代理、出撃
『おい、代理』
リカルドは騎士団総長代理を呼んだ。
しかし代理から返事はない。
『代理』
『…………』
もう一回呼ぶ。
代理は戦況を見守るのに夢中の様子だった。
『おいクソガキ!
ボケっとしてんじゃねえぞゴラ!』
騎士団総長代理・相沢勇輝はビックリして機兵ごと跳びあがった。
『ええっ!?
ああ、代理って俺のことか!?』
やっと自分の身分を思いだしたらしい。
実に頼りない上官である。
《呪われし異端者たち》のことばかり馬鹿にしていられない。
聖騎士団側もたいがい無茶な状態だった。
『もうすぐ奴は動くぞ!
準備しとけ!』
『え、も、もう?
まだはやくない?』
『グチャグチャ言ってねえでさっさとしろッ!』
のん気な上官殿をいつもの調子で罵倒して急がせる。
『もっと良く戦場を感じろ。
世界の王様とやらはちっとも思い通りにならねえもんだから、すっかりイラついてやがる。
自分たちが押されている、何とかしたい。
だがいい知恵がねえ、人材もねえ、だったらあのガキは次に何をしたがる!?』
『ええっと……?』
勇輝は自分に当てはめて考えた。
味方がピンチだ。
そしてピンチを打開する力が自分にはある。
他の仲間たちにはない。
ならば。
『…………自力で突破口を開こうとする、かな?』
『分かったならさっさとしろボケ代理が!』
『り、了解!』
勇輝は直属の機兵団に呼びかけ、出撃準備をさせる。
『赤備え、もうすぐ出るぞ!
いいな!』
『オー!』
全身真っ赤な鎧で武装した天使の軍団が、天にむかって拳を突き上げた。
完全無人の小型熾天使タイプ。
とりあえずこの場に用意できたのは50機。
それ以上だと戦えるほどのエネルギーが維持できなくなってしまう。
『エンリーケは俺が止めますよ』
『ああ、できなきゃヤベエことになっちまうな』
リカルドに言われてから、よくよく戦場の様子を考えてみた。
味方が敵陣中央に深々と侵入したこの状況は、第一騎士団長エーリッヒが奴に討ち取られたという状況に似ているような気がする。
味方は逃げ場もなく、そして密集している。
考えれば考えるほどヤバそうに思えてきた。
エンリーケの技は勇輝も一度くらったことがあった。
敵から魔力を奪い取り、奪った魔力を超高温の光弾にかえて撃ってくる危険な技だ。
かすっただけで機兵の手足を溶かすほどの殺傷力がある。
直撃すればまず助からない文字どおりの必殺技だ。
『だが、もう同じ手は通用しないぜ。
聖女に同じ技は二度通じないことを教えてやる!』
赤備えの天使軍団を引きつれ、クリムゾンセラフが大空へ舞い上がった。
同時にエンリーケも動き出す。
グスターヴォたち決死隊の暴れぶりが見逃せないレベルになって来たのだ。
家来である悪魔たちに対処できないなら、自分の手でやるしかない。
まさにリカルドの読み通りの展開になって来た。
赤い天使と黒い天使、二度目の対決である。





