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聖女×ロボット×ファンタジー! 死にたくなければモノ作れ、ものづくり魔法が世界をすくう!  作者: 卯月
第六章 聖女大戦

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勝敗、生死、それは明暗

『ど、どうしました』


 不審がる皆を代表して、勇輝が問う。

 自分たちの戦いになにか良くない点があったのだろうか。


 しかしグスターヴォはまったく思いもよらぬことを口ばしった。


『生き残ってしまった』

『……は?』

『わしは今日死ぬつもりだったのに、うっかり生き残ってしまった!』


 あっ、と決死隊の者たちは我にかえっておなじようなこまり顔になる。

 彼らもまた、生きて帰らぬつもりでここへ来たのだ。


『お前らのせいでまた死にぞこなってしまったぞ!』


 グスターヴォが部下にむかって無茶を言う。

 部下たちも言い返した。


『いやそれはひどい!

 死に場所をうしなったのはこちらもです!』

『そうですよ! 一番暴れていたくせに!』


 顔を右手でおおって「ぐうううっ」、とうめくグスターヴォ。

 そんなに死にたかったのか。


『そもそも敵が弱すぎたのだ……』

『エーッ!?』

 

 ぶったまげる勇輝。

 国家存亡の危機になんてこと言いやがるんだこのジジイ。


 ことさら絶望的な声でグスターヴォがそんなことを言うものだから、プッ、と吹き出すものがあらわれてしまった。


『何がおかしい!』

『い、いやまことに、死すべき時に死ねぬのは辛いことで』


 一世一代の大決戦を勝利で終え、ちょうど気がゆるんできたところにこんな会話である。

 聖騎士たちのあいだから軽口があふれてくる。


『あの数の敵でまだ不足とは、まさにグスターヴォ殿は豪傑ごうけつですなあ』

『相手も武運のないことだ。

 他の国に攻め込んでおけばこんな悲惨な目にあわずにすんだだろうに』

『まっことその通りですな!』


 アハハハハハ!


 笑い声に包まれて、大まじめだったグスターヴォと決死隊の面々も顔がだんだんほころんでくる。


『団長、これは仕方がありませんな』

『そうです、まだすべての戦いが決着したわけではありません!

 これからまだ機会はありますとも!』

『そ、そうか、そうだな!

 まだ次があるな!

 タッハッハッハッハ』


 周囲の温かい笑い声につつまれて、怒っていた老将もとうとう笑いだす。

 

 ――残念、残念、また次回……。


 みたいな顔で笑っているのを見て、騎士団総長代理・聖女勇輝はドン引きする。

 

『アタマおかしいにもほどがあんだろ、このジジイども……』


 そのつぶやきを副将リカルドが拾い上げた。


『わざわざオリの中から出したのはテメーだってこと忘れんなよ』

『ぐっ』

『最後までちゃんと面倒みろよな』

『マジかぁ~……』


 アレが満足するようなエサを用意するのは、至難のことだろう。

 いっそエンリーケに殺させてやればよかった。

 

 こんなことが考えられるくらい、勇輝の心にも余裕がもどっていた。

 とにもかくにも人類の命運がかかった大決戦、その初戦は勝利で完結したのである。








 一方、《呪われし異端者たち(アナテマ)》の地下城。

 恐るべき敗報は、半日ていどの時間差でもたらされた。


「……戦死?」


 カタッ、と小さな音をたて、ユーリ=カリスは玉座から立ち上がった。


「いま、兄が戦死したと言ったのか?」


 通信使をしていた魔人はひざまずき、下を向いたまま再度報告する。


「さようでございます。

 兄君、エンリーケ様は魔女ユウキと一騎打ちにおよび、ご殉教じゅんきょうなさいました」

「……なにかの間違いでは?」


 ユーリにとって肉親の死である。

 あまり仲のよい兄妹ではなかったが、それでも双子として今日まで一緒に育ってきた間柄あいだがらだ。

 死にました、はいそうですか、というわけにはいかない。


「配下として連れていかれました5000の悪魔ディアブルりとなり、再集結はむずかしいものと思われます。

 エンリーケ様がご存命であれば逃げ去る悪魔ディアブルたちに逃げないよう命ぜられたことと思われますので、やはり、その」

「そ、そうか。

 ご苦労であった」


 まだユーリは半信半疑であったが、それからも悲報は相次あいついでもたらされる。

 エンリーケが死んだことを彼女は受け入れるしかなかった。

 

 死んだ。

 あの兄が。

 傲慢ごうまんままで、自信満々で力強かったあのエンリーケが。


 出発前はあんなにギラギラと活力に満ちた笑顔で飛びだしていったのに。

 こんなに、あっさり。

 もう兄には会えないのか。

 嫌味な笑顔も、きつい罵声ばせいも、もうこの世には存在しないのだ。

 殺されてしまった。

 しかもあのユウキに。

  


 ――それが、戦争というもの。

 ――これは自分たちが始めたこと。すべて自業自得。



 ガタ、ガタガタガタガタ!


 ユーリは今まで体験したことがないくらい激しく全身がふるえ上がった。

 止められない。

 左手で右手のふるえをおさえようとする、しかし右手も同じくらいふるえていた。

 足が。どうが。口が。視線が。

 自分の存在すべてがふるえて止まらない。


「ユーリ様!」


 側仕そばづかえの侍女じじょが駆け寄ってユーリの手をとる。

 しかし手のぬくもりも感じられないほどユーリは全身をふるわせ続けた。


 まだ初戦が終わっただけである。

 戦争は続く。

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