たとえ狂気の道といえど、戦友とともに
『そら人間だ! 貴様らの大嫌いな人間がここにおるぞ!
殺しに来い! もっともっと集まってこんか!』
もっとも激しい最前線で気炎をあげつづけるグスターヴォ。
勇輝は彼が乗る天馬騎士にある新機能をつけていた。
『自己修復機能』である。
天馬騎士の中にも人工知能は搭載されている。
その人工知能がグスターヴォたちから魔力を吸収し、損傷した守護機兵の部品をどんどん再生させていく。
だから天馬騎士が壊れてグスターヴォたちが取り残される、ということは無い。
天馬騎士が死ぬときは、グスターヴォたちの魔力が搾りつくされた時だ。
『グアオオオオ!』
グスターヴォの挑発にのせられて魔獣の群れが次々と天馬騎士に襲いかかってくる。
爪が。
牙が。
あるいは毒や炎が絶えまなく天馬騎士の機体を傷つける。
だが同時に急速な勢いで機体のダメージが回復していく。
まさに聖女のクリムゾンセラフと同じ力だ。
『ガッハッハッハッハッハ!
死ねぬなあ、そんな弱い力では死ねぬなあ!』
百戦錬磨の老将は笑う。
傷がなおるとはいえ、痛みは感じているはずだった。
引き裂かれ、噛み砕かれ、毒に溶かされ炎に焼かれ。
常人ならとても正気をたもっていられないほどの苦痛を味わっているはずだった。
だがそれでも老将は笑う。
肉体の苦痛などとうの昔に超越している。
戦歴数十年。誰よりも深く長く騎士道をつらぬいてきた。
痛みは長年の悪友であり、もはや恐れるような存在ではない。
『さあ殺せ、殺せ!
わしはまだ生きておるぞ!
殺せ殺せころせええ!!』
天馬騎士から竜巻魔法がはなたれ、数匹の魔獣を吹き飛ばした。
あいた隙間に新しい魔獣が突っ込んでくる。
それをグスターヴォはまた叩き潰す。
『殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ!』
奮闘するグスターヴォにはげまされ、部下たちもまた痛みを恐れず死闘を演じる。
『殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ!』
『殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ!』
『殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ!』
決死隊は叫びながら戦いをつづける。
戦いながら叫びつづけた。
『殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ!』
『殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ!』
『殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ!』
戦闘中に複雑なセリフなど言えるわけがない。
しかし何かキーワードがあると雑念が消え、団結心がめばえる効果が得られた。
殺せ、とは尊敬する上官がいま叫んでいる言葉である。
文字数が少なくて採用しやすい、そして便乗しやすいキーワードだった。
『殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ!』
『殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ!』
『殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ!』
敵陣中央を突き進む決死隊たち。
彼らは許されて上に『元』がつくようになったとはいえ、犯罪者の集団である。
負けて逃げ帰れるような場所はもはやこの世のどこにもない。
前に、ただひたすら前に。
『殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ!』
『殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ!』
『殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ!』
士気の高い精兵ぞろいとはいえ、それでも少人数である。
運の悪いもの、力の弱いものから少しずつ人数が減っていく。
しかしそれでも男たちは止まらない。
敵をたおす。
前に進む。
それ以外なにも考えない戦争の権化となって、男たちは叫びまくった。
殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
はたして敵に殺せといっているのか。
それとも敵を殺せといっているのか。
本人たちはきっとどうでもいいと思っている。
彼らはただ酔っていた。
この『人生のおまけ』の瞬間を、美酒を飲むのと同じように陶酔していたのである。
彼らの人生はすでに一度終わっている。
終わっているのだから、あとはただ仲間内でとことん楽しむだけだ。
これは彼らにとってきっと同窓会のようなものなのだ。
仲間たちと再会し、昔を思いだして酔い、歌い、暴れる。
死にゆく仲間を見てもああコイツ先につぶれちまいやがったと、そう思うだけだ。
彼らは地獄のような最激戦地にありながら、誰よりも天国を感じていた。
グスターヴォの言い方によれば、天への階を共にのぼっていたのである。





