戦しはじめた。
『うおおおっ!?』
苦しむ勇輝の声を聞いて、グレーゲルは冷静さをとり戻したようだった。
『そう、お前ら機兵乗りはそういう人種だ。
敵の兵器は嬉々として壊せても、兵士は殺したがらない。
まあ結局いつかは殺しはじめるのだがな』
空中戦の不利を感じて勇輝は市街に降下しようとする。
しかしそうすると《呪われし異端者たち》の弓兵から矢が飛んでくる。
矢の威力は低いが、だからといって無視できるわけではない。
『意外なことだが、貴様は地上で戦った方が強い。
空中では機体そのものを変化させることしかできんようだからな』
だからあらかじめ地上に殺しにくい敵を配置してあったのだと、グレーゲルは語る。
勇輝の魔法は世界一便利で応用のきくもの。
それは自他ともに認めるところだ。
だから好きに使えないような環境を作った。
『貴様はここで殺す。
そのための罠だ』
『上等だコノヤロー!』
強がっている勇輝であったが、ジワジワと力を消耗させられている。
かなりの長い期間、グレーゲルはずっと勇輝の力を観察しつづけてきた。
その研究成果をこの戦場にぶつけてきたのだった。





