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第二話 駆けつけたヒーロー、高身長すぎ問題

 何が起こったのかまるで分からず、ただその場をぼう然と見つめる勇輝。

 そこでまたもや思わぬ事態が発生した。


『そこまでだ悪魔ディアブルめ、ここからは我々が相手をしてやろう!』


 上から降りそそぐ謎のヒーローボイス。

 声がしたのは先ほど転げ落ちてきた丘の上だった。

 そこには何と騎馬にまたがった中世ヨーロッパ風の騎士たちが整列しているではないか。


『おぞましきケダモノどもめ、正義の力を思い知るがいい!』


 馬上でポーズをつけている彼の格好は、全身をすっぽりとおおう銀色の全身鎧。

 右手には長大な馬上槍、左手には大楯。

 どこからどう見ても騎士。

 英語で言うとナイト、フランス語ならシュヴァリエ、ドイツ語ならリッター……いやそんな事はどうでもいい。

 

 とにかくそこには、全身を鋼鉄の鎧で武装した騎士たちが臨戦態勢で整列していたのである。

 その中の一人が、矢の装填そうてんされていないクロスボウを握っていた。

 どうやら勇輝を危ないところで助けてくれたのは、このクロスボウで放った矢らしい。


『全軍、突撃ーッ!!』

『ウオオオオオオオオオオオオオッ!』


 騎士たちが雄たけびを上げながら一斉に丘をけ下りてくる。

 巨獣の群れも騎士たちの突撃を真っ向から迎え撃った。


――グウオオオオオオーッ!

『ドオオウリャアアアッ!』


 叫びながら激しくぶつかりあう騎士と巨獣。

 その様はまるでファンタジー映画でも観ているかのようだ。

 それは熱く、激しく、格好よく……そして、すさまじく奇妙であった。


 いくらなんでも大き過ぎるのだ、人も、獣も。


 象よりも巨大な肉食獣。

 それに匹敵する巨大な騎士たち。


 ぼう然とそれを見上げていた勇輝は、まるで自分が小人にでもなってしまったかのような感覚を味わわされてしまう。

 そしてこの騎士たちの奇妙なところは、単に大きさだけではなかった。


 近づいてきて初めて気づいたのだが、彼らの体型があきらかに人間のそれとは違う。


 人の上半身に馬の身体がくっついている。

 決して眼の錯覚さっかくではなかった。

 槍と楯を持った屈強くっきょうそうな人間の上半身。

 その下にあるのは二本の足ではなく、俊敏しゅんびんそうな四つ足の馬体なのだ。


 まるで古代神話に出てくる半人半馬の怪物ケンタウロス。

 それが銀色の全身鎧をまとって戦っているのだ。

 しかも、なぜか勇輝を守るために。


 勇輝は混乱する頭をおさえながら、ヨロヨロと立ち上がった。


(俺はいったい何を見ているんだ。

 これは夢か、それとも幻か)


 頭がおかしくなりそうだ。

 いや、すでになっているのかもしれない。

 目の前で起こっている光景がまるで理解できなかった。


(あの化け物はなんだ。

 あの騎士たちはなんだ。

 そもそもここは一体どこなんだ。

 俺の住む町にこんな馬鹿でかい連中はいない。

 こんなだだっ広い草原なんてない。

 なんだってんだ、いったい何が起こっているんだ!)



 混乱する勇輝の身に、横合いから強烈な突風がおそいかかった。


 ビュオオオオッ!

 バサッ、バサッ!


 勇輝はとっさに両腕で顔をかばう。

「うわああっ、今度は何だよっ!?」

 あまりの風圧に目もあけられない。

 勇輝は身をかたくして風がおさまるのを待った。

「や、やんだか、次から次へと何なんだよ……ゲッ!」


 風が収まり目を開けたそこには、これまた非常識なほどに巨大な銀色のたかが翼をたたんで直立していた。

 巨大な狼、巨大なケンタウロスときて、今度は巨大な鷹の登場である。


 いかにも獰猛どうもうそうな面構つらがまえ。

 刃物のように鋭いくちばしと爪。

 まさに空飛ぶ殺し屋だ。


 銀色の鷹はギラリと輝く恐ろしい視線で勇輝の姿をにらんでいた。

 絶体絶命のピンチ、再び。

 と思ったその時。


 鷹の胸部がブシューっという音をたて、まるで自動ドアのように開いた。

 そしてそこからなんと、普通サイズの人間が姿を現したではないか。


(うわ!)


 その人物を一目見て勇輝は思わず息をのんだ。

 それは男の眼から見てもかなり美形に属する男性だった。

 年は十代後半くらいだろうか。

 腰まで伸びたサラサラの金髪。

 強い意志を秘めた青い瞳。

 整った鼻梁びりょう

 そして体には一片の贅肉もなく、見事に引き締まった芸術的な体型をしていた。


 まるで少女漫画に出てくる王子様みたいな人物だ。


(こんないい男に生まれていたら、俺の人生もずいぶん違う物になっていただろうなあ)


 いま自分が置かれている危機的な状況も忘れて、勇輝は見とれてしまった。

 王子様(?)も勇輝の事をじっと見つめている。

 少し驚いたような表情をしていた。


(いやー、俺がもし女だったら絶対ほれちゃうねこの人)


 そんな事を心の中でつぶやいていると、彼は開口一発こう言い放った。


「お怪我はありませんでしたか、お嬢さん」


 その一言で勇輝のこめかみにピキッ! と青筋が立った。


(お、お嬢さんだと……?)


 ちなみに勇輝の外見はどこからどう見ても十代半ばの男である。

 しかも中学時代の担任教師に「お前の顔は怖い系のブサイクだな」と面と向かって言われたほどのコワモテだ。

 そんな顔の男が、いささか時代遅れな詰襟つめえりの学生服を着ているのである。

 間違っても女に見える訳がない、つまりこれはイヤミだ。


『おやおや、そんな怖い顔をしているくせにオドオドとおびえて、情けない男だな君は?』


 そうバカにしているのだと、勇輝は判断した。


前言撤回ぜんげんてっかい、コイツ嫌なやつだ)


 勇輝の表情は、みるみる不機嫌そうにゆがんでいった。

 だが目の前にいる金髪美形さんはそんな事にはまるで気がついていないようで、紳士ぶった微笑を浮かべている。


「それにしても無茶をしますね。女の子が一人でこんな所をうろついているなんて」


 ピキピキッ! 勇輝の青筋がさらに太さを増した。


『男のくせに自分の身を守る事もできないのかい、だったら家で大人しくしていろよ』


 そうバカにされているように聞こえるのだ。

 顔をしかめる勇輝の態度を無視して、金髪美形さんは洗練された態度で手を差しのべる。

「さあここは危険です。早く安全な場所に避難しましょう、お嬢さん」


 プツン。

 勇輝の中で何かがはじけた。


「ちょっとアンタ!」


 勇輝は差し伸べられた手を乱暴に払いのけた。

 仮にも助けに来てくれた人間に対してこれはひど過ぎるかとも思ったが、やってしまったものは仕方がない。


「俺のどこが女に見えるってんだよ!」

「は?」

「俺は男だ、バカにするなっ!」

「……どういう冗談です?」


 美形さんは青い目を丸くして、沈黙ちんもくしてしまった。


「どうした、何か言い返してみろよ。

 ここまで馬鹿にされたら俺だって……ん?」


 その時、勇輝は何かがおかしい事に気がついた。


「ん、んん? あれ変だな。

 アーアー、本日は晴天なり、アメンボ赤いなあいうえお……」


 今まで気がつかなかったが、声がおかしい。

 何だこの甲高い黄色い声は。

 これじゃあまるで女の子の声じゃあないか……?


 勇輝は妙な不安にかられて頭をかきむしった。

 するとやけに長い髪が指にからまる。


「……はあ?」


 勇輝はまたもや疑問符ぎもんふを口にした。


 長い髪。

 しかも素晴らしくサラッサラのなめらかな手触りだ。

 これまたおかしい。

 いつの間にこんなに髪が伸びたのだ?


 こう言っては何だが、勇輝は身だしなみにあまり興味の無いだらしない男だ。

 だから工夫も何もない黒髪の真ん中分けだったはずなのだが。

 一体なんだ、この長い金髪は?


 ゴミか何かがからまっているのかと思って、試しにグイッと引っ張ってみる。


「いててて!」


 頭皮とうひが引っ張られる激痛に、たまらず悲鳴を上げた。

 間違いなくこの金髪は勇輝の頭から生えていた。


 でも、どうして?


「……あの、あなた一体何をしているのです?」


 目の前にいた美形さんは、勇輝の奇行を不審そうに見つめた。


「いやあの、変なんだ、何か色々と変なんだよ!」


 何がどう変なのかうまく説明できない。

 何もかもが変だった。

 目がさめたら知らない場所にいて。

 馬鹿でかい怪物に殺されかけて。

 声が高くて髪が長くて金髪で……。


「あぶないっ!」

「そう、メチャクチャ危ない目にもあったんだ、……ってうわわわっ!?」


 金髪美形は突然勇輝に飛び掛ると、地面に押し倒した。


「やめろバカ、俺にそんな趣味はねえ――」


 見当違いの苦情は、巨獣の悲鳴によってかき消された。


――ギャウゥン!


 首だけになった狼が、勇輝たちの真上にってきたのである。

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