偉くなっても勇輝は勇輝のまま
再度の遠征が決定されたものの、すぐ出発できるわけではない。
あわただしく準備が進められていく。
物資の補給だの、管理だのは勇輝の出番ではない。ヴァレリアの得意分野だ。
勇輝はつかの間の休日を手にいれた。
しかし短い期間にできることは多くない。
勇輝は大事なことをするためにベランジェールのもとへ行った。
「ヤダっ、ダメっ、そんなの入らない……!」
ガタガタとふるえるベランジェールをニヤリと陰湿な笑みをうかべて見下ろす。
「大丈夫だって、こんなのみんなやってることだから」
勇輝はニヤニヤ笑いながら黒くて巨大なものをベランジェールにむかって動かす。
「イヤー! 怖いー!」
ベランジェールが幼女のように泣き叫ぶ。
黒々とした巨いモノが、プシーッ! と白い蒸気を噴き出した。
「ヒイイイ!」
地面に力なく倒れ、ワナワナとふるえているベランジェール。
大きな影が彼女の上からおおいかぶさっている。
『十五体搭載……完了。
異常は感知されていません』
ベランジェールの巨大機兵《フーフー》が機体の状態を報告する。
十五体ものエッガイを腹いっぱいに内蔵し、エネルギーがビンビンのギンギンだ。
「だ、大丈夫?」
『異常は感知されていません』
「ホントのホントに大丈夫?」
『異常は感知されていません』
『…………』
さらに数十秒時間をおいて、ベランジェールはフーッと深いため息をついた。
相沢勇輝作成の巨大機兵《フーフー》。
エッガイを内部に多数搭載することで脅威のハイパワーを発揮するという夢の機体だ。
しかし二十体載せた稼働実験で大爆発事故をおこしたといういわくつきの機体でもあった。
前回の北伐で搭載数を五体までへらした所、わずか一分で燃料切れになるという残念な結果になってしまった。
そこで今日はすこしずつ数を増やしていって、限界量を確認しているところだ。
十体以下ではたいして戦力増強にならないことが判明。
なので十一体、十二体、十三体……と数を増やしつづけ、現在十五体目が成功したところだった。
状況的にはアレだ。
黒○○危機一髪とか、○ェンガを必死こいてやっているような状況。
二人でアーッ! ワーッ! とか叫びながら一体ずつ挑戦していた。
「よっしゃー!
じゃあもう一体いってみよー!」
「もういいよ!
こんなとこで命かけてどうすんの!」
まったく反省していない勇輝にとうとうブチ切れるベランジェール。
無難な人生が好きな彼女には、マッドサイエンティストの気持ちが理解できない。
「えーっ、この一体が戦局を左右するかもしれないのに……」
「その一体でいま死ぬかもしれないって言ってんの!」
ベランジェールは大声を出しながら魔法の指輪をかかげ、《フーフー》を収納してしまった。
「ちぇっ……」
オモチャを取り上げられた子供のような顔ですねる勇輝。
「挑戦こそが人類を進歩させるんだよ」
「栄光の裏でのたれ死んだ人がいっぱいいることも考えて」
ベランジェールは心に強い劣等感をいだいている女性だ。
成功者の調子いい言葉に踊らされたりはしない。
「こう言ったらなんですけど、内部構造をもっと頑丈にするのが先じゃないかな?
今のまま数だけ増やしたってあぶないだけだよ」
「そっちの方がよっぽど難しいんですよ」
今までの作り方ではそんな優秀な守護機兵を作れない。
一から設計を勉強しなおして、プロの技術者に協力をもとめる必要がありそう。
そしてもっと難しいのが素材である。
ぶっちゃけると古いロボットアニメでありがちな『超合金』の存在が必要だ。
軽さ・硬さ・熱耐性などにすぐれた特殊な金属。
そんな便利なもの、誰だって欲しいに決まっているが簡単に作れるわけがない。
さすがの勇輝にも『ハイどーぞ、ババーン!』というわけにはいかなかった。
研究する時間がほしい。
しかし今はその時間がない。
だから今できる技術でなんとかするしかないのだ。
「というわけでフーフーに十六体目を」
「ダーメ!!」
指輪を抱きしめて隠してしまうベランジェール。
ここまで完全に拒否されてしまっては仕方がない。
《フーフー》のエッガイ搭載数は十五機ということになった。
ほかにも多くの人々と話し合いながら細かい部分がひとつひとつ決められていく。
勇輝にとって思わぬ痛手だったのが、大半のエッガイを置いていかなくてはいけないという話だった。
もともと聖都を守るために開発した『エッガイシステム』である。
人々から発散された魔力を吸収して力にするという構造上、人口の少ない場所ではたいした力にならない。
ベランジェールの《フーフー》に十五機。
ルカの《ネクサスⅣ》に一機。
あと連れて行けるのはせいぜい十機が限度だった。
残りはすべて聖都に置いていくしかない。
せっかくの戦力を腐らせないために、残った赤備えの指揮権は長官であるヴァレリアにまかせることとなった。
で、ここでもまた『例の問題』が。
ヴァレリアがどこか投げやりな笑顔で勇輝に命令してくる。
「ユウキ、例によってお金がありません。
貴女のお力添えが必要不可欠です」
そう、毎度おなじみ軍の資金難である。
北伐のために組まれた特別予算はもうない。
予算を使って集めた物資も多少残ってはいるが、ほとんどは逃げ帰るときに戦場に捨ててきてしまった。
今ごろ錆びたり腐ったりしてダメになっているか、《呪われし異端者たち》に回収されて利用されたことだろう。
新しく買ったり作ったりするために、どこからかお金を得る必要があった。
「急遽、寄付金集めのパーティを開くこととなりました。
貴女も総長代理としてかならず参加してください」
「……世界の一大事だってのにパーティ?」
「一大事だからこそ、有力者に効率よく集まっていただくのです。
一件一件スケジュールを組んでお願いしてまわるほど時間はありませんので」
たしかにそんな事をしていたら一ヵ月たっても終わりそうにない。
どうやら断れない様子だ。仕方ない。
「もしかしてそれ、ダンスとかあります?」
勇輝はダンスが踊れない。
男に触られるとどうしても表情がひきつってしまうのだ。
「いえ、主役が貴女なのでそれはありません」
聖女が指揮する軍に金を出してくれ、というパーティだ。
その聖女が無様をさらすようではお話にならない。
「それなら、まあ」
着ていく服はドレスではなく軍服ということになった。
勇輝としてもそのほうが嬉しい。
さてどんな軍服にしようか。
ここでどんな姿を見せるかは重要だ。
いつもみたいに適当とうわけにはいかない。
勇輝は自分の特徴を連想する。
紅瞳の聖女。
金髪。
赤い守護機兵。
赤……金……赤……。
「よしアレだ!」
勇輝はとある映画のマネをすることにした。





